55話:その仕事は何のために
お待たせしました、55話更新です!
次回更新ですが、忙しいので来週更新ができないかもしれません。
もし11/11に更新が無かった場合、次回の更新は11/18になります。
「ほらっ、たーんと召し上がれ! 今日は近くのコッケー農家さんから生みたてタマゴをもらったからねえ! モウモウ肉のスキヤキだよ!」
「ハフっ、あむあむ……んまー! んまいぞこれー!」
「んーっ、おいっっしい! 黄身に絡めると旨味と甘さが一緒にっ……ずるいわよレナータ! 毎日こんなおいしいお肉食べてたわけ!?」
ウメさんがドカリとテーブル上に置いた鍋、その中にはたっぷりのモウモウ肉と青々とした野菜と一緒に詰め込み、グツグツと煮込まれている。
エリーちゃんとシャーロットは、ヒョイと匙の上にお肉をのせあげ、卵を溶いた小鉢の中へと通して食べると、舌鼓を打つ。
「毎日は食べてないよぉ。はふっ、んむんむ……おいひぃ」
「ガーウー、ガファ~」(いーなー、俺も食べたいな~」
「ティコ駄目だよ、塩気が多いからあげられません!」
「ガウゥー」(そんなー)
モウモウの出荷を邪魔する集団、「モンスターラバーズ」を見事追い払った俺達は、またまたゴンズのおっちゃん宅でご馳走に預かってるのであった。
それにしてもスキヤキがとても美味しそうである。
東の国の食べ物で、我が家でもドンゾウさんが作ってくれた事がある。
だけど……この国で取れた新鮮な食材で作られたスキヤキかぁ……食べたいなぁ……。
「んーまー! ……でもあたし達までご馳走になっちゃってよかったのかなー?」
「がっつり食べておきながらいうセリフじゃないわよね。はむっ」
「レナータちゃんのお友達なら大歓迎よ!」
「はいっ!! 友達ですっ!!!」
シャーロットよ、そんなに喰い気味に肯定しなくても友達だって分かってるって。
まあエリーちゃんの言う通り、確かに二人は今回の件には余り関われなかったものの、そんな事は些事だと言わんばかりにウメさん達がご機嫌なのである。
「今日の話を聞いて、私スッキリしたのよー。あのうるっさいモンスターラバーズの連中を追っ払ってくれたんですってね!」
「そういえばあの人達って、一体何だったんですか?」
レナータちゃんはウメさんに、昼間の連中たちについて聞いてみた。
それについては俺も気になっていた所である。
アイツらに関しては、俺もレナータちゃんも怒った勢いで追い払ったようなものだからなぁ。
危険な奴らなら、それはそれで情報は欲しい。
「あいつらかい? レナータちゃんも見たと思うけど、あいつらは魔物の保護だって言って、いっつも邪魔しにくるのよ、うざったいたらありゃしない!」
「いつもなんですか……」
「もう1年くらい前からになるかしらね、うちに嫌がらせをし始めたのは。牧場は牧場でモウモウ達を愛を持って育ててるのに、あの連中は自分達が理解できない愛にはとことん無理解なんだろうねぇ」
どうやらモンスターラバーズは出荷のたびに、お昼の時みたく嫌がらせをしてくるらしい。
しかもそれを1年間も続けているとは、これは相当拗らせているな。
「ほんと酷い連中ね。牧場がなくなったらこの国の畜産業が立ち行かなくなるってことに気付いてないのかしら」
「そうよね! シャーロットちゃんもそう思うわよね!」
話を聞いて憤慨するシャーロットに、ウメさんは共感してくれて嬉しそうだった。
(元々は魔物を虐待から守る団体だったんだろうな……。モンスターフードの登場で保護の対象が牧場にいるモウモウ達まで広がった、と)
俺は新鮮なモウモウ肉を食べながら、あの連中の事情を想像する。
心無いご主人様から魔物達を守る、その試みはきっと素晴らしいことなのだが……それをモウモウ牧場に当て嵌めるのは、筋が違うとしか言いようがない。
まったく、仕事というやつはどこの国も邪魔するヤツが居るんだなぁ。
「なあ、レナータさん」
「はい、なんですか?」
「晩飯を食い終わった後でいいんだけどよ……」
ふと、ゴンズのおっちゃんがレナータちゃんに声をかけた。
どことなく神妙な面持ちで話すおっちゃんに、どうしたんだろうと首を傾げるレナータちゃん。
「ちょいと、牛舎にきて手伝っちゃくれねえか? 今日出荷したモウモウ達がいたとこなんだけどよ」
「……? はい、いいですよ」
「ガウガウッ?」(こんな夜中に?)
