第七話(1) 花火と夏の熱
長いようで、あっという間だった三泊四日。
帰ったことを真白にメッセージしたのだが、返信がない。
たしか、北海道旅行だと彼女は言っていた。
『兄さん、真白さんにお土産買っていきなよ』
高知観光の最中に莉緒が勧めるので、たしかに彼女にお土産って大事だよな、と買った品があるのだ。
『絶対、忘れちゃダメだよ』
それにしても、そんな風に莉緒には強く勧められたけど、莉緒と真白はいつの間にそんな風に仲良くなったのだろう。
子供部屋でごろごろ。エアコンを利かせて昼日中にごろごろ。至福だ。
莉緒は、今日は部活だ。コンクールが終わって休養したのち、夏休みの後半からまた練習が始まるとか。夏のコンクールでは莉緒は奏者に選ばれなかったので、サポートとして縁の下の力持ちとしての参加した。だが、来年に向けては、三年が抜けた新体制となり張り切らざるを得ない様子だった。
りこはといえば、引退が決まってからは、気楽にとみちゃんと遊んだりしている。今日はプールにでも行ってるはずだ。
ぶぶ、とスマホが着信。さっそく特派員がプールの様子を伝えてくる。
水着姿で写るりこたちバレー部引退メンバー(らしい)。男子も混じって、そこには勇吾くんもいた。元気そうに笑っている。やせ我慢かもしれないけど。いいぞ。がんばれ。
その後も、とみちゃんが連発でりこの写真を送ってくる。
”どうですか? セクシーショット“
“いったい何が「どう」なんだ。妹の発育状況でも確認せよと?”
”お兄さんがエッチな目で見てるって、りこにチクっときます……でも、りこのおっぱい、おっきくなりましたよ。内緒です。誰のために大きくなったのかは内緒です“
ぐっ、ぐぬぬ。特派員が挑発的だ。
ぶぶ、とまた着信。
”確かめに来ます?“
くっ! 俺はスマホを放り出して、座布団を枕に昼寝の姿勢。
お喋りの相手がスマホだけだなんて不健全だ。だったら健全に睡眠をとる。
ぶぶっ、と、またスマホが俺を呼んだ。
「もう、なんだよ……」 って、今度の通知は真白だった。
“返事遅くなってごめんなさい。今夜、花火を観に行きませんか?”
それは、唐突なお誘いだったけど、彼氏彼女をやるなら定番のイベントだ。
そのメッセージを開いていると、真白から通話の着信も入った。
「もしもし?」
「ごめんなさい、電波の状況が悪くて……夕方の6時半に駅前でいいかしら」
「だいじょうぶだ。いまどこにいるんだ?」
「今フェリーの中でね……」
と、真白が話し始めたところで音が途切れた。電波が悪いというのは本当らしい。
メッセージのやり取りも、再び途絶えたけど、時間と場所は決まったし、用意しておこう。
きっと今頃、一生懸命話し終えた後で、電波が途切れたことに気づいているだろう。
念のため、"時間と場所、了解“とメッセージを入れておいた。港に着いたら読めるはずだ。
それにしても船旅か。なんとなく優雅だな。高知旅行のとき、親父が東京と徳島を結ぶフェリーがあるって言ってたっけ。
さ、早めに準備しておこう。都会のようで田舎の我が家は、路線バスも少ないからな。
いくら早めといっても、さすがに時間が余り過ぎる。さりとてバスを逃す失態を犯したくもない……そういうれっきとした理由があってだ。
賑やかな女子供の声と水音。ウォータースライダーから天に届くような悲鳴。かと思えば笑い声。
真白の電話から三時間後、俺はプールにいた。
「へへえ~。お兄さん、来たんですね!」
「たまたまだよ、人と約束があるんで、時間まで汗だくになって待ちたくないだけだ」
とみちゃんに見つからないようにプールの入園ゲートをくぐったのに、運悪くロッカールームの出入り口でばったり出会ってしまったのだ。
「へえ? りこ、喜びますよ。朝誘ったのに、お兄ちゃん来ない! って不機嫌でしたから」
「いや、誘われたけど、バレー部のみんなにわるいだろ。普通、兄貴を連れてこないよな?」
とみちゃんは驚いたような顔をして、それからふと、真面目な顔をした。
「いいじゃないですか。お兄ちゃんを好きな女の子がいたって」
「あー! はる兄! なんでいるの~?!」
ロッカールームからセンター広場に出ると、待ち受けていたように今度はりこにも見つかってしまった。
「デートまでの時間つぶしだよ!」
「へー、真白さんとデートなんだ」
嬉しい驚きだったりこの顔が、途端につんとする。
「お兄さん、そんな意地悪言わなきゃいいのに……」
とみちゃんと二人して、とげとげしい。
「さ、ふたりとも俺なんかほっといて、チームのみんなと遊んで来いよ。俺は水辺で、ちゃぷちゃぷしてるから」
「お兄さん、ちょっとじじ臭いです」
「ふーーんだ! はる兄の若年寄り!」
りこが捨て台詞を吐いて走っていく。
「あっ、りこ、走ったら危ないってば!」
まあ、とみちゃんが面倒見てくれれば安心か。それにしても若年寄りって……老中の下の位のことだろ、江戸時代の。悪口のことではないはずだ。
ふたりを見送ると、俺はレンタルの浮き輪に身をゆだねて、流れるプールの流れに身を任せる。もう、なるように成れ。
すると、ぷんぷん怒ってた割に、俺が流れていく先々で、りこが声をかけてくる。
「はる兄~!」
高飛び込みの台の上から手を振ると盛大に飛び降りたり、かと思えば、次は俺の流れる先にいきなりぶくぶくと潜水からの浮上。俺が寝そべる浮き輪をひっくり返して逃げて行ったりする。
ぶくぶくぶく。沈んだ俺も再浮上。まあ、手を振り返したり、ちょっと相手をしたりして、りこが機嫌を取り戻してくれれば、安いものだ。
今度は、りこも浮き輪で流れてきて、俺の横に並んだ。
「ほれ」
手を差し出して、りこと手をつないだ。
「これでバラバラにならないだろ」
「うん……はる兄は、流れてるだけで、楽しい?」
「おお。ぐるぐる回っているうちに、一学期で疲れた心が洗濯されるぞ」
「ふうん……えへへ」
俺の手を握ると、りこは俺を中心に浮き輪でぐるぐると回った。




