誓い
物心ついた時には、路上で暮らしていた。
親はどうしたのか、家はどこにあるのか、何も覚えていない。お腹が空くと、道路の端っこで声をあげた。そうすると、道行く人が足を止め、幾ばくかの小銭をくれる。
そうして、命を繋いでいたが、それが当たり前と思っていた。他の生活を知らなかったから。
声を出すことは、そのまま空へ飛び立っていけそうで、気持ち良く、そのうち、暇さえあれば声をあげていた。
「おい、お前、歌は歌えねえのか?」
目の前に、ひげもじゃの人が立っていた。
「さあ、お立合いっ!ここにいるのは天から遣わされた歌姫だ!望みごとを何でも叶える殿上人だ!」
「じゃあ、商売が上手くいくよう歌ってくれよっ!」
「私は、良い人と結婚できるように!」
「お安い御用だ!」
ひげもじゃの人の合図で、声を挙げる。商売が上手くいきますように、良縁が訪れますように、と気持ちを込めながら。
暫くすると、以前に歌ってあげた人たちが、目を輝かせてお礼に来た。商売が上手くいったと。良い結婚が出来たからと。その度に、歌うことが誇らしく、これで良いんだと自分に言い聞かせた。
やがて、ひげもじゃの人は、私をきらきらしたお城へ連れて行った。そこで、王様という、別のひげもじゃの人に歌を歌うよう言われたので、歌ってあげた。
それから、ずっとお城で暮らすようになり、沢山の人たちに歌を歌ってあげた。
「人殺しっ!」
「夫を返せっ!」
「子供を返せっ!」
周囲に悲壮な顔をした人々が詰め寄り、口々に私を罵る。やがて、石が投げつけられる。幾度も、幾度も。彼らに悪気はない。誰もが、怒りに、悲しみに、痛みに顔を歪め、どれだけ罵っても、どれだけ石を投げても、安らぎは得られない顔だった。
直接的な原因は、戦争だった。長きに渡る戦で、国が疲弊し、人々の生活が荒廃した。それは、国王や軍部が決めたことだったが、私も片棒を担いでいる。
誰もが戦争に喜んでいくよう鼓舞したのだから。歌を歌うことで。
―――――― ごめんなさい。私は、もう二度と歌いません。だから、失われた魂に安らぎを。




