表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
PR
53/53

エピローグ

 エピローグ ―夢見るままに―



 クトゥルフとの戦いの後、荒井純が目を覚ましたのは、四日後だった。

 エインセルの旧支配者の力を扱う機能による体力の消耗と、クトゥルフとの戦いによる体の傷とストレスは、彼にそれだけの休養を必要とさせた。

 ベッドに寝かされていた純が目を開け、体を起こすと、そこは見知らぬゴシック様式の部屋であった。

「おはようございます。純」

 それから、ベッドの隣で椅子に座って、純に優しく微笑むエインセルの姿。実際は椅子に座っているように端末義眼に映しているだけだが、純は見慣れたエインセルの姿と、その柔らかな雰囲気にほっとした。

「おはよう。エインセル。どこだ? ここ」

「ルルイエの館ですよ。壊れてなくて、一番立派なお家です。ジョルドさんたちがここまであなたを運んで、介抱してくれたんです。純ってば、四日も寝てたんですよ?」

「四日? そんなにか……。お礼言っとかないとな。その間、お前もずっと一緒にいてくれてたんだろ?」

 純がからかうように言うと、エインセルは顔を赤くした。

「それはまあ……。当然です」

「ありがとな。お前がいてくれると、安心する」

「もう……。なんですか? そんなこと言ったって、なんにも出ませんよ?」

 困った風に笑うエインセル。純も一緒になって笑っていると、その声を聞きつけ、部屋の中に入って来た者がいた。ジョルドだ。

「目を覚ましたのか!? フォマルハウト!」

「ああ。お陰様で、助かった。ありがとう」

「お礼を言いたいのはこっちだよ! いや、君が無事でよかった。みんなに知らせてこよう。みんな君を心配していたから」

 ジョルドが部屋を出ていくと、エインセルがにやりとして純を見た。

「あなたが寝てる間に、いろいろすごいことになってますよ?」

「すごいことぉ~?」

 報せを聞いて部屋に飛び込んで来たのは、大量のディープワンズを引き連れたルイスだった。

「お目覚めになりましたか! 我がルルイエ王、荒井純様! お前たち、ルルイエの民に知らせろ! 純様のお目覚めだ!!」

「すごいことになってるぅ!?」

「おっと。これは失礼。先日より、銀の腕の参謀からあなたの臣下となりました。ルイス・ダンドルム・リム・ロスティック・ノーマンズです。以後、よろしくお願いいたします。ルルイエ王、荒井純様」

 やたら興奮した様子のルイスに戸惑う純。部屋に戻ってきたジョルドが、気を利かせて説明してくれた。

「ルイスさんは銀の腕を抜けて、君の補佐をすることに決めたんだ。ディープワンズの殆どは、海の底に姿を消してしまったよ。クトゥルフを倒した君に報復する機会を窺ってるのかもしれない。けど、ディープワンズの何割かは、君を認めて人類に協力してくれてる。彼らの思考を覗いてくれたノーデンス様によれば、信用していいとのことだ。しかし……、君がクトゥルフを倒した時の、ルイスさんの泣き顔は酷かったよ……」

「道を拓くため、自ら命を捨てたフォマルハウト荒井の勇姿! そして、親から息子へと受け継がれた魂が、邪神を打ち破ったのです! あの光景を目にして、私は自分のやるべきことを理解しました! 銀の腕を抜けたことに、何の後悔もありません!! フォマルハウトの星の元に、新たな世界を創造していこうではありませんか!!」

「純、この人やっぱり気持ち悪いです」

「そうか……。俺がやらなきゃいけないことを、代わりにやっててくれたんだな……。ありがとう。ルイス」

 純の言葉にルイスは震えだし、涙を流し始める。それを見て、純たちはちょっとした恐怖を覚えた。

「ありがたきお言葉……! 銀の腕の方々やノーデンス様とは、しっかり別れを済ませてきました! これからは、あなたのために尽力したく存じます! 純様!」

 ルイスの後ろで、ディープワンズたちがはしゃいでいる。

「ルルイエ王だ! 我らをお救いくださったルルイエ王!」

「イア! イア! 荒井純!」

「我らが王のお目覚めだ! かのクトゥルフとの戦いで、我らを救ってくださったこと、忘れてはおりませぬ。どうか、我々とルルイエをお導きください。荒井純様!」

 ルルイエに残ったディープワンズは友好的な態度を見せてくれている。けれど、ジョルドの言っていた通り、こういった友好的な者ばかりではないのだろう。

 敵対するディープワンズと和解する。そういったことも進めていかなくてはならない。

「これから大変だね。純くん?」

 そして、やはり彼女は突然に。踊り子、ハスターが姿を現した。

「あー! あー!! 出た出た! 純! 嘘つき女が出ましたよ! えんがちょ!」

「……、すみませんね。こいつ、失礼なことしか言えない馬鹿なんで」

「いいのいいの。本当のことだしね。私は嘘を吐いた。けど、あなたはそれも乗り越えて、信じる未来を掴み取った。本当に、ごめんなさい。それと、私が言うのもなんだけど……、おめでとう」