どうやら掃除でも手伝ってもらうつもりらしい。
しかし、あえてこの時間にやることかと言われればそうではないので、俺もレナータちゃんもますます首を傾げるのであった。
呼び出された先の牛舎は、とても静かだった。
当然だ、昨日までここにいたモウモウ達は出荷され、すでにその一生を終えている。
「……」
ゴンズのおっちゃんはモウモウ達が居たはずの柵の前に立っていた。
何というか、どこか寂しそうな顔つきだった。
「ゴンズさーん、来ましたー」
「ガーウー」(きましたー)
「おお、良く来てくれ――っぬおお!? テ、ティコも来たのか、びっくりしたー」
「ごめんなさい、ティコもついてきたいって言ってたから連れてきちゃいました。モウモウ達はもういないから良いかなって……」
暗がりからぬうっと現れる赤い魔獣に、思わずビビるゴンズのおっちゃん。
ふはは俺が夜中に女の子を一人外に放り出すわけなかろう!
まあゴンズのおっちゃんを信頼していない訳ではないが、夜だし、居た方が二人とも安全だろうし、俺でも何か手伝える事があるだろうと気を利かせたのである。
「い、いや、謝らんでもいいさ。俺がビビっただけだし、それにティコにもお礼を言わなくちゃいけないからな」
「ガウ?」(俺にも?)
「えっ、お礼って……お手伝いじゃないんですか?」
「ああ、言葉のあやだよ。今からはなすことは、とてもじゃねえが家内には話せないしな」
どうやら作業があるから呼び出した、というワケではないらしい。
モンスターラバーズを追い払ったことに対して、改めてお礼を言いたいのだろうか。
でもウメさんに話せない事とは一体……?
「まずはレナータさんにティコ、本当にありがとう。アンタ達がアルバイトに来てくれて、心の底から良かったと思ってる」
深々とゴンズのおっちゃんは頭を下げる。
まるで俺たち二人が命の恩人なのかと思うくらい、とても真剣な感謝の意だった。
「ふえっ!? そ、そんな、大したことはしてないですよ! あの人達が酷い事を言うから、ついカッとなって追い払っただけで……」
当然、俺もレナータちゃんもそこまでの事をしたつもりはない。
お昼のアレはモウモウ達の出荷を手伝ったというより、アイツらが気に食わないから追っ払っただけなのだから。
「いや、大したことなんだ。少なくとも俺にとっちゃあ、あの時アンタらが来てくれたのは、命を救ってくれたのと同じくらい感謝するべきことなんだ」
それでもゴンズのおっちゃんは頭をあげてはくれない。
戸惑う俺達に、おっちゃんはそのまま言葉を続ける。
「……実はな、俺ぁ牧場をたたんじまおうかと思ってたんだよ」
「――え?」
「ガウ?」
衝撃の言葉だった。
アルバイトをしていたから分かる、ゴンズのおっちゃんは牧場で働くことが好きで働いている側の人間だ。
それなのに、この牧場を辞める? それこそ、モンスターラバーズの言いなりみたいに?
「レナータさんもアイツらが言ってた事、聞いてただろ? いまや魔物の主食はモンスターフード、モウモウ肉は主食にならなくなってるって。あれは――事実なんだ」
「実際、牧場の売り上げは年々落ちちまってる。このまま行きゃあ、アイツらの言った通りモウモウ肉は廃れて、モンスターフードだけで魔物を育てる時代もそう遠くはねぇ」
そう、だったのか。
アイツらも、適当なことをでっち上げているわけではなく、実際にこの牧場は段々とこの国での立場を失くしていっていたのか。
「じゃあ、最初に私のアルバイトを断ろうとしたのも……」
「ああ。未来ある若者に、近いうちに必要とされなくなる場所に来てもらうっつーのが申し訳なくてな……」
アルバイト初日、ゴンズのおっちゃんがレナータちゃんのアルバイトを断ろうとした裏には、そんな事情があったのか。
モウモウ牧場はこれからどんどん廃れていく、そんなところで働くより別の場所でアルバイトしたほうが良いと。
「それに、辞めようとした理由はそれだけじゃねぇ。何よりも……「キツかった」んだよ」
「キツかった?」
確かにモウモウ牧場の労働は肉体労働が主だが、コレはきっと違う意味だ。
なんとなくだが俺には分かる。
ゴンズのおっちゃんのその顔は、俺と同じで、働くことに絶望を感じた顔だったから。
「誰かが必要としてくれるから、俺ぁモウモウを一生懸命育てられたんだ。最後にゃ肉になっちまうとしてもよ。モウモウが好きな俺にとっちゃ、生まれてから死ぬまで世話できるここは天国だし、おまけに他の誰かの役に立てる。――人間とモウモウが「共存できる」この仕事に、誇りとやりがいを持ってたんだ」
「だから、キツかったんだ。あの連中に、「もう牧場は必要ない」だとか「モウモウ達を無駄に殺すな」なんてずっと言われ続けて、実際に売り上げ……モウモウの肉を必要とする奴らは、減り続けてるっていう現実がよ」
「アイツらに邪魔され続けて。最近の俺ぁ、ずっと悩んでたんだ。モウモウ肉がいらないっていうんだったら、俺は、何のために働いてる? 誰にも必要とされねぇのに、どうして俺はモウモウを育てて、殺してるんだ……ってな」
ゴンズのおっちゃんが、モウモウ牧場を辞めようとした本当の理由。
それは、かつてあったはずの「仕事に対するやりがい」が失われたことだった。
(……わかるよ。自分のやった仕事を、みんなから「必要ない」って言われ続けたら、辛いもんな)
仕事というものに対してやりがいの「や」の字も感じられなかった俺には、ゴンズのおっちゃんのいう事が痛いほど理解できた。
特に牧場仕事にやりがいを見出していたおっちゃんは、猶更つらかっただろう。
誰からも労われず、感謝されることもなく、成果を否定され、蔑まれる。
頑張っても頑張っても、その目には自分を否定する人間しか映らない、自分が本当に必要とされているのかが分からなくなる。
それは、想像を絶する苦痛だ。
「そんな――そんなこと無いです! 少なくとも、私とティコはモウモウ達にお世話になってます! モウモウ肉が無いとティコは飢え死にしちゃいます!!」
「ガウガウ!!」(そうだそうだ!!)
