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急展開ですが、ざまぁの二人目が登場です。
王城でセヴラン様の仕事を手伝った帰りのことだった。
玄関ホールが騒がしいなとコレットさんと二人で顔を見合わせたのだが、事情を知っている侍女さん達に話を聞くと、ロア公爵家に侵入者があったとのことだった。
その時は馬鹿なことをする人も居たものだと思ったのだが、毎朝のように繰り広げられている衣装決めの攻防で勝利したコレットさんに侵入者の特徴を聞いたら、何となくではあるがそれに該当する人物を知っているような気がした。
まぁ、捕まっている以上、会うことはないだろうし筆頭公爵家に侵入したとなったら確実に牢屋行きだろうなと思っていたら、私設騎士団の人たちが地下牢に運びこもうとしているところに偶然遭遇してしまった。
まさかなぁと思っていたのだが、聞いていた特徴の通り、勇者のハーレムメンバーだった猫族のお姉さんだった。
「まさかと思いましたけど、侵入者って貴女だったんですか?」
「っ――!!! ――!!!」
彼女は私の姿を視界に入れると、ものすごい勢いで文句を言ってきたのだが、一向に罵り言葉が聞こえてこない。猿轡もされていないのに何故だろうと思ったら、ロア公爵家の私設騎士の人たちが魔法の詠唱が出来ないように沈黙の魔法をかけたようだった。
「知り合いかい?」
「ええ、まぁ……。一応、勇者のパーティメンバーの斥候の人でした?」
「え、でした?」
「今もパーティメンバーなのかは知りませんから。ほらここ、隠されているけど、以前は奴隷紋なんかなかったし……」
そうなのだ、勇者のパーティに居た当時、彼女には奴隷紋はついていなかった。裏ギルドに所属していたらしいから、私が居なくなった後に何かヘマをして奴隷に落ちたのだろうか?
「奴隷紋となると、犯罪奴隷だろう? 犯罪奴隷は例外なく辺境で強制労働の刑に処されるはずだ、王都にいる方がおかしくないか?」
「そうだな。おい、至急閣下にご報告をしろ!!」
鑑定眼で軽く見ただけだが彼女に奴隷紋があると伝えると、犯罪奴隷と騎士さんがロア公爵様に報告をするようにと指示を出し、猫族のお姉さんはそのまま地下牢に連行されていった。
侵入した目的が不明であり、現役宰相であるセヴラン様やロア公爵を狙った可能性も否定できないため、本人はもとより奴隷の主も反逆罪に問われる可能性もあるとのことだった。そのため、一旦はこちらで身柄を拘束したのちに王都の騎士団の方に引き渡すことになると教えてもらった。
慌ただしく私設騎士の人たちがこの案件を処理していくのを眺めていると、ロア公爵様は私と侵入者である猫族のお姉さんが顔見知りだったことで詳しい話を聞きたいらしく、執事さんから執務室に来てほしいと言われた。
執務室には騎士さんが既に控えており、私はロア公爵様と何処で私がこの屋敷にいるのがバレたのか心当たりがあるかと聞かれた。心当たりと言えば、確実に先日のギルとヴィクトル兄様と市民街に出かけた時くらいしかなかった。
「なるほど……。確かに先日の外出の時に見かけて後を付けたと考えるのが自然だな」
「あの人と話をすることは可能ですか?」
「ん? 何かあるのか?」
「奴隷紋の鑑定をしておこうかと思いまして……。誰が主人か解れば後ろにいる人も分かるんじゃないかなと」
「それは是非とも頼みたいが……、君の負担ではないのかね?」
「慣れているので平気です。今回は深く視ることになるので、多少目が疲れるとは思いますが」
「なら、お願いしよう。ただし、くれぐれも無理はしないようにな」
騎士さんと一緒に地下牢に下りるが、地下牢はもっと陰鬱とした空間なのかと思ったらそうではなかった。重厚な石造りの通路は隙間なく敷き詰められており、ただ地下特有の湿気を含んだひんやりとした空間が広がっているだけだった。
