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47話:新しい朝と風(強)

お待たせしました、47話更新です!


すみません、忙しいのは再来週でした……。

来週9/8(月)は通常通り更新します!

「く、アァァ……」


 たっ、たっ、たっ、と我がご主人が朝食の準備に取り掛かる足音を聞いて、俺は欠伸と共に目を覚ます。

 シャーロットとの決戦にいつも通りの授業、終始ヘトヘトだった一日を何とか過ごして、新しい一日がやって来た。


 いやあ昨日は色々あった、なんせ宿命のライバルとの決着をつけたと思ったら、その日のうちに友達になってたなんて誰が想像できるだろうか。

 あれだけ「バカ」とか「戦えー」だとか「力があるのに勿体ない」などと言っていたシャーロットも、レナータちゃんから友達認定されてると知った途端に大人しくなったし。

 


 結局のところ、シャーロットはライバルとしてのレナータちゃんが居なくなってしまうのが嫌で(さびしくて)、戦いから離れようとする彼女に当たり散らしていた――というのが真相のようだ。

 そもそもレナータちゃんにとってはシャーロットは友達の括りで、戦いだとかを抜きにしても今までの関係が壊れてしまうなんてことは無かったわけで、そういう意味では無益な争いだったというべきか。



 それにしてもシャーロットはちょろいな……いや、に恐ろしきはぼっち故の寂しさか。

 レナータちゃんに友達だと告げられた時のあの安心した表情、きっと在学中初めて出来た友達なんだろうなぁ……。


 あ、さも共感してるように言ってるけど、俺にだって友達はいるからね?

 就職したきり会ってないけど、もう数年近く会ってないけど友達いるからね。



「ティコ、おはよう! 今日もお寝坊さんだねー、えへへ」

「ンナァ」(おはよー)


 寝床から起きてきた俺を満面の笑みで迎えてくれるレナータちゃん。

 二人っきりの時だと彼女はいつもこんな感じで、ティコ(おれ)を見るたびにニッコニコの笑顔になっている。

 他にも、特に用事もないのに名前を呼ばれたり、聞き耳を立てようと耳をピコピコ動かすだけでも可愛いと言いながら抱きつかれたりする。


 それはまるで赤ん坊の一挙一動に歓喜する親の如く、まあ要するに親バカならぬ飼い主バカが発動しているわけだ。

 とはいえ、まあ、別に飼い主バカが迷惑とは感じていない。

 俺としてはレナータちゃんが笑ってくれるならまあ良いかと思ってるし……その、嬉し恥ずかしくはあるけど。



「はい。お寝坊さんなティコですが、昨日はとっても頑張ったので。今日は「特製ネコまんま」をご馳走しちゃいます!」

「グゥアッフゥーーーーウ!」(いやっふーーーーう!)


 よっしゃあぁぁ! 久しぶりの炭水化物だイヤッホーウ!!!

 何時もの生肉の隣に、コトリと小さなお椀が置かれる。

 ホカホカの白米にぬるめのスープ、そして乾燥させた魚肉もブレンドした、東の国名物のネコまんまだ!


「ハグハグッ、はむっ、ムグムグ……。ベロベロ……」

「ふふっ、ティコったら真っ先に食べちゃってる。そんなに気に入ってるんだねー。えへへへ……」


 無我夢中でネコまんまを貪る。

 白米と共に薄味の不思議な香りがするスープ(ドンゾウさん曰く、確か「ミソ」というモノが使われてるスープだったか)を掻き込んで、しっかりと咀嚼する。

 まずスープの優しく素朴な味が口いっぱいに広がって、白米を噛むごとにさり気ない甘味がにじんできた。

 更に食べ進めると、今度は魚肉の細やかな塩気がまろやかなスープとお米の味にアクセントを加えてきた。


(はあぁっ……んまい。昔は味がしないからお米はそんなに好きじゃなかったってのに、炭水化物から離れてる今なら、お米の美味しさが分かる……!)


 ドンゾウさんはよくお米を食べてるけど、彼の気持ちが心で理解できた。

 絶品、絶品である。

 レナータちゃんの家にお邪魔した時以来の炭水化物に、起床直後の眠気などすっかり吹っ飛んでいた。


(しかもこれに高級肉までついてくるってんだから、最高だよな!) 

