幕間16 身辺日記④
春シーズン第六週 二日目 深夜
【カナメの竹紙日記】
月、白し。風、やわらか。
窓枠と我が胸だけが、ひそかに鳴る。筆先、落ち着かず。
---
モブが戦う所以を語った。
いわく──淫魔王、これを討つと。
彼の者の前にては、女子は戦意を奪われ、刃すら持てぬという。ゆえにあやつは男児たる自分が、戦うほかないと述べた。
……モブの語りし言、いまだ胸を突き、痛み収まらず。
我が才覚は〈女神の祝福〉と言うらしく。
他の男児と違い、我が位が下がらなかったのはこの才覚によるもの。
モブは遂に、我がこの希少な才覚を有すのを、皆の前で明かさなかった。
……いま筆を執る手、震う。
母上いわく、『決して位が下がらぬことを公言するな。諸国はお前を放っておかぬだろう』。
その意、今日にして腑に落つ。母上も、あやつも、初めより我を慮っていたのだ。
〈女神の祝福〉を告げれば、我は否応なく戦に巻き込まれる。
往時の我なら「望むところ」と笑い放てた。
されど今は女の身。
胸の底に、澱のごとき不安が沈む。
和国にて、我以外の男児らは、位を上げる道を諦めがちであった。
積み上げた石を蹴らるる思い、彼らの胸中、推して知るべし。
──それはモブも同じ。されど、あやつは我が隣に立つと告げた。
覚悟、いかばかりや。我はその重さを測り得ぬ……。
『昨日は我慢できなかったか? 和国の鎮魂の御業、教えるぞ?』
かつて我が投げかけた言葉、いまとなりては失礼極まりないことと悟る。
あの時のあやつの瞳は、我をどのように捉えていた? 後悔ばかりが募る……。
ゆえに思う。
我は男児へ還るべし。還らねば、あやつはひとりで戦場へ赴くやもしれぬ。
それに──戦うは我ひとりで足ると、我はあやつに言わねばならない。
モブには、モブの生がある。
慕う者もおり、営みもある。
我はあやつを、苦行より解き放たねばならぬ。
あやつに位の八を目指してほしいと願ったのも、ただただ心苦しく、ひたすらに申し訳なくてならぬ。
嗚呼、何ゆえ我は女と化したのか。
あやつが戦うと口にした時、胸の奥で何かがきしんだ。
我が負うべき定めを、あやつに背負わせるわけには……。
金毛白狐様──。
願わくは、我が道に迷いの霧を降ろさず、導きを。
風、窓を撫で、側に置きし青龍革の魔導板帳をめくる。
我は柄に触れて確かむ──震え、なお在り。されど刃は鈍らず。
「我は戦う。淫魔王を討つ」
声に出し、今宵の印とす。
もし我が還る術が見つかるなら──必ずや帰還す。
もし見つからねば──。
見つから、ねば……。
---
墨、乾く。髪、結い直す。月、欠けたり。
(※欄外:墨汁でモブの似顔絵。紙に滲みの跡あり)
第一部『出会い』をお読みいただき、ありがとうございました。
モブとカナメの出会いから、初回クエスト、アリスとの対決、学外クエストを経て、ようやくパーティ結成に至りました。
この先も、モブとヒロインたちを中心に、最終目的である淫魔王打倒へ向けて物語は進んでいきます。
今後も彼らの関係性の変化を楽しんでいただければと思います。
第二部の開始時期については、書き溜めと設定の深掘りのため、三か月ほどお時間をいただく見込みです。(2025.12.04記述)
よりよい物語をお届けできるよう頑張りますので、再開までしばらくお待ちください。
↓の「☆☆☆☆☆」や作品のブックマーク、これまで読んでみてのレビューや感想コメントを頂けると今後の執筆の大きな励みになりますのでぜひ。
レビューや感想コメントについては今後の展開の参考にしたいと思います。
それでは。
つくもいつき




