表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/62

誓い

 物心ついた時には、路上で暮らしていた。


 親はどうしたのか、家はどこにあるのか、何も覚えていない。お腹が空くと、道路の端っこで声をあげた。そうすると、道行く人が足を止め、幾ばくかの小銭をくれる。


 そうして、命を繋いでいたが、それが当たり前と思っていた。他の生活を知らなかったから。


 声を出すことは、そのまま空へ飛び立っていけそうで、気持ち良く、そのうち、暇さえあれば声をあげていた。


「おい、お前、歌は歌えねえのか?」


 目の前に、ひげもじゃの人が立っていた。






「さあ、お立合いっ!ここにいるのは天から遣わされた歌姫だ!望みごとを何でも叶える殿上人だ!」

「じゃあ、商売が上手くいくよう歌ってくれよっ!」

「私は、良い人と結婚できるように!」


「お安い御用だ!」


 ひげもじゃの人の合図で、声を挙げる。商売が上手くいきますように、良縁が訪れますように、と気持ちを込めながら。


 暫くすると、以前に歌ってあげた人たちが、目を輝かせてお礼に来た。商売が上手くいったと。良い結婚が出来たからと。その度に、歌うことが誇らしく、これで良いんだと自分に言い聞かせた。


 やがて、ひげもじゃの人は、私をきらきらしたお城へ連れて行った。そこで、王様という、別のひげもじゃの人に歌を歌うよう言われたので、歌ってあげた。


 それから、ずっとお城で暮らすようになり、沢山の人たちに歌を歌ってあげた。






「人殺しっ!」

「夫を返せっ!」

「子供を返せっ!」


 周囲に悲壮な顔をした人々が詰め寄り、口々に私を罵る。やがて、石が投げつけられる。幾度も、幾度も。彼らに悪気はない。誰もが、怒りに、悲しみに、痛みに顔を歪め、どれだけ罵っても、どれだけ石を投げても、安らぎは得られない顔だった。


 直接的な原因は、戦争だった。長きに渡る戦で、国が疲弊し、人々の生活が荒廃した。それは、国王や軍部が決めたことだったが、私も片棒を担いでいる。


 誰もが戦争に喜んでいくよう鼓舞したのだから。歌を歌うことで。




―――――― ごめんなさい。私は、もう二度と歌いません。だから、失われた魂に安らぎを。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