レナータちゃんはお昼の時と同じように、俺達にはモウモウ牧場が必要であると強く訴える。
俺だって同じ意見だ、この牧場が無くなっていいなんて少しも思っていない。
すると、漸くゴンズのおっちゃんは顔をあげて……にかっ、と笑顔をみせた。
「……ああ! 実際はそんなこたぁぜんっぜん無かった! 今俺の目の前に、モウモウの肉が必要な奴が居てくれた! 「牧場が必要だ」と言い切ってくれたことに、どれだけ、俺が救われたか! ありがとう、レナータさん、本当にありがとう……!!!」
「ゴンズさん……!」
憑き物が落ちたように晴れやかに笑うおっちゃん、その眼には僅かに涙が溜まっていた。
レナータちゃんの存在が、ゴンズのおっちゃんを救っていたのだ。
まったく……凄い子だよ、レナータちゃんは。
「そしてティコ! モウモウ肉を食ってくれて本当にありがとうな……! ウチの肉は旨かったろ? 俺の自慢のモウモウ達なんだ……!」
「ムギュっ!?」
おおふ、感極まったおっちゃんに抱き付かれちゃったよ。
……でも、悪い気はしないかな、それにご馳走になったお肉は過去最高に美味しかったし。
「それじゃあ、牧場をたたむって話は――」
「心配かけちまって悪いな、勿論そんな話は無しだ! まあ売り上げは実際減っちまってるから、いろいろ工夫するつもりだけどよ!」
「――っはい! よかったです!」
「ガフンガフン」(よかったよかった)
力強く答えるゴンズのおっちゃんに、俺達も笑顔でうなずく。
ふぅ、最初は何事かと思ったけど、ゴンズのおっちゃんの迷いも晴れたしこれで一件落着だと―――
「さて! 話しっつうのは以上だ、ありがとよ」
「いえ、どういたしましてです!」
「へへっ。――っと、もうずいぶん暗くなっちまってるな。よし、レナータさん、今日は友達と一緒にウチに泊まって
―――そう、思っていた。
ドンッッ!!! と、何かが爆発したような音が、俺達に叩き付けられた。
「きゃぁっ!?」
「―――っっ! な、なんなんだ!?」
「ガフン!?」(うぉお!?)
爆音に思わず怯む俺達。
今いるこの牛舎は何ともなっていないことから、音の発生源は外。
何が起きたかを確認するために、俺達は外へと急ぐ。
頭によぎる嫌な予感を必死に抑えながら、牛舎の外にでると―――
「ガウウ……!」(そんな……!)
「外に繋がる門が、吹き飛んでる……!?」
牧場の端にある、外と繋がる壁。
そこにあった緊急用の出入り口である門が、跡形もなく消し飛んでいた。
まずい、あれじゃ外から魔物が侵入してくる!
「ああああ!!? モウモウ達が、モウモウ達が逃げ出してやがる!!?」
「「「ブモオォオオオオオ!!!?」」」
暗い中に目を凝らすと、そこには牛舎から飛び出していくモウモウの群れが。
しかも最悪なことに、そのモウモウ達は――――門の外へと向かっていた。
今回の解説
コッケー:鳥形魔物でありながら、飛ぶことが出来ない珍しい魔物。白い羽毛に覆われており、高さは大体1メートル程度。お肉はサッパリして美味しいし、卵も甘くて栄養たっぷり。仲間意識が非常に強く、一羽を苛めると無数のコッケ―が逆襲しに四方八方から飛びかかってくる。相手が勇者だろうと死ぬまで攻撃してくる。




