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第十二話 本拠地

 勤務地の陸自・朝霞駐屯地から自宅へと戻った琉久院あすらは、着替えを終えると取るものも取り敢えず、自宅隣に建つ一軒の家に足を向けた。


「これでよし、っと」


 そう言って額の汗を拭ったあすらは、手にした雑巾をバケツに放り込むと今しがた掃除し終えた部屋を一瞥した。そこそこ広いリビングの壁際に置かれた洋酒棚には、もはや誰も手のつける者のいない酒瓶がきれいに整頓されて並んでいた。そしてその上には、この家の家族と、あすらを含んだ彼女の家族との合同写真が、レーザー加工されたガラスの額縁に入れられて静かに佇んでいた。

 それを見たあすらは、少し寂しげな表情で呟いた。


「三人とも、どこに行っちゃったのよ……おじさんもおばさんも、流行くんも……」


 それは6年前。この家の住人は「ちょっとそこまで」と親子3人で買い物にでかけたのを最後に、行方知れずとなったのだ。

 流行の両親には共に親族が居なかったために、そしてあすらの母親が弁護士であったため、自分たちにもしものことがあった場合に息子が相続で困らないようにと、何かあったときのことを頼まれていた。そして――


「父さんも母さんも、私も、ずっと待ってるんだからね……」


 楽しそうに笑みを浮かべる写真の中の流行を、あすらは哀しげな表情で突いたのだった。


 ☆


 俺が知ってる真偽判定の直感スキルと同じなら、弱点がある。嘘を吐いたらばれるが、言わなきゃわからんと言う点だ。


「まあぶっちゃけ、俺が倒した。こう、ずんばらりんと」


 取り出した双剣を見せつけながら、彼女ら二人に言う。異世界から戻ってきたとか、そういう更に話がややこしくなるようなことは言わないでおく。


「アレは、高難易度ダンジョンから溢れたいわゆるボスクラスのあやかしですよ? 私達のような術者のアシストを受けた自衛隊の飛行機や戦車が、砲撃したりミサイルとか爆弾使ってようやく倒せるような……それを一人で、しかも剣で倒しただなんて――」


 俺の言葉を疑うわけではないのだろうが、信じられないと行った体で巫女さんは思わず横にいるシスターに視線を向ける。


「嘘、言ってないデス、ね」


 神妙な顔つきで、シスターさんも俺の言葉を肯定する。そりゃまあ嘘は言ってないし。全部話したとも言ってないが。


「一体どこでそんな強さを……」

「ッテいうか、その剣。下手な聖剣よりもストロングなセイカレド的波動を感じるのデスが」

「内緒だ。それよりそっちはどういう組織なんだ?」


 ちゅうか、いつからオカルト(神秘)が当たり前の世界になったんだよと。俺が居た世界なのは間違いないはずなのに、なんだか自信が無くなってくるぞ。


 ☆


「ここです」


 結局あの後すぐに、巫女さんとシスターの二人とも眠気に限界が来たので、野営用に収納していたテントを二つ設営して片一方に彼女らを放り込んでやった。たとえエリクサーで身体の不備は無くなっても、眠気はやってくる。肉体的な疲労もとれているとは思うが、眠いときは寝るに限る。

 テントとは言っても、徹底的に手を入れてあるから下手な安宿よりは快適なはずだ。ドーム型の底部分には十二分なクッション性を確保した上で、出入りする開口部を閉じれば完全防水・透湿性も通気性も抜群な上に魔道具による空調まで完備している。主な素材は異世界の水棲竜種の皮とかだから、そんじょそこらの槍や剣じゃ壊すどころか穴も開けられない。て言うか開かなかった。実戦で証明済み。多分現代兵器でも、対物ライフルぐらいなら平気で耐えられるんじゃないかな。


(くっそ贅沢なテントじゃよな。コレ一つで屋敷がいくつか建つレベルじゃぞ?)


 知ってる。けど異世界で定住する気もその必要もなかった俺にとっては、こういった方面にこそ金をかけるべき物だったからな。

 そうして夜が明けるまでぐっすりと眠った俺達は、出しっぱなしにしてあった野営用システムキッチンの流し台で顔を洗って目を覚まし、その流れで朝食を作ってしっかりガッツリ食った後、巫女さんの案内で彼女らの本拠地だという場所を訪れているわけだが。


(変わった形の建物が並んでおるのう。大きさはウチの神殿とええ勝負じゃが)

「オカルト組織の所在地が都心のビルとか……なんかもにょる」


 道案内された通りに魔改造バイクを走らせてたどり着いたのは、都心の超高層ビルが立ち並ぶ一角。その中でも真新しい、俺が異世界に行く前には無かったはずの立派な建物だった。実際築年数も浅いようで、なにかこう……色々と、ねえ? ちなみに3人乗るためにその場でバイクを更に魔改造してサイドカー付けたら二人して目を真ん丸にしてた。簡単なのに。

 それにしてもなんていうか……ほら、あるだろ? 仮にも国を代表する退魔組織っていうやつなんだから、アジトと言えば聖域とか神域とかで古式ゆかしい神社とか教会とか!  深山の奥深くとか、崖の途中とか岩山のてっぺんとかにどうやって建てたのか謎な廟とかさぁ。

 それがなんで都心の一角にある高層ビルなんだよ! いや、都内にあるデカかったり歴史のある神社仏閣とかはだいたい観光名所にもなってて色々とアレで本拠地としては使いづらいからなのかもしれないけれど……。


「まあ俺だったら参拝客とか観光客とかでごった返してるところに出入りしたくはないけどな。人目につくし」

(相変わらずじゃの、その目立ちたくないムーヴは)


 目立ちたくないでござる。色々面倒事をお願いされてお仕事するのは対価さえ貰えればやぶさかではないけれど、行動に制限がかかるような柵が増えるのは嫌でござる。

 いやほんと、過去に色々やらかしたのはホンマすまんかったと思うが、結果的には丸く収まったんだし良いよね。答えは聞いてないし何の事かも教えたくない。


(そんなだから、色々とだな)


 あーあーきこえない!


(まあよいわ。ワシもその流れでこうしておるんじゃからな。ほれ、はよ行け。娘っ子共が待っておるぞ?)


 言われて目を向けると、もう既に魔改造バイクから降りてこちらに視線を向けてくる巫女さんとシスターの娘の姿があった。二人を送りつけて「んじゃコレで!」と走り去ろうとしたんだが、大慌てで引き止められた。そもそも何のお礼もしてないし、情報交換もまだ触り程度だからと。それは確かにそうだったので、おれはそう抗うことなく彼女らの案内通りにバイクを走らせた。

 高層ビルの谷間のさらに地下、専用の地下駐車場入り口からなだらかなスロープを下った先に、まだ真新しさを残した駐車場が広がっていた。そしてそこの奥、二人に指示された駐車枠にバイクを止めた俺は、さっさと実家に戻りたい気持ちを押し殺してあるき始めた二人のあとに続いたのである。もちろんそれなりの準備をして、だ。

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