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僕の妹と……(1)

 蒼白になって倒れた愛里を抱え、保健室へと連れて行く。玲菜の兄である片山武史が運ぶと申し出たが、拒絶した。愛里が倒れたのは、彼の言葉が引き金だったように見えたからだ。


 ―――未来永劫、貴女だけのもの


 聞きようによっては立派なストーカー発言だ。忌々しい想いが顔に出ているのか、途中、生徒たちが驚いて道を開ける。沈着冷静な風紀委員長が焦っているのが珍しくもあるらしい。だが、そんなことに頓着している暇はない。


 殆ど走らんばかりにして保健室へ辿りついたが、無人で鍵がかかっていた。そう言えば、体育祭の間は仮に作られた救護センターで怪我人の処置をするとか言っていた。保健室は校舎の端にあるため、使いにくからと。


「チッ!」


 救護センターへ向かうより保健室のベッドへ寝かす方が良いと判断し、ポケットから鍵束を取り出した。風紀委員長として主だった教室のスペアキーくらいは持っている。勿論、先生の許可は得ていないが。


 鍵束にはどの教室のものか微かな目印をつけているが、気が動転しているのか直ぐに探し出せず、3度目の鍵でドアを開けた。誰もいない、整えられたベッドに愛里を寝かせた。相変わらず、血の気がなく、呼吸も浅い。


 救護センターに行って先生を呼ぶか、それとも放送委員に連絡して呼び出してもらうか逡巡していると、閉めた筈のドアが性急に開けられる音がした。


「愛里は大丈夫か?」


 息せき切って飛び込んできたのは、以前、愛里を探して迷子になっていた小学生、神条真人だった。


「なぜ愛里が倒れたことを知っている?理事代理の権限か?」


 詰問する口調になっているのは分かったが、仕方がない。そもそもコイツは普通の小学生ではないのだから。相手もこちらが仮面を捨てたのを悟ったのか、一瞬目を見開き、苦笑した。


「ふうん。どうやら俺の事は調査済みらしいな」

「違法なことはしていない。公にしていることだけだ」


 理事代理もアメリカの研究機関で働いていたことも、ちょっと聞き込みをすれば耳に入る情報だ。人の口に戸は立てられないから。


「まあ、いい。それより愛里の容態は?急に倒れたと聞いたが、何があった?」


 彼は迷いもなく愛里の寝ているベッドへ近づいてくる。子どもとは思えない威圧感で、ついベッドサイドを開けてしまった。いつも場所を開けてもらう立場なのだろう。視線をこちらに向ける事すらせず、枕元へと立った。


 目を瞑ってぴくりとも動かない人形のような愛里を見つめた後、小さな手が白い頬を撫でた。


「あいつは居たのか?」

「……あいつ?」


 神条真人は、くるりと振り返ってこちらを見上げた。子どもの眼ではない。絶対王者の、逆らうことの許さない瞳だった。


「片山武史だ」

「何故、彼が居たと思う?防犯カメラか?」


 金髪の小さな頭が横に振られた。しばらく逡巡したようだったが、腹をくくったのか、肩を竦めると形の良い口を開いた。


「愛里に脅威を与えられる人間は限られている。そのうちの1人が片山武史だからだ」

「何故?」


 彼の言葉は、愛里が傷つくことが前提となっている。どうして愛里が片山武史に傷つけられるのか?どうして目の前の子供がそれを知っているのか?


 何もかも、疑問だらけだ。


「輪廻転生って信じるか?」


 予想を遥かに超える問いかけに、一瞬、思考回路が真っ白に吹き飛んだ。


「生まれ変わりとか前世とか、オカルト的な与太話か?」

「信じようと信じまいと歴とした真実だが、この際、お前の信念はどうでもいい」


 一方的に信じるかと聞いてきて答えたのに、どうでもいいとは言ってくれる。呆れて苦笑する俺に、相手も理不尽さに気付いたのか微かに笑った。


「今からする話は、普通の人間には受け入れられないほど荒唐無稽な話だ。聞きたくないなら出て行ってくれ。愛里の手当はこちらで行うし、意識を取り戻したら家へ帰す」

「ここで、話しても構わないのか?」


 保健室には防犯カメラと、場合によっては盗聴器も作動している。目の前の男が知らぬ筈はないと分かっているが、万一、失念している可能性に備える。だが、杞憂だったらしい。制服の内ポケットから小型の無線機のようなものを取り出した。盗聴防止装置だった。


「盗聴防止の許可は得ている。プライベートな電話もかかってくるからな……だが、立ち話で終わる話でもないし、場所を変えるか」


 ただの小学生に聞かれて困る話などないだろう。だが、目の前のお坊ちゃまは、有名代議士の孫であり、かつ海外の研究機関で働いていた天才児だ。その研究機関の仕事は、国家機密レベルの内容だとも噂される。


 流石の学園側も配慮したという訳か。まあ、加茂黒家が動けば大金も動くだろうから当然と言えば当然だな……ムカつくが。


「ムカつかせて悪かったな。ついでに、うちの病院へ愛里を連れて行こう」


 異を唱えようと口を開いたが、手で制止される。


「うちの病院には以前のカルテが残っている。今回の件と関連があるなら話が速い」


 八雲夏彦の話によると、愛里は入学して早々、3日間寝込んだらしい。その時の状況は分からないが、加茂黒の家にある病院で診察された。愛里の証言も確認したから嘘ではないだろう。


 それ以来、というか、それ以前も病気らしい病気に罹ったことがない愛里だ。初めての病院で初診を受けるより良いだろう。加えて加茂黒の内情も探れるかもしれない。


 咄嗟に判断を下し、頷いた。


 その時、廊下から女性の声がした。


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