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――――燃やしたまえよ、魂を。それこそが、命の神髄じゃあないか。
「……っ!?」
純が目覚めると、そこは暗雲立ち込める空の上。危うく落ちそうになりながら、自分が眠っていた足場を掴んだ。
「目が覚めましたか。フォマルハウトさん」
純を乗せて飛ぶ夜鬼を操るルイスが、目を覚ました純に声をかけた。
「なんでお前が……? 俺を助けてくれたのか?」
「クトゥルフが目覚める予兆を見せたので、あなたを迎えに来た所、あなたのスマートフォンのGPSを辿ってみれば、あなたが神社で倒れているのを見つけまして」
「俺はあいつらに何をされた……?」
「毒ですよ。以前、あなたが本部に来た時に持ってきた毒と同じね。我々はあの後すぐに解毒剤の開発を進めていましたので。急ぎ夜鬼に持って来させ、あなたに投与しました。超越者の力を有すあなたでなければ、とっくに毒に蝕まれて死んでいたでしょう」
純は夜鬼の背中に腰を下ろし、大きく息を吐いた。
「助けてくれて、ありがとう」
「これはこれは……。身に余る光栄ですね……」
純は腕と足を軽く動かして、体の調子を確認する。まだ痺れが残っているが、充分戦えそうだ。
「現在、世界中の海岸に渦潮状のワープポイントが発生しています。世界中の人間がクトゥルフに操られ、それを使って太平洋上に浮上したムー大陸の都市ルルイエに集まっているようです。可能な限りの攻撃をクトゥルフの眠る地点に加えましたが、全て見えない障壁で阻まれ、打つ手がありません。復活は……、止められないでしょう……」
行く手に雷鳴が轟いた。
毒で倒れる前の天気とは真逆の天候だ。世界は終焉に近づいている。
水平線に見える大陸に近づくに連れ、何か得体の知れない恐怖が、純の胸に湧き上がってきていた。
緑岩の都市ルルイエ。
クトゥルフの館へ続くルルイエの大通りに、人間とディープワンズが集まっていた。
ジョルドとノーデンスは、銀の腕の戦闘部隊を背後に控えさせ、大通りと館を一望できる、ルルイエ郊外の高原から様子を見ていた。
人間とディープワンズたちはクトゥルフに操られ、膝を折り、ひたすらクトゥルフの館へ祈りを捧げている。
「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐん。ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐん」
ノーデンスが顔をしかめ、遠く彼方の館を睨む。
「“ルルイエの館にて、死せるクトゥルフ、夢見るままに待ちいたり”……、か」
延々と繰り返されるのは、眠りに落ちたクトゥルフに捧げる慰めの祈り。
クトゥルフがすぐそこにいると分かっているのに、眠りながらも意識を保つクトゥルフが張り巡らせた障壁は、何者の無礼も許さない。
「ノーデンス様!」
スマホで通話をしていたジョルドは、ノーデンスに情報を伝えた。
「フォマルハウトが無事目を覚ましたようです。しかし、例の妖精が入った機械をディープワンズに奪われたらしく……」
「なんということだ……。荒井純の手にありながら、クトゥルフに外なる神の宝物を奪われてしまうとは……。こうなっては仕方ない。クトゥルフとは、私一人で戦う。ジョルド、お前はフォマルハウトと共に私の援護を頼む。それで、フォマルハウトはあとどのくらいで到着する?」
「あと二分程度でここに到着すると……」
「二分……。まるで、巡りあわせのようではないか……」
「……っ!? それでは、ついにやつが……!?」
ジョルドは拳を握り、緊張に身を震わせる。
そして、クトゥルフの館に祈りを捧げるディープワンズと人間たちの祈りが、熱狂の色を帯び始めた。