「あんたもノーデンスも必死だったってことでしょう。実際、クトゥルフはそれぐらいの相手だった。ノーデンスのやつはともかく、あなたはずっと謝ってくれてますし……。もう、いいです」

「あーまーいー! 純はこの人にあまーい!」

 エインセルを華麗にスルーして、ハスターは純に寄り添い、頬に口づけをした。エインセルが憤慨して何か喚いていたが、少しばかり思考停止していた純の耳には届いていなかった。

「ありがとう。純くん。これから困ることもたくさんあるだろうけど、私も相談に乗るから、何でも聞いてね」

「あ、ありがとうございます……」

(そうか。これからは、みんなをちゃんと幸せにできるように、俺が自分で考えて、ルルイエを導いていかないといけないんだな……。俺次第で、多くの人の人生が決まっちまうんだから……)

 純は覚悟を決めた。これから先、世界平和への第一歩として、問題が山積みのルルイエを平和に治めていくことを。

 ディープワンズに向け、純は言う。

「これから、よろしく頼む。絶対に、みんなが幸せになれるように頑張るから。でも、俺はまだ未熟だ。だから、みんなの力を貸して欲しい。……、頼めるかな?」

「おお……! 勿論ですとも! おい、皆に知らせろ! 純様が、正式にルルイエ王になられるぞ! 急げ急げ!」

 ディープワンズたちはどたどたと部屋を出て、廊下を走っていった。

 ディープワンズと入れ違いに部屋に入って来たのは、神宮と茜であった。

「先輩! もう大丈夫なんですか? どこか痛い所ありませんか?」

「よかった、純くん……。心配したよー。全然起きないんだもん」

「悪い悪い。もうなんともないよ。それより、お前らの方が無事で安心した」

 純は茜の首に包帯が巻かれていないことに気が付いた。それに、首にエラがなくなっていることも。

「茜……。お前、体元に戻ったのか?」

「うん。クトゥルフがいなくなったら、ディープワンズになりかけの人はみんな、元の体に戻ったよ。神宮ちゃんも」

「先輩のお陰です。あの、先輩……」

「なに?」

 言葉に詰まりながらも、神宮は頭を下げて必死に謝った。

「ずっとクトゥルフのことを隠してて、本当にすみませんでした……」

 下げたまま動かない神宮の頭に、純はそっと手を乗せて。

「言っただろ。悪いのはお前じゃないって。気にしてないから、いつもの神宮でいてくれ」

 純の手が離れると、神宮は頭を上げて純を見つめる。その顔は真っ赤に蒸気し、神宮は照れて身をよじりながら、純に言った。

「先輩……。もし、お時間があったら、その……。また、私とお出かけ……、してくれますか……?」

「はい、ダメー。ダメでーす。許しませーん。裏切者には罰を!! 今後、純に近づけない刑に処します!!」

 スマホからエインセルの怒涛の拒否が聞こえたが、純は無視した。

「いいよ。行こう」

「純ー!?」

「あ……。ありがとうございます……!」

 エインセルが視界の隅に収まり、不満そうにしているのを見ながら、純はなんだか懐かしい感覚に、思わず笑いをこぼした。



 外に出てみた純は、ルルイエにある高台から復興の始まった街並みを見渡していた。

 人間とディープワンズが、互いに協力しながら瓦礫を片付け、建物を再建する準備をしている。まだ人間はディープワンズを怖がっているようだったが、中にはもう打ち解けている者もいるようだ。

 純がクトゥルフとの戦いの中で見出した理想の景色が、一部であれ、段々と現実になっていた。

「きっと上手くいきますよ。ディープワンズの多くは、元々人間として暮らしていたんですから」

 端末義眼に、エインセルが純の隣に立っているように自分を映し、純に話しかける。

「ああ。暴動も起こさずに、よくここまでまとめてくれたもんだ。ルイスと銀の腕の連中に感謝しないとな」

 ジョルドの話では、銀の腕がドリームランドの本部から復興支援をしてくれているのだという。他にも、地球に残ったムー大陸以外の陸地で、生き残った人々がそれぞれ独自のコミュニティを築いたり、物騒な所では盗賊やら海賊も現れているのだとか。