今では殆ど使われていないため、牢屋を取り壊して一時は食糧庫にしようかという話も出たらしいが、牢屋だった場所に保管をした食材を食べたくないと言う話になり、結局そのままになったとのことだった。
地下牢の一番重厚な設備が置いてある部屋に、猫獣族のお姉さんはいた。
「本当なら子供には見せたくない光景なんだがな」
「そのあたりは同意します。私もあまり見たくないですが、この場合は仕方ないですよ」
斥候職である彼女の脱走を警戒してか、目隠しと猿轡をはめられており更には両手両足を開いた形で拘束されており、その上で拘束具には資格を持つ者しか解除できないよう、魔法陣が刻まれていた。
騎士さんと話をしながら、鑑定眼を使い目の前の人物の情報を読み取っていく。
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名前:ジェシカ(シー)
種族:猫獣族と魔族のハーフ
所属:闇ギルド・勇者パーティ【?】
年齢:19歳
状態:睡眠・沈黙・中度のパロ毒中毒症状・催眠・奴隷紋(主人:アリア・アン・マクラクラン)
スキル:闇魔法Ⅰ・風魔法Ⅱ・斥候Ⅱ・気配察知Ⅲ・探索Ⅰ・毒Ⅲ―――etc
…………
備考:―――同族を売った為、一族から追放。以後、名前をシーと名乗る。勇者のパーティ加入の後、アリア・アン・マクラクランの奴隷となった。
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生きている人を全て鑑定するとなると、情報が処理しきれなくなって頭が痛くなってくるがこの際は仕方がない。ふら付いたところを支えてもらい、傍にあった机の上で必要な情報を羊皮紙に書き上げた。
「大丈夫かい? 顔が真っ青だが……」
「少し休めば何とか……」
必要ない情報もあるが、必要なものと言えば逃亡防止の彼女のスキル情報と、奴隷の主が誰なのかだろうか。書き終わったものを渡すと、騎士さんは困った顔になってしまった。
何となく予想はしていたが、奴隷紋を刻んだのが聖女アリアだったとは。
「ううむ、血は争えんという事か」
「聖女のことですか?」
「知っているのかね」
「まぁ、あの人の奴隷に対する態度とかは最悪でしたし、後から知りましたけど父親が奴隷王と呼ばれて粛清されたくらいですから、奴隷紋を刻む方法くらい知っていてもおかしくないかなと」
「なんであれ、閣下に報告せねばならん。サラ君も協力をしてくれてありがとう」
奴隷王というのは、謂れのない罪で奴隷にされた被害者が多かったことに由来するらしい。聖女の父親を頂点として、黒いうわさがある貴族たちも芋づる式に悪事が発覚し、被害者は分かる限りでは百人を超えると言われたほどの事件だったらしい。
「あ、ついでで申し訳ないんですが、冒険者ギルドにも連絡を入れてください。アサギさん夫婦宛でお願いします」
「事が事だけに閣下に報告してからになるが、構わないか?」
「はい」
ついでと言わんばかりに冒険者ギルドへの連絡もお願いした。今回の騒ぎは確実にアサギさん達が追っている聖国と奴隷に深い関わりがあるにはずだ。
今なら、物的証拠として聖女の奴隷になっている猫族のお姉さんがいる。
アサギさんはセヴラン様との繋がりもあるから、セヴラン様経由で話が行く可能性もあるが、ここは念を入れておいた方が良いだろうと思ったのだ。
部屋に戻って少しばかり椅子に座って休憩をとり、頭の中に流れ込んだ情報を整理していると、パロ毒中毒という見慣れない単語が気になった。
余り親しい間柄ではないが、彼女は重要な証拠であり証人である。ここで死なれるのも拙い。もしかしたら医者も必要になるのではないかと思い、私はコレットさんに頼んで追加のこと付けを頼んだのだった。




