第88話 つかの間の休養
ガデュスの治療を終え、行進スピードが急激に上がったゾデュス達一向は森の中を相変わらず歩いていた。
「ね~、まだ~? もう大分歩いたと思うんだけど~」
セラフィーナが似たようなことを言った回数は最早ゾデュスはカウントしていなかったが、それと同じ回数だけゾデュスは「まだだ」と言っていた。
だが、それも今回で終わりだ。
「もう着く。セラフィーナの早歩きのおかげで予定よりかなり早く着きそうだ」
「ホント? 本当に本当でしょうね?」
「あぁ、もう見えてきてるぞ」
ゾデュスがそう言ったとほぼ同時に森の木々の間から複数の天幕が顔のぞかせてきた。
ゾデュス達人間界侵攻作戦の先兵や次に続くための戦力を送り込むために設けられた駐屯地兼補給地となっている場所の内の一つである。
すると、駐屯地にいた魔人達がゾデュス達に気づいたのかこちらに数名の魔人が走ってくるのが見えてきた。
「ゾデュス閣下! なぜこちらに!? 人間界侵攻はどうなったのですか!?」
ゾデュス達に向けて放たれた第一声がこれである。
予想していた事だが、それを聞いたゾデュスは頭が痛くなってきた。
どう説明すればいいものか頭を悩ませたが、どのみちいつかはバレる話なので、ゾデュスは正直に話す事にした。
「人間界侵攻は失敗した。俺達以外の魔人は全滅だ。それに関してブリガンティス様に報告しなければいけない事がある。飛竜を3体ほど見繕ってほしい」
ゾデュスがそう駐屯地から出てきた魔人に説明すると魔人の顔は驚愕に染まった。
予想していなかった答えが返ってきたからだ。
ゾデュスとしても今の今までこんなことになるとは思ってもいなかったのだから当然の反応だろう。
駐屯地から出てきた魔人の反応があるより早く後ろにいたセラフィーナが言った。
「あ、私、飛竜の操縦とか無理。自分で飛んでいくから、2体いればいいよ。あと先にシャワー浴びたい。あるよね? シャワー」
駐屯地の魔人達は見知らぬ少女にどう対応していいか困っているとゾデュスが溜息を吐きながら言った。
「いいから案内してやれ。ガデュスの治療を行った協力者だ」
ブリガンティス軍軍団長のゾデュスにそう言われては、ただの一魔人でしかない魔人達は素直に従うしかなくセラフィーナをシャワーのある天幕への誘導を始める。
「で、ではこちらに」
魔人の一人がそう言うと、セラフィーナは迎えの魔人の後について歩き始めたが、数歩歩いた所で立ち止まり、ゾデュス達の方を振り返った。
「あ、くれぐれも覗かないでよね?」
「誰が覗くか! さっさと行け!」
セラフィーナはそれだけ言いたかったのか「あ、それならいいのよ」と言うと、魔人の後をついて行ったのだった。
セラフィーナは確かに美少女だが、いかんせんまだガキだ。
出るとこは出てないし、顔も童顔すぎて完全にゾデュスの守備範囲外なのである。
まぁ守備範囲内だったとしても覗きなどゾデュスの趣味ではないのだが。
そんな光景を見ていた迎えの魔人の一人がゾデュスに不可解そうな表情で尋ねてきた。
「あの少女は何者なのですか?」
「野良のハルピュイアだとよ」
「は、はぁ」
魔人は自分から質問してきたというのに気のない返事で返してきた。
あまり信用されていない様子である。
ゾデュス自身も信じてないので当然といえば当然の反応だが、ゾデュスもセラフィーナからそれくらいしか聞いていないのでそう答える他ないのだ。
「それであの方が戻られるまでどうされますか? 閣下」
「すぐ終わるだろうが、それまで休憩する。ここまで歩き通しだったものでな」
ゾデュス自身ほぼ戦闘を行わなかったので、それほど疲れはないが、ガデュスは別である。
セラフィーナの治療を受けたとはいえ、戦闘の疲れまでは癒え切ってないだろう。
少しの時間だろうが、それまで少しでもガデュスの疲れを癒す事ができればとゾデュスはそう答えたのだ。
「分かりました。では閣下たちはこちらへ。その間に飛竜の準備を済ますように部下のものに伝えておきます」
「そうか、分かった」
ゾデュス達も迎えの魔人に連れられて、休憩用の天幕へと向かう。
途中で迎えの魔人が部下らしき魔人に飛竜の準備を指示し、少しすると周りより一回り大きな天幕の前に着いた。
「こちらです。お連れの方にも終わったら閣下がこちらにおられる事をお伝えしておきます。では!」
そう言うと、魔人は仕事へと戻っていった。
天幕内はゾデュスとガデュスだけとなった。
ゾデュスとガデュスは備え付けられていた簡易な椅子にどすっと腰を下ろすと、ゾデュスは口を開く。
「なぁ、ゾデュス」
「なにぃ~、兄貴ぃ~?」
ガデュスが間延びした声で返事すると、ゾデュスは神妙そうな面持ちで言った。
「俺はブリガンティス軍軍団長を下ろされるだろう。恐らくだが、お前も部隊長を下ろされるはずだ」
ゾデュスは今回、魔王軍四天王ブリガンティスの密命により人間界侵攻に打って出た。
だが、ゾデュスはその作戦に失敗した。
それも四天王ブリガンティスから借りた戦闘タイプの魔人20体を全滅させるという最悪の結果をもって。
ゾデュスも散々馬鹿にしていたこれまでの歴代の軍団長と結局は同じだったのだ。
魔王ギラスマティアに守られているだけだと思っていた人間界の戦力はゾデュスが思うよりも遥かに強くなっていたのだ。
ゾデュスはそこまで古参の魔人ではないが、それでも魔王ギラスマティアが現れる前の人間界の事は知っていた。
ひとたび、強大な魔人が群れを成して訪れれば一夜にして都市が落ち、魔人アルジールが気まぐれでやってきては甚大な被害を及ぼされた。
それより昔の前魔王がいた時代は更に酷かったらしいが、それが魔界から見た人間界の姿だったのだ。
要はゾデュスは人間界の事を舐めていたのである。
もっと警戒感を持って、作戦に当たっていれば結果は少し違ったかもしれない。
ゾデュスは今はそんなことを思うようになっていた。
だが、人間界の戦力が整っていようがいまいが今回ブリガンティスから求められていたのは純粋な結果だ。
人間界の戦力が強かったという事など何の言い訳にもならない。
「でもさぁ~、兄貴ぃ~。別に構わないんじゃないかぁ~? だって、俺達これまでだって大したことしてきてないぜぇ~」
「いや、だからこそ今がチャンスだったんじゃねぇか。ブリガンティス様が俺に期待してくれてたんだぞ? たとえ軍団長の地位から落とされたって俺はやるぜ」
あまりやる気が感じられないガデュスにゾデュスが意気込みながら宣言するが、ガデュスにはやはり響いた様子はなかった。
「まぁ~、兄貴がそう言うなら協力はするけどぉ~」
「あぁ、頼りにしてるぞ、ガデュス」
(兄貴、確かに無名だった俺達をここまで引き上げてくれたのはブリガンティス様だけどあの方は俺達の事なんて……)
クドウ達に敗れた後でも高いゾデュスの士気と反比例するかのようにガデュスはそんな事を思うのだった。
ガデュスゾデュスのターンは次で終わりです。
90話からはいよいよ待ちに待ったあの方たちの登場です。
ガデュスゾデュスをモブだと思っていた皆さん、実はゾデュスはそこそこ偉い魔人だったのですよ