 

 魔法でコッソリ焼きながら、肉もガブリといった。

 いやはや、最高の朝食だ、炭水化物が添えてあるだけでこうも違うなんて。

 ありがとうレナータちゃん、そしてネコまんまの存在を教えてくれたギュンター卿、俺は今日も健康です。



「ガウガウガファガファファ」(ごちそうさまでした)

「ごちそうさまでしたー、ねぇティコ、触っていい?」

「ン、ガフぅー――ファっ!?」(うん、いーよー――えっ!?)


 ふう、満腹満腹……と気が抜けてしまったのが仇になり、流されるままレナータちゃんにお触りオッケーと言ってしまった。

 いつもだったら恥ずかしくて断ってるのに、なんたる策士!?


「やった! うりうりー」

「ホヒャアーーン!?」


 まんまと言質をとったレナータちゃんは、俺目掛けてダイブし、たてがみに顔を埋めて頬擦りタイム。

 ちょ、いい匂いが、あ――そこ、そこ気持ちいい……!


「えへへー、最近中々触らせてくれないから、今のうちにたっぷりティコを補給しないとねー」

「ホヒャァァァァン……」


 こうなってしまったら、俺にはレナータちゃんを振り払うこともできない。

 彼女の気が済むまで撫でくりまわされるのであった。




「それじゃあ学校にいこっか!」

「ガフー」


 レナータちゃんはたっぷりとティコを補給(?)したおかげか、お肌がツヤッツヤになっていた。

 一方の俺は、妙に毛並みがしんなりしてしまったんだけど……レナータちゃんマジで俺から何か吸い取ってない? 実はサキュバスがご先祖にいたりしないよね?


 とまあ、ありもしない疑念を覚えつつも、もう学校に行かねばならない時間になった。


 レナータちゃんは今日の学校で、また職場体験が受けられないかセラ先生に相談するつもりなのだ。

 もうシャーロットと因縁も決着はついたし、障害になるものは無いだろう。

 レナータちゃんが将来何をしたいのか、その探求が今日から始まるのである!


 というわけで俺はご主人様の新たな門出を祝う気持ちで、外への扉までレナータちゃんをエスコートする。


「ガウッ!」

「ふふっ、ありがとティコ」


 しゅるりとドアノブに尻尾を巻きつけて、器用にドアを開けたその時だ。




「キュアー♪」


 いた。

 いや何がって、つい昨日死闘を繰り広げたばかりの、空色のドラゴンが目の前に君臨していた。



「オギャッホーーーーン!!?」(おぎゃあああ!?)



 ドアを開けたら体長2メートルを超えたゴツゴツのドラゴンがお迎えに上がっていました、なんてシチュエーションを体験したら誰だって叫び声の一つくらいあげたっていいと思うんだ。

 ココは妙にニコニコした表情だったがインパクトを薄めるには至らず、俺は情けない声で叫ぶ。


「キャッキャッ」

「こ、こらっココ! ドアの前にいたらレナータがびっくりしちゃうかもしれないじゃない!」


 そんなココのご主人様であるシャーロットは、何故か隠れるように相棒の後ろにいた。

 どうやらココはワザと驚かす為に居座っていたらしい、シャーロットは止めさせようと尻尾を一生懸命引っ張っている。


「どうしたのティコ――って、あれ? シャーロットちゃん?」

「うぇ!? あ、レ、レナータ、おおおおはよう! きっ、奇遇ね、ちょうど今通りかかったとこなの!」

「うん、おはよう。そうなんだ、シャーロットちゃんも丁度出かけるとこだったんだね」


 そしてレナータちゃんが出てきた途端に、しどろもどろになるシャーロット。

 ……どう見てもシャーロットはレナータちゃんが登校する時を見計らって待ち受けていたようにしか見えないのだが、素直なレナータちゃんはそのまま信じてしまっている。

 いやまあ、シャーロットは何か悪さをしようとするつもりじゃなさそうだから別にいいんだけどさ。



「ヒィ、ヒィ、ガフゥー」(ひぃ、ひぃ、びっくりしたー)

「って、ごめんレナータ! ウチのココ、なんかティコを気に入ったみたいでイタズラしちゃって……」

「あ、それでティコが吠えてたんだ」

「キュルルッ♪」


 ココの方は明確に悪意がありそうですけどね!