 やることは山積みだ。純は考えに考えを重ね、己に課せられた役目の大きさに焦りを感じてしまう。

「ルルイエが復興できたら、今度は地球の生き残った人をルルイエに呼んでやらないとな。あと、暴れてるやつらは捕まえて、それから……」

「純」

 エインセルがそっと純に顔を近づけ、言葉を遮る。

「大丈夫。思い詰めないで、今は休んでください。脳に大きなストレスがかかってますよ。深呼吸して、落ち着いて。あなたは一人じゃありません。協力してくれる人を、ちゃんと頼りましょう」

「あ、ああ……。ありがとう」

 エインセルの言う通りに深呼吸をして、純は動悸を落ち着けた。

「純は頑張りすぎな所がありますから、ちゃんと私が見ていないといけませんね」

「お前は俺のおかんかなんかか?」

 ふと、純は父の最期を思い出して。もう父がこの世にいないのだと、思い出して。胸が苦しくなった。

 思わずこぼれた涙を隠し、純は手すりに寄りかかり、顔を両腕で隠す。

 エインセルは純が泣いているのを分かっていても、あえて言及することはなかった。その代わり、彼女自身のことを口にした。

「私、昔ラバン教授に言われたんです。“君もいつか、生きる意味を見つけなさい。それこそが、君を幸せにするのだから”って」

「……?」

「私はずっと、純とただ一緒にいられればいいと思ってました。でも、今は違うんです」

 純は少しだけ顔を上げ、エインセルを見た。エインセルは純に優しく微笑んだ。まるで、母親のような、慈しみに溢れた表情だった。

「今は、ずっと純の側で、純のことを支えてあげたいって思うんです。それが、私の見つけた、生きる意味。なんにも分からずにこの世界に来た私が出した、ラバン教授への答えです」

「お前……」

 純はまた涙が出てきて、慌ててもう一度顔を伏せた。

「これからも、よろしくお願いしますね。純」

 返事をするのも一苦労なくらい、純は泣いてしまっていて。

「……。よろしく……。エインセル……」

 頑張って返した言葉は、みっともないくらいにひどく震えていた。


「――――誰か! 誰か助けてくれえええええ!!」


 助けを求める声が聞こえてきて、純は顔を上げた。

 ルルイエの上空に、一匹の奇怪な巨鳥が飛んでいる。馬のような頭をした、全身が鱗で覆われた、全長五メートルはある鳥だ。

「あれは……、シャンタク鳥ですよ! 純! 人をさらったり、食べたりすることもある、危ないやつです! 急いで退治しましょう!」

 シャンタク鳥は大きな荷物袋を足で掴んでおり、それを地面に落として中に入っていた食料を食い荒らし始めた。ドリームランドへの入り口が開いているのを見るに、そこから入って来て、銀の腕が輸送中だった支援物資を奪ったのだろう。

「泣いてる暇もないな。……、エインセル!」

「はい! 純!」

「一緒にいろよ! 俺、頑張るから! お前のことも、絶対守るから!」

「私も、あなたを守ります! 約束ですね!」

 空に羽ばたこうとするシャンタク鳥の方へ、純は高台から飛び出した。

 目の前に飛び降りてきた純に、シャンタク鳥は威嚇の声を上げる。

 助けを求めていた人やディープワンズたちが、駆けつけた純を見て、その表情から不安の色を消した。

「さて、いっちょやったるか!」

 荒井純は戦い続ける。何度でも、その魂に着火して。

 混沌渦巻く世界に抗い、世界平和の夢を叶えるために。


 ――――着火せよ。魂を。魂に火を点けて、煌々と燃やすのだ。やがて、世界中の人々の魂に燃え移る、その日まで。


 ――――全ての人が、己の魂を燃やす時。


 ――――世界は明るく照らされ、真の平和が訪れるのだから。


「俺の名はフォマルハウト! いや……、呼び方は好きにしな! だが、これだけは覚えとけ!」


 ――――さあ。


 ――――燃やしたまえよ。魂を。



「ふざけた野郎は、誰が相手でもこの俺がぶっ潰す!!」




                       チャカチャカチャッカ!!    完






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