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破滅の衝撃を防ぎきった純たちを、青ざめた顔で見ている者たちがいた。
ルルイエに集まった人間の生き残りと、力を持たぬディープワンズたち。
「た、助かったのか……?」
「あれ、あそこのやつらが止めてくれたんだよな……?」
人間もディープワンズも、遠くで空に浮かぶ純たちを見つめる。もう大丈夫なのだと理解し始め、段々と彼らの心に余裕が生まれ、歓声があがった。
人間とディープワンズが一緒になって、生き残ったことを喜び、純たちにお礼を叫んでいた。喜びに熱狂する声は、純の胸中に力強い勇気となって届いた。
彼の見出した、“新たな世界平和”。
過分な程に、その実現の可能性が、その景色には在った。
純はすぐ隣で、息を切らしながらも助かった喜びを分かち合う、共に衝撃を食い止めたディープワンズたちに諭した。
「俺たちが戦うのは……、もうやめよう。見ろよ。人間とディープワンズは、普通に一緒に暮らしていける」
ディープワンズたちは、遠くで人間と熱狂する仲間をしばらく見つめ、悩んでいるようだった。けれど、やはり彼らはクトゥルフの信奉者。そう簡単には、話に乗ってはくれない。
「クトゥルフ様を裏切るつもりはない。あのお方に間違いはない。今の危機も、お前たちを利用すれば止められるとあの方は判断したのだろう」
「すごいな。妄信的にもほどがある。でも、忘れんなよ」
鼻で笑う純の笑顔は、ディープワンズたちの心に何か、熱い感情をもたらす。純はまるで、それを見透かしているかのように、言うのだ。
「今こうして俺たちが生き残ってるのは、俺たちが力を合わせて頑張ったからなんだ。他の誰のお陰でもない。俺たちがやったんだ」
ディープワンズたちは何も言わなかった。ただじっと、彼らは何かに思い悩んでいた。
「おい見ろ! フォマルハウト!」
ジョルドが純の肩を叩く。純がジョルドの向く方を見ると、空の彼方から、戦いながらルルイエに落下してくるノーデンスとクトゥルフの姿が見えた。
クトゥルフを睨み、純はジョルドにこれから自分がすることを語る。
「俺はクトゥルフからエインセルを取り戻す。あいつの体から、エインセルを引っぺがしてやる」
「……。付き合うよ。無謀としか思えないが、不思議と君となら、できそうな気がする」
そう言ってくれたジョルドに、純は深く感謝した。
当のジョルドは、自分の体がもう戦えるほどの力を残していないことを理解していた。ディープワンズとの戦いからの、破滅の衝撃への抵抗。彼はもう、力を殆ど使い果てしてしまった。
(あとは君に任せるよ。フォマルハウト……。最後に、僕の役目を果たして……)
ノーデンスの命を懸けた奥の手は、クトゥルフを消し去ることはできなかった。
だが、クトゥルフも無傷ではない。クトゥルフは崩壊弾を打ち消すことに成功したが、崩壊弾同士がぶつかり合う衝撃に飲み込まれ、体が消し飛ぶ直前にまで追い込まれた。
ノーデンスに宇宙からルルイエに叩き落とされたクトゥルフは、全身の表皮が消し飛び、歩く人型の肉塊といった様相だ。
ノーデンスの体も、再生もまともに行えないまでに満身創痍。ノーデンスがそこまで身を呈して攻撃した結果が、クトゥルフのそのおぞましき姿であった。
だが、それでもクトゥルフは余裕を失ってはいない。実に恐ろしきは、深淵なるクトゥルフなり。
「残念だったな、ノーデンス。お前の捨て身の攻撃ですら、私を殺すことは叶わなかった。ディープワンズ共を失ったのは残念だが、究極の星辰さえ手に入れば、いくらでも新たな命を創り出せる。お前の努力も全て、無駄骨だ。これでお前も終わりだな」
「終わり……。終わり、か……」
ノーデンスは瀕死の体をひきずりながらも、クトゥルフに力強い眼差しを見せた。
「果たして……、この戦いには、どんな“終わり”が来るのだろうな」
クトゥルフの背後に、純とジョルドがブリンクで移動してくるのが、ノーデンスには見えていた。死んだはずの、地球にいた命。クトゥルフはまだ気が付いていないが、ノーデンスは地球にまだ生きる者たちが大勢いるのを、気配で感じ取っていた。
ジョルドが一気にクトゥルフに迫り、鋼鉄の右手をクトゥルフの背中に突き刺した。ノーデンスとの戦いで破壊され、再生中だったクトゥルフの体は、ジョルドの一撃すら弾くことができなくなっていた。
「貴様……! なぜ、まだ生きて……!?」
「受け取れ!! フォマルハウト!!」
ジョルドが純に投げ渡したのは、他でもない、エインセルのスマホだ。
「ジョルド……!」
「後は、頼んだ……。フォマルハウト。君なら……、やれる……」
ジョルドの鋼鉄の右腕が凍り付いていく。ジョルドは銀の腕を接続部から切り離し、体が凍り付くのだけは避けた。だが、銀の腕を失った彼に、もう戦う力はない。
怒りの声をあげて振りかざされたクトゥルフの拳が、ジョルドを殴り飛ばした。既に、ジョルドには立ち上がろうとする気力すら残っておらず。気を失って大地にその身を預けた。
ジョルドから託されたエインセル。スマホの画面は暗闇を映すだけで、いつもの元気な彼女の姿はない。
「エインセル! おい! エインセル!! 大丈夫か!? おい!!」
早く、早く彼女の元気な姿が見たい。純はようやく取り戻したエインセルに、必死で呼びかけ続けた。
「させん……!」
純を殺そうと、クトゥルフが動き出す。しかし、クトゥルフの体に、折れたノーデンスの三叉の槍が飛んできて、突き刺さった。
「煩わしいぞ……!! 死にかけの分際で、ノーデンス!」
「お前のようなやつには、とことんの所まで……、命がけで邪魔をしてやる!!」
純はエインセルを呼び続ける。彼女が帰って来てくれると、泣き出しそうな心を奮い立たせ、信じ続けて。




