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チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
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5

「君は考えたことあるかい? この世界は、本当に平和なのかって」

 ベン・ロブリーはうすら笑いを浮かべ、部屋の中を逃げ回る純に、ファイアスターターの力で炎の塊を飛ばす。

「貧しい人がいる。戦争はどこかでいつも続いている。夢に溢れる子供も、いつか金を稼ぐだけの生き物になる。それって、平和かな? みんな、幸せなのかな?」

 ベンが炎を飛ばすのをやめ、気が抜けたように立ちつくす。

「何の話だボケ!!」

 ベンの気が抜けた隙に、純はベンに向かって駆け出し、体重と勢いを乗せた拳をベンの頬にぶち込んだ。

 けれど、ベンの体はぴくりとも動きはしない。純の拳を受けてなお、平然と立ったまま、喋り続ける。

「人間に創りだせる世界なんてのは、そんな物が限界ってことさ。けど、やつらは違う。あの、無数の超越者たちの頂点に君臨する、最上級超越者共は」

 急いで距離を取ろうとした純の腹を、ベンが拳で軽く叩く。ほんの、軽く。なのに、純はまるで丸太で突かれたかのような衝撃を受け、後方に吹き飛んだ。壁に当たり、床に転がって激しく咳き込んだ。

「純! 大丈夫ですか!?」

 ズボンのポケットからエインセルが心配そうに尋ねてくる。純ははっきりと答えた。

「問題ない……。静かにしてろ」

 ベンは純を、水に落とした蟻を指で沈めるかのように、いたぶって殺そうとしていた。その証拠に、ベンは自分の絶望を余裕しゃくしゃくに語り続ける。

「やつらは人間より遥かに強靭な体を持ち、高い頭脳と科学力を持っている。そんなやつらが、本気で地球を征服しようとしているんだ。どうしようもない。いや、どうしようもなかった」

 純は立ち上がり、一気に距離を詰めてベンに拳を乱打した。

 ベンはあえて、それを片手で全て受け止めて見せた。

 大人であろうと殴り倒してきた拳が、ベンには一切通用しない。純の額に驚愕の汗が流れた。

 再び距離を取った純。しかし、純は信じられない事象を目にした。

 五メートルは離れていたはずだった、ベンとの距離。けれど、ベンの顔が突然、自分の目の前に現れたのだ。

(“ブリンク”……! これが――――!)

「少しは分かったかい? 君は、踏み込んでは行けない領域に、足を踏み入れた」

 ベンが純の額にデコピンをした。その途端、純の体は急速に後ろに倒れた。だが、純の体が床に着くことはない。ベンはブリンクで倒れる純の背後に移動し、純の後頭部を軽く叩いた。純が今度は前にブチ飛ばされ、さらにその先にブリンクで移ったベンに胸を小突かれ、再び弾き飛ばされる。

「はっはははは! そらそらそらそら!!」

 普通の人間の純に反応できるはずもなく、ベンにひたすらお手玉にされるしかない。

 満足するまで純をいたぶると、ベンは純の頭を足で踏みつけ、コートのポケットから煙草を取り出した。

 ファイアスターターで煙草に火を点け、体中傷だらけになった純と、そこら中が焼け焦げた部屋を、うっとりと眺める。

「ああ……。この焦げた匂いが落ち着く……。嗅いでごらんよ、少年。あらゆる汚らわしさは、焼却されて消え去るのさ。何よりも清らかな香りだ」

「くせえだけだ……。むせるくらい、くっせえ臭いしかしねえよ……」

 ベンは煙草の煙と共に、ため息を吐いた。リラックスした様子で、純を踏む足の強さを強める。

「どこまでも反抗的だな。もっと大人になれ。世の中、どうしようもないことで溢れてるんだからな」

 ベンが純の顔を蹴り飛ばそうと、その足をどけた瞬間だ。

「どうしようもねえのは……、お前だろ!!」

 純は体を転がし、ベンの拘束から逃れ、部屋の出口へと走った。

「おいおい。あれだけ大口叩いて、逃げるのか? そりゃないだろ」

 ブリンクを使い、ベンが部屋の出口に瞬間移動して道をふさぐ。純は突然目の前に現れたベンに、慌てて立ち止まった。

「可哀そうになぁ……。怖いだろ? どうしたらいいか分からないだろ? 僕も同じなんだよ。一緒だねぇ、僕たちぃ」

 ベンのデコピンが、再び純にかまされた。純の体はぶっ飛ばされ、窓際の壁に後頭部からぶつかってしまう。

 純の頭から血がだくだくと流れ出し、純は動かなくなってしまった。

「あー。強くやりすぎたか? 力の加減ってやつは難しい。まあ……、そろそろ殺そうとは思ってたし、ちょうどいいか」

 ファイアスターターをはめた左手の指をこすり、ベンが純に近づいて来る。だんだんと、足音が大きくなる。

 足音がすぐそばで止まり、ベンの左手が純に掲げられた。

「それじゃ、終わりね」

 ベンが炎を出す直前、純は飛び起き、背後の窓を開けて外に飛び出した。二階の窓から、地面へと飛び降りたのだ。

 地面に着地し、よろけながらも走り出す純の姿に、ベンは笑った。

「おいおいおい。あれだけ痛めつけたのに、元気あるねぇ。しーかーもー……」

 ベンは端末義眼の透視機能を使い、床を透視した。床がガラス張りのように透明になり、一階の様子が一望できる。

 透視できても、透視している場所の明るさは変わらない。暗い部屋は暗く見えるし、灯りの近くなら明るく見える。

 ベンは煙が立ち込める、薄暗い一階の廊下を走る純の姿を見つけた。

「どこかに逃げたと思わせて、またこの建物に戻って来てるときた。僕を出し抜いて逃げ切ろうなんて、なかなか考えたね」

 一階の真っ暗な倉庫らしき部屋に純が隠れたのを確認し、ベンはほくそ笑む。

「獲物を追い詰める瞬間だ。ああ……、ぞくぞくするよ。この感覚だけが、僕を終末の恐怖から逃れさせてくれるんだ……」

 そして、ベンは純の隠れた倉庫へと、ブリンクで移動した。


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