モブの休日②:春シーズン第二週 週末
店の軒先、魔晄ランタンの電柱の下で、四人がぴたりと足を止めた。
金具の低い唸りが柱の中で続き、昼前の風が吊られた看板をかすかに鳴らす。
行政区の人々が歩調を緩め、遠巻きにこちらをうかがっている。
さっきまで様子見していた衛兵も、ついに剣の柄へ手を添える。
水の王国では軽い私闘に衛兵は介入しない。だが、ここは城壁内――しかも渦中の人物がモブ・アイカータだ。備えるに越したことはない、という顔だ。
(……うーん、ちょっと大ごとになってきたか?)
居心地の悪さを覚えつつ、俺は四人のやり取りに集中する。
「は? 誰、おたくら」
赤毛の冒険者がマリーをにらみ上げる。肩を張り、顎を突き出した。
年季の入った喧嘩口調。二十六という年齢からして、場数も踏んでいるのだろう。
だが目の前のマリーと自身の体格差は目に入らないのだろうか?
――その強気で無計画そうなところ八十点。矯正し甲斐がある。
「あたしたちが先に声かけたんだけど? 何、シスターと学生が正義のお姫様気どり? 知り合いっぽくいいやがって、引っ込んでなよ」
今度は青髪。ルールルーへ顔を寄せ、真下に見下ろす。唾でも飛ばしそうな距離。完全にナメている。
自分より背の低い相手を前に、殊更強気に出る。
なんて小物なんだろうか。八十五点。一刻も早く、商会の教育班に引き渡したくなり俺は指をうずうずさせる。
「知り合いっぽいもなにも……」
「友だち」
マリーもルールルーも、臆した様子がない。
糸目は崩れず、無表情も崩れず。
無風の態度が気に障ったのか、女たちは同時に手を振り上げた。
感情的で喧嘩っ早い。頭の回転が速い証拠だ。
リーダーの気質あり。鞭で現場を締め上げることもできるタイプ。九十五点。
俺はすぐさま二人に合格通知を出したくなっていた。
痛烈一閃――とは、ならない。
「~~っ!?」
「は……?」
乾いた音が一拍。
青髪は自分の手のひらとルールルーを交互に見つめる。
違和感を覚えたのだろう。
ルールルーの全身は微かに脈を打つように揺れ、衝撃がどこかへ逃げてしまっている。
一方、赤毛の手首はマリーにがっちり押さえられた。
俺の角度からは顔が見えないが、苦痛で歪んでいるのが声で分かる。
「あ、が……っ! は、放せぇ!!」
「あら?」
「ぃ~~~~っ!!??」
もう一方の手首も掴まれ、赤毛は更に悲鳴を上げる。
今度は足で攻撃――それを見越して、マリーはすねで蹴りを受け止めた。
そのまま足払い。
石畳が鈍く響き、赤毛が背から落ちる。こひゅ、と息が漏れた。
「プ、プラム!?」
青髪が相棒の名を叫び、身をすくませた。
だがその硬直もすぐさま終わる。
女社会は下に見られたら終わり――そのことが本能的にわかっているのだろう、彼女はついに腰の剣に手をかける。
俺が制止するより速く、ルールルーは詠唱を終えていた。
『中転移』
二人の姿が消える。
次の瞬間、頭上数メートルから悲鳴。
「ああああぁあ!?」
視線を上げれば、青髪とルールルーが空から降ってくる。
青髪はバランスを失って仰向けの落下、ルールルーはスカートを押さえつつ真っ直ぐ下降――着地の差は歴然だ。
高所からの落下は、原作ゲームでもバカにならないダメージである。
耐性がなければ生命力を半分持っていかれる。
地面でノびる青髪を見て、俺は落下耐性の重要性を改めて思い出す。
素で衝撃耐性・落下耐性100パーセントであるルールルーが実にうらやましい。
「うぅ……」
「あ、あたしら、レベル4なの、に……」
「あら、とてもそうとは」
赤毛の言葉をマリーはさらりといなす。
基礎ステ※1お化け+日々の鍛錬で上乗せしているマリーから見れば、赤毛はとても上位レベルには感じないだろう。
この世界ではレベルがすべてではない。
種族や才能、努力の差は、確かにある。
レベルによるステータスはあくまで最低保証――怠けているものと努力しているものでステータスの差は生まれる。
「ち、ちくしょう……」
マリーにまたがれ、両手首を押さえられた赤毛の立場は決まった。
彼女らがもっとも背負いたくないであろう烙印――負け犬を刻まれる。
俺の態度次第では彼女らはますますみじめな思いを募らせる。この世界の女性は誰だって、他者に負け犬認定されるのを嫌がる。男の前でならなおさらだ。
俺は状況を利用する。両手を叩き、間合いへ一歩。
拍手を奏でながら、俺は足を進めた。
「~~合ぉ格ッ!!」
「……あ、あら?」
「?」
思った見返りと違う。
そんな不満そうな態度がマリーとルールルーから見え隠れしている。
俺は二人にウインクと舌ペロを送る。
両手を広げ、倒れた冒険者たちに近寄った。
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〈用語解説〉
※1 ステータス:
この世界での能力の指標。レベル上昇や鍛錬・生活で向上する。
レベル上昇時の上がり幅が一番高い。
構成項目:筋力/耐久力/器用さ/敏捷性/感覚/知力/魅力/運
初期ステータスについて(人間の場合)
・各能力に初期ポイント10を付与
・個体差による基礎ポイントをランダム加算
・タレント(才能)補正を適用
※原作の主要キャラクターは、基礎ポイントが高めに設定されている。
例:赤毛の冒険者プラム(レベル1)
筋力 15 = 初期10 + 基礎5
耐久 15 = 初期10 + 基礎5
器用 15 = 初期10 + 基礎5
敏捷 12 = 初期10 + 基礎2
感覚 12 = 初期10 + 基礎2
知力 10 = 初期10 + 基礎0
魅力 10 = 初期10 + 基礎0
運 11 = 初期10 + 基礎1
タレント補正
なし(保有タレント:〈酒造の極意〉=酒造で品質上昇[最大+40%])




