第75話 筆頭勇者などというランクは存在しない件
「クドウさん、僕もお供しますよ」
シルフィルの買収に成功し、再びユリウスの元へ向かおうとした俺にアリアスがそんな申し出をしてきた。
俺が少し困った表情をしていると横からアルジールが割り込んでくる。
「無理を言うな。アリアスよ。お前では足手まといだ。——さて、では参りましょうか。クドウ様」
と当たり前かのように俺について来ようとするアルジール。
「いや、俺一人で行くけど」
「そ、そんな、私では足手まといだというのですか!?」
アルジールはショックを受けていた。
まさか同行を断れるとは夢にも思っていなかったのだろう。
とはいえ、俺にも考えがあるのだ。
この場合、俺一人で行くのが一番望ましい。
「そうは言わないが、お前まで行くと聖竜を刺激する恐れがある。だから俺一人で行く」
主な理由はそれではないが、アルジールの事だ。
フィーリーアに暴言を吐いて激怒させる可能性がある。というかかなり高い。
「……分かりました。このアール、クドウ様のご健闘を祈っております」
「あぁ、こっちの事は任せた」
そして、俺は転移魔法で転移したのだった。
魔界の東、四天王アルジール領へと。
クドウが去り、その場に残されたシステアが驚きの表情を浮かべていた。
「えっ、今のは?」
クドウが発動させたのは第1級魔法【テレポーテーション】。
転移門を出す手間を省き、瞬時に転移する転移系の魔法の最高位魔法。
一応、術者の力量によって移動距離に制限はあるが、クドウが使用すればほぼ距離の制限は存在しないに等しい。
「なんだ、知らないのか。あれは第一級魔法【テレポーテーション】。とはいっても私もクドウ様を含めても使用できるのは2人しか知らないがな」
「第1級魔法だと!?」
システアが大声を上げたのは無理もなかった。
第1級魔法はこの世界における魔法の最高峰。
現在の人間界に第1級魔法を行使できるものは存在しない。文字通り伝説級の最高レベルの魔法の総称だ。
「見たか!? ギルドマスター! あれがクドウさんの力だ! あの人こそ勇者に相応しい人! もし、あの人が勇者になれないというのならワシとアリアスは冒険者を降りるぞ! 絶対にあの人を勇者にするのじゃ!」
システアは興奮しながらギルドマスターに詰め寄る。
後々、ギルドマスターに話すつもりだったが、目の前の光景にいてもたってもいられなかったのだ。
システアは更にガランとニアを睨みつける。
「あ、俺も降りるッス」
「……私も」
クドウの知らない所で次々とクドウの勇者推薦が行われた。
そんな光景を目にしたアルジールは「うんうん」と満足そうに頷いている。
「私からも推薦させていただきます。というかあれほどのお方が勇者になれないというのでしたら私もギルドマスターを降りさせていただきますよ」
(少しおかしなお方だが、伝説の第1級魔法を行使できるお方が勇者になれないなどありえないがな)
ギルドマスターにクドウの勇者昇格について異論があるはずもないが、話はこれだけでは終わらなかった。
「あ、すいません、ちょっといいですか?」
「なんじゃ、アリアス、まさかクドウさんの勇者推薦に意見があるわけじゃあるまいな?」
システアがアリアスを睨む。
パーティーメンバーがパーティーリーダーでしかも勇者であるアリアスに対しての態度としてはおかしいが、誰も指摘することはない。
「あ、いえ、そうではなくてですね。ついでで申し訳ないのですが……」
アリアスはアルジールの方を見た。
「異例ではありますが、僕はこのアールさんも勇者に推薦します。上位魔人を圧倒する驚異的な戦闘能力。十分に勇者に値するものだと僕は今回のアールさんの活躍で確信しました」
それにガランとニアも同意する。
「私などがクドウ様と並ぶなど……」
満更でもなさそうなアルジールだが、クドウと序列で並んでしまうのはかなり抵抗感があるのか少し言い淀んでいた。
アルジールは基本的に自信家だが、クドウが絡むと一気に謙虚になってしまうのだ。
「ではこうしましょう。クドウさんが筆頭勇者、私とアールさんが勇者ということで」
これならば、同じ勇者だが、クドウだけが1ランク上の位置づけになる——気がするとアリアスは思った。
ただ問題が一つ。
「アリアス様、冒険者協会の冒険者ランクには筆頭勇者などというランクは存在しません」
「じゃあ、作ってください」
「……そんな無茶な」
ギルドマスターと言えば聞こえはいいが、所詮は一都市の冒険者協会のトップでしかなく、そんなことを決める決定権までは持っていないのだ。
「作れ」
アリアスに続き、システアがギルドマスターを睨みつけるとギルドマスターは溜息を吐いて降参した。
敵が余りにも悪い上に多すぎる。
「分かりましたよ。私のギルドマスター生命を賭けさせていただきます」
「私も会長殿に推薦させて頂きますよ。我が神を救いに旅立たれたお方を無下にするなどユリウス教の協議に反します」
そう言ったのは法王ではなく都市長だった。
勇者推薦の直接的な権利を有してはいないが、それなりに大きい都市の都市長をしているくらいだ。それなりに影響力は持っている。
更に——。
「私もご協力しますよ」
ユリウス教の最高指導者である法王の協力まで得られたシステアは満面の笑顔を浮かべたのだった。
クドウとアールの勇者昇格待ったなしの展開になってきましたね。
『魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!』というタイトルなのにまさかの神様を助けに行くという謎の展開になってきましたが、クドウは聖竜からユリウスを助け出すことはできるのでしょうか?




