第十一話 しまった
「ソーなんデス! 大変だったんデスヨ!」
「それで、私達二人が殿を引き受けて部隊の大半を逃したんです」
「はぁー、なるほどねぇ」
今のこの世界の状況。その概要を、本職だと言いはる退魔師的な女性たちに聞いているわけだが。いつの間にか彼女らがどういった経緯で今の状況に陥ったのかという話になっていた。
新しいダンジョンが出来たので、その調査に帯同して自衛隊まで出動してて、そのくせ戦力不足で逃げる羽目になったとか何だそりゃ。いやまあ、山の中で森の奥深くだから戦車とかの大型車両が持ち込めなかったからってのが最大の要因なんだろうが。
パチパチと火の粉が時折上がる焚き火を中心にして、俺ら三人は話を続けていた。あ、ちゃんと焚き火スタンド使ってるからな、念の為。異世界じゃ気にしない奴らが大半だったから、そういった野営地跡が街道沿いに点々としてたわ。魔道具のランタンとかもあるけど、やっぱ野営なら焚き火がいいよね。
「んで、その逃げる羽目になった相手ってのは?」
「さっきの魔犬や魔猪、魔牛だけじゃあありませんよ?」
「デスデス。本調子ならアレっくらいどうにでもなるデス。流石に苦労はするデスが」
ほんとにぃ? とは思ったが、どうやら連戦に次ぐ連戦で疲弊していた結果、あの状態に陥ったらしい。で、その逃げる原因になった奴ってのが――
「こんな感じに、トカゲみたいな鱗に覆われていてですね」
俺が貸してやったタブレットの描画機能を使って、指先でその強敵とやらを描いてゆく巫女さん。やけにうめえ。
「シかも6本足デした」
ふむふむ。
「おおきな角が頭の天辺にありましたね」
へ、へぇぇぇ。
「ソしてぇ、目が4つデス」
ほ、ほほぉ~。
出来上がった絵は、なんというかその。
(お主が片手間に倒したやつじゃな、どう考えても)
せやろか。ていうかあの程度で潰走とか、大丈夫か地球。
「それで、そのでかいのはどこに行ったんだ?」
だがしかし、もしかしたら別個体という可能性もある。ワンチャンある。はず。
「それが複数出たのです。部隊を逃した後、彼女が認識阻害の、私が侵入阻止の結界を張ったんですが。その後すぐ、空自による対地攻撃が行われて……」
「ワタシ達どころじゃなくなったノか、フジヤマの方に去っていきました。お昼ごろのことデス」
「ですが私達も満身創痍、その後はご存知のとおりです」
……そっからさっきまでぶっ倒れてたわけか。よく結界の維持ができてたもんだ。
(どうやら認識阻害の方は早々に切れたようじゃがな。それで雑魚が寄ってきとったというところじゃろ)
ふむ、効果時間か術者の力量か。あるいは意識を保っていられているかどうかという点もあるのかも知れないが――。
「って、アレが複数か……そりゃ大変だったな」
「アレって……ご存知なんですか?」
「うん、ここに来る前にちょっ……と……」
「ちょっと、ナンデスか!?」
……しまった。
(馬鹿じゃろお主。なに口滑らせておるのじゃ)
思わず口にしてしまった俺は、途中で気づいて言い澱んだのだが。時既に遅し。
「い、いや。遠くからなんかでかいのがいるなって見えて――」
「嘘デスね」
え、やだなにこの子真顔で怖い。
「……蘭花、真偽判定の直感持ちなんです」
oh……。
(日頃の行いじゃな)
うるさい黙れ。