 上機嫌で鳴く姿は、まるでイタズラが成功した子供そのものだった。


 シャーロットが言うには、ココは気に入った相手……というか友達と認定した魔物には積極的にイタズラを仕掛けてくるとのこと。


 え、と言うことはティコ(おれ)、ココの友達になってるの?

 魔物使いの国に来て初めて出来た友達がドラゴン……言葉だけ聞くと凄いけど、会う度ドラゴン級のイタズラされたら俺の身が保たないんですけど。



(……というか、シャーロットがどうしてここに?)


 突然のドラゴン来襲で固まった頭が漸く回復したので、少し考えを巡らせる。

 どう見てもシャーロットはレナータちゃんを待ち伏せていたようだった。

いつも通り喧嘩をふっかけてくるような雰囲気でもないし、何か用事でもあるのだろうか。



「そ、そうだ! レナータも今から学校行くのよね?」

「うん」

「そっ、そうなんだ……ね、ねえ! たまたまだけど、せっかくだし、いいいいい一緒にががががががが」

「シャーロットちゃん大丈夫!? 痙攣してるよ!?」

「が、ガルルル…………」(こ、これはもしかして……)


ガチガチに緊張しすぎて今にも倒れそうになるシャーロット。

なんとなくだが、その様子を見て彼女が何をしに来たのかが分かった気がする。



「がふっがふっ! ごほん! い、一緒に学校まで行ってあげなくも、ないわよ!?」

「がふぇー……」(一緒に登校したいだけだったかー……)


 ああうん、そうだよね。

 友達ができたら、朝一緒に登校とかしてみたいもんね、わかるわかる。

 ……いやいや緊張しすぎだろう、緊張しすぎて咳き込んでるし、最後は上から目線で喋ってるし。



「! うん、いいよ! 一緒に行こう!」

「!!!」


 ですがそこはレナータちゃん、シャーロットのお誘いを快く受け入れてくれた。

 今まで散々ひどいことを言われても、彼女は気にもしていない、いやむしろ酷いこととすら思っていないんじゃなかろうか。

 控えめに言って我がご主人、天使なのでは?



 というわけで、今日からいつもの登校風景にもう1人と1匹の友達が増えることになった。

 マンティコアに、でっかいネズミに、ヴォーパルバニーに、そしてエアロドラゴンという大所帯で、これから毎日登校することになるのだ。




「キュル。―――カァっ!!」

「ブベーーーッ!!?」

「キュルっ、キャッ♪」


 部屋から出た瞬間、ココにドラゴンブレスを撃たれた。

 風のブレスで俺の鬣が吹き流されて、その様子をみたココがキャッキャと笑っている。


 こっ、コイツ! 昨日の試合で俺の変顔見てから味を占めやがったな!?


「ティコー!?」

「こらココっ!? ブレスでイタズラしちゃダメって言ってるでしょ!?」


 シャーロットが諌めてもココはどこ吹く風である。

 これは後で聞いたことなのだが、どうにも友達が居なかったのはココも同じらしく、遊び方が分からないが故に取りあえずブレスを吐いているとの事だった。

 つまるところ、俺はココが正当な遊び方を覚えるまで、毎日悪戯ブレスを受ける羽目になってしまったのである……。


 いやほんと、俺の身が保たないんですけどーーー!?


今日の解説

ダグラスの友人関係:「友達というよりは只の同級生、数年間一度もあってない以上、ぼっちなのでは……?」「なんだァ? てめェ……」ダグラス、図星!!

シャーロット:念願の友達と一緒に登校する事が叶ってウッキウキ

ココ:精神年齢はとても幼いため、大人しいエアロドラゴンでも積極的に悪戯をしてくる。ダグラスにブレスを浴びせた時の変顔がツボに入ってるようで、多分他の遊び方を覚えてもブレスは吐いてくる模様

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