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チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
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 戦いの舞台を宇宙へと移したノーデンスとクトゥルフの戦いは、苛烈さを極めていた。

 究極の星辰に関わる地球や火星などの巨大天体から離れ、星辰と関係のない小惑星が集まる宙域で、惑星を泥団子のように砕きながら、二柱の神が殴り合う。

 戦況は運動能力が遥かに優れるクトゥルフが圧倒的に優勢だ。ノーデンスはクトゥルフの両足と両手、そしてテレキネシスで作り出す無数の拳のコンビネーションの前に、成す術なく傷ついていく。

「先の大戦で随分弱っているな、ノーデンス!! それとも、ただ老いたか!?」

 ノーデンスをぶん殴り、クトゥルフは笑いを上げる。

 ノーデンスの体は殴り飛ばされ、体より遥かに大きな小惑星にぶつかり、粉々にしていった。

「それでも……!」

 クトゥルフにブリンクで背後に周られ、ノーデンスは拳を受け続けるも、クトゥルフの高笑いが頭の中で響くのを聞きながら、クトゥルフの攻撃パターンを予測し、なんとかクトゥルフの拳を雷撃で弾いた。

「お前と刺し違える程度のことは、できるぞ! クトゥルフ!!」

 拳を弾かれたことで、クトゥルフに隙が生まれる。

 ノーデンスはクトゥルフの胴体を掴み、地球へと一気に降下した。

「ぬ……、おおおおおおおおおおおおっ!!」

 宇宙空間から大気圏へ、燃えるような熱を感じながら、地上へとクトゥルフを落としきる。落下地点の大西洋が、落下の衝撃で海を揺らし、巨大な津波を産んだ。

 クトゥルフはノーデンスと共に海溝に埋まり、地盤を割ってマグマの噴出を身に受けた。

 だが、そのどれもが、クトゥルフにとってはかすり傷にもならない。

 クトゥルフが受けた傷は、ノーデンスの雷撃を受けた拳だけ。その拳も、すぐに治ってしまう。

 クトゥルフがブリンクで海底から海上に出ると、ノーデンスもブリンクで後を追う。しかし、ノーデンスが出現する場所をクトゥルフは読み切って、拳を既に構えていた。

 クトゥルフの拳が冷気をまとう。純を瞬時に凍らせた冷気が、ノーデンスの左肩に拳ごとぶち込まれた。

「ぐ……っ!」

 左肩から、ノーデンスの体が急速に凍り付いていく。

「――――効かん!!」

 だが、ノーデンスも最上級超越者だ。凍る速度を超して体を再生させ、クトゥルフの冷気を凌ぎきった。

「そうか。なら――――」

 本調子でないノーデンスを、クトゥルフは徹底的に追い詰める。

 クトゥルフの周囲に現れる、無数のテレキネシスの拳。クトゥルフはその拳全てに、先ほどと同じ冷気をまとわせた。

「限界の凍気を。お前の時が止まるほどの、凍気を……!」

 ノーデンスが危機感を持つも、既に時遅く。ノーデンスへ向かい、無数の拳は発射された。

「そのしみったれた体に受けろ!! ノーデンス!!」

ノーデンスに、冷気まとう無数の拳が直撃していく。戦争の傷が完全に癒えぬノーデンスと、全力を保ったクトゥルフとでは、その力の差は決定的な物だった。

 ノーデンスの体が凍り付いていく。凍った体に打撃が叩き込まれ、凍った体はひび割れ、体をより深く破壊する。驚異的な打撃の威力をさらに加速させる凍気。クトゥルフが誇る、絶対威力の破壊の方程式。

 クトゥルフのとどめの右拳が、ノーデンスの顔面をぶん殴った。

 地面を抉りながら倒れ、立ち上がることができなくなったノーデンス。必死に体の再生を進めて、なんとか命を保っている有様だ。

「なんともあっけない。あの旧神ノーデンスが、落ちぶれたものだ。これ以上、醜態を晒すこともなかろう。かつてのお前に敬意を表し、一欠片も残さずこの世から消し去ってやる」

 ノーデンスの体がクトゥルフに掴まれ、天に放り投げられる。ノーデンスは宇宙まで投げ飛ばされ、クトゥルフも宇宙に出た。

 クトゥルフが両手を合わせ、開くと、両手の間にどす黒い光の球体が生まれた。球体はエネルギーを注ぎ込まれ、今にも爆発しそうに震えている。

 ノーデンスはもう一刻の猶予もないことを悟る。究極の星辰が揃うまで時間を稼ぐどころではない。

 今、ここで、クトゥルフとの決着をつけなくてはならない。

(最後の手段……。使うしかあるまい……!)

 顔を上げたノーデンスのただならぬ眼光に、クトゥルフは面白そうに笑う。

「ほう……。あえて醜くあがくのか。実に良い。私はその方が好みだ」

「お前を生かしておく訳にはいかん。例え、地球を犠牲にしてでも……。私はドリームランドを守り抜いてみせる」

「本音が出たな。所詮、お前にとって人間は戦いの駒に過ぎんのだろう? ドリームランドの連中のために、地球の人間を利用する。素晴らしい手口だ」

「そうだ。私は私の目的を成し遂げる。命と魂を懸けて理想を追い求めるのは、お前だけではない。クトゥルフ。お前に教えてやろう。この、旧神王ノーデンスの最後の決意を」

 ノーデンスの体から、途方もないエネルギーが溢れ出し始めるのを、クトゥルフが感じ取った。

「何をする気だ……、貴様!」

 ようやく焦りの色を表情に出したクトゥルフに、ノーデンスは愉快そうに、にやりと笑うのだった。




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