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とうとう来ました、決闘……じゃなかった、体育祭!\(゜ロ\)(/ロ゜)/

 ぱーん、ぱーんと青空に打ちあがる花火。風になびく万国旗の飾り。テントのパイプ椅子に座るPTAや地元の有力者たち。といっても、地元の商店街や町内会の会長さんたちが殆どなので、前を通る生徒たちも目上の人への礼儀としてお辞儀をした後、気さくに手を振っている。


 そして、校庭の周りに陣取る父兄たち。ピクニックシートに広げられた重箱に、視線が釘付けとなり、動きが止まっている生徒たちを温かい目で見守っている。




 ……な~んて見慣れた光景は、どこにもありませんよっ!(;´Д`)


 流石ヴェルサイユ宮殿ですわ。体育祭初日、フルマラソンに出場予定だった私は、早朝から問答無用でバスに乗せられ、どこかの競技場へ連れて行かれた。そこで、ぐるぐると42.195kmを完走し、再びバスに乗せられ、学校へ戻って来たのである。


 到着時刻は、午後3時。バスから降りた後、入学式を行ったホールへ向かうよう実南からメールが来ていた。よろよろ疲れた足を叱咤しながら辿り着くと、実南や祐兄、鹿子さんまでもが優雅にお茶を飲んでいた。


「きゃ~っ!愛里ちゃん、6位入賞おめでとう!ちゃ~んと画面で応援していたからねっ!勿論、DVDも購入したから、届いたらご近所さんたちを集めて鑑賞会をしましょうねぇっ!」


 祐兄手作りのおにぎりを頬張りながら、私の姿を見つけた鹿子さんが盛大に手を振りながら叫んだ。


DVDというのは、あれだ。公立学校でいう所の、修学旅行が終わった後で廊下に張り出される写真を映像にしたようなものだ。


 それぞれの競技でプロの撮影隊が組まれ、一部始終が録画される。観戦に来た保護者たちにタブレットPCが貸し出され、その画面で希望の競技をリアルタイムで観戦できる。勿論、放送委員の解説付きで、日頃の話題も提供されるため、父兄に大人気の解説になっているそうだ。


 競技スケジュールはタブレットと共にプログラムも手渡されるが、ホールの壇上にデカデカと大きなスクリーンを備え付け、空港にあるフライトスケジュールよろしく、各競技の日程やチャンネル等が表示されるので、そこでチェックすることも可能だ。


 流石、ベルサイユ宮殿だけはある。


 更に、我が子の輝かしい活躍を永久保存版に留めておけるようDVDの販売も行っているので、父兄たちは慣れないビデオ撮影や場所取りに苦労することなく、優雅なティタイムやランチを楽しみながら体育祭を堪能できるという仕組みだ。勿論、DVDには厳重なコピーガードをかけ、購入規制を行っているので個人情報対策も抜かりない。


 素人の手ぶれ画像を見せられるより、プロの技術で作られたDVDの方が遥かに出来栄えが楽しめる。購入することは厭わないが、鑑賞会を催すとなると、商店街のオッちゃん、オバちゃん連中が集まるだろう。


 いくら幼少時の頃からの長い付き合いとはいえ、いや、だからこそ失敗した姿は未来永劫、笑いと共に語り継がれる羽目になると相場が決まっている。ディスクがが届いたら誰よりも先に受け取り、中身をチェックしようと心のメモ帳に書き留める。


 そんなことやあんなことを考えつつ、ぽてぽて歩いていると、遅いと呆れたらしい実南が溜息を吐き、テーブルの上に乗っていたカツサンドを見せびらかした。運動会の定番となった祐兄の自信作だ。


 和食が得意な祐兄だけど、カツサンドも絶品だ。祐兄曰く、カツサンドは立派な和食だと言う。確かに日本発祥だけれど、イメージ的に和食とは違う気がする。


 まあ、どちらでも構わない。ああ、祐兄のカツサンドが食べたい。冷めていてもしっとりジューシーで、お肉と衣、そして炒めたキャベツの割合が絶妙なのだ。口の中で涎が湧き出て来る。お腹の虫がぐるぐると催促している。


 頭の中がカツサンドでいっぱいになると、自然に歩みが速くなり、気が付けばテーブルに座ってカツサンドを貪り食べていた。


 う、うま~いっ!!(ノД`)・゜・。


 一口食べるごとにマラソンの疲れが吹き飛んでいくようだ。お皿に乗っていたカツサンドを全て食べ終え、ふうっと一息ついた。辺りを見渡すと、片山ご一家が微笑ましい瞳で私を見ていた。


 全く視界に入っていなかったけれど、そう言えば、鹿子さんたちと一緒にいたんだっけ。ま、まあ、私の旺盛な食欲は今に始まったことじゃない。つまり、今更取り繕っても無意味だよね、うん。


 開き直った私は、自作の唐揚げを口に放り込む。新作の葱味噌味だ。


 もぎゅもぎゅ、ごっくん。


 もうちょっと味噌を増やしても良いかなぁ。葱との相性は抜群だけど。頭の中で分量の変更を書き留めながら鶏肉を咀嚼する。


 ふと、視線を感じて顔をあげると、黒い瞳にぶつかった。実南たちの兄、片山武史だった。にっこり愛想笑いを繰り出すと、相手からは、こちらの気持ちもお見通しと言わんばかりに苦笑交じりの愛想笑いが返ってきた。


「相変わらず、素晴らしい食べっぷりだねぇ、愛里ちゃん。ぜひ、僕のお嫁さんになって欲しいなぁ」

「イ・ヤ・デ・ス」


 あいたたと額を押さえる武史さんに、周りが爆笑した。


 さらりと笑顔で言われて何とも思わないのは、出会った当初から言われ続けて免疫が出来たからだろう。社交辞令だと思うが、武史さんは初対面で小学生だった私にプロポーズした。


 その場にいた誰もが、彼の冗談に大爆笑した。もしかしたら冗談にしたかったのかもしれないけれど、以来、彼がプロポーズして私が断ることが漫才のネタのように大爆笑の鉄板ネタになった。


 でも、武史さんって、誰かに似ているような……?


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