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癒しの人っ!(*^▽^*)

 放課後、淡い水色の髪を七分刈りにした男子が近づいてきた。目が糸のように細くて色までは分からなかったが、ひょろりとした長身と、にっこり笑った口元が大人しそうな印象だった。


「僕は坂口太郎さかぐち たろう。天野さんと同じクラス委員にされちゃった、うっかりモノです。1年間よろしく」


 うっかりと自嘲するからには、望んで就いた地位ではないらしい。理由を尋ねてみると、なんでも居眠りしていて気が付いたら他の委員は全て決まった後だったとか。


 学年でも優秀な生徒たちが揃っているクラスなのに、誰もクラス委員に立候補しないというのは、それほどまでにクラス委員が敬遠されているのか、それとも、良家の子女らしくおっとりした性格なのか。


 そもそも一番重要なクラス委員が最後に選出されるというのも不思議な気がするけれど、私立の学校システムなんて良く知らないから、そんなものかもしれないと深く考えないことにした。


 まあ、そんな感じで、私としては同じ虚け(うつけ)者同士、仲良くなれそうな気がして、一緒に委員会の行われる会議室へ行くことになった。途中、坂口君は、何か言いたそうにチラチラと視線を向けてくる。思わずイラッとして口調が荒くなってしまったのは仕方ないだろう。


「……ねえ、私の顔に何かついてる?」

「あっ、違くてっ!……あっ、あの、もし違ってたら悪いんだけど、天野さん家って、もしかしてpetitプテッ bicheビッシュかな、と思って……」


 petit bicheとは、鹿子さんのお店の名前。フランス語で可愛い小鹿という意味らしい。『鹿の子』という名前にちなんで亡くなったご主人が命名したんだとか。


 当初、店名の前に『Mon』が付くところだったけれど、それだけは止めさせたと鹿子さんは笑っていた。そうだよね~。『Mon petit biche(僕の可愛い小鹿ちゃん)』はイヤだよね。うん、うん。


 心の片隅で、祐兄のドS気質は実の父親譲りなのかもしれないと思いつつ、坂口君に頷いてみせた。


「やっぱり!僕ね、お菓子の食べ歩きが趣味でさ、勿論、petit bicheもお気に入りで何度も足を運んでるんだよ!もうケーキは全種類ゲットしたよ」


 そう言うと、次々にお店で販売しているケーキの名前と感想を述べた。季節の限定商品も攻略済みだった。これはもう片山家に並ぶほどのお得意さま認定して先行販売商品を宣伝しても問題ないだろう。


「来月、また新作ケーキが発売されるの。ザボンを使ったロールケーキで、ちょっとグレープフルーツっぽいんだけど、酸味が少ないから男性にも好評なんだよ!」


 一頻り新作ケーキがどれだけ美味しいのか営業モードが発令された。引かれたかな?と思ったけれど、坂口君は目をキラキラさせて食いついてきた。


「うわ~っ!美味しそうだね!ぜひ、買いに行くよ!来月の何日から発売なの?」

「一般発売は20日からだけど、お得意さまだけ2週間前の6日から購入出来るの。坂口君も先行販売が利用出来るようお願いしておくね!」

「やった~っ!」


 そこから怒涛の如く、お菓子の話で盛り上がった。


 ワールドチョコレートマスターズで優勝したショコラティエのお店で売られているボンボンショコラ。小麦粉から自家栽培しているという厳選素材しか使わない拘りのパン屋さんで作っているふわふわのクリームパン。創業三百年という老舗の和菓子屋さんが作る豆大福。


 ああ、次から次へと脳裏に浮かぶ美味しそうなお菓子たち。お互い知っている店もあれば知らない店もあり、早速、お菓子mapの作成をすることになった。


 このmapは、私と坂口君の自己満足レベルで始まったものだったが、高天原学園において『お菓子map旋風』(笑)を巻き起こし、後に世界的な某ガイドブックに匹敵するほどの人気となるのだが、それが分かるのはまだ少し先の話である。


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