王様の戦い【完結お礼小説】
貴殿の国と親密な付き合いをしてきたい。
そうアース国の魔王から手紙が届いた。その瞬間、私は感動で打ち震える。
良かった……本当に良かった。
「ちょっと、何? 泣いてるの?」
「あたりまえでしょう。これで戦争回避できるのよっ!! あの時、賭けにでて本当によかったわっ!!」
5年後の交流を早めるという話が初めて出た時、この話に乗った方がいいのか、それとも止めた方が良いのか全然分からなかった。乗れば原作から離れる、でも乗らずに原作通りに話が進んだ場合、この国はアース国と戦争することになるのだ。
原作から離れた時に起こる事は未知数。でも原作から離れなければ戦争が起こり、下手したらこの世界の滅亡フラグだ。でも、勇者が魔王ルートに入ってくれれば、犠牲者は多数出ても、世界滅亡エンドだけは回避できる。
「ねえ、言葉遣いがオネエに戻ってるわよ。ここには私しかいないからいいけどさ」
そう言って、私の妻であり、協力者であるアンが呆れた眼差しを向けてくるが、涙が一向に止まらないのだから仕方がない。
「だって。本当に、何で私ブァン国の国王なんかに生まれちゃったんだろって思ったんだもの。前に話した通り、私にはこの国の未来が書かれた書物を読んだ前世があって、もう不安で、不安で」
「ロキがその記憶持っているのは、王様としてこの国を正しい方向へ進める為の、女神様からの祝福かもしれないのに、オネエの演技が上手いだけっていうなんとも情けない状況だものね。よしよし。でも王様としてよく頑張ったと思うわよ」
そう。私しには前世の記憶というものがあった。しかも女性だったという前世の記憶だ。そのおかげで、私は男であるにも関わらず、性格は何処か女っぽい。
ただすべての記憶が揃っているわけではなく、自分についてはうっすらぼんやりとした記憶なので男であるには違いなく、勿論好きになるのも女性だ。なので私には妻が3人いて、ちゃんと子供もいる。
それぐらいぼんやりとした記憶しかないのに、私の頭の中には『RPGの中心で愛を叫べ』と呼ばれるゲームの記憶だけがしっかりと残っていた。
私の魂の持ち主は相当この乙女ゲームが好きだったのかもしれない。もしくは、周りに誰か好きな人がいたのかもしれないけれど、それはもう調べようもない事だ。
とにかく私はブァン国の王子としてこの世に生を受け、数年何も知らない状態で成長し、ある時剣の訓練中に自分の木刀で頭を打って前世を思い出した。最初は何でこんなゲームの事だけ異様に覚えているんだと頭を傾げたものだが、隣国との情勢などの話、自分を含めて周りの人達の名前が神話に基づいた名前であること、勇者と言う職業があるこの国の体制などを知っていくうちに、この世界が思い出したゲームとリンクしている事に気が付いた。そしてしばらくして、この世界がゲームの世界の過去であるという結論に行きついた。
前世の記憶の所為で、そのゲームの結末がどれだけ恐ろしいものかも分かってしまった私は、気が付いて以来毎晩悪夢に悩まされることになった。
怖くて仕方がなかった。元々あまり争いごとを好む性格をしていなかった私は、戦争になるというのが恐ろしくてたまらない。
そして私はこの現実から逃げてしまいたくて、愚図の振りをする事にした。せめて戦争になったとしても、私の命令で兵隊を動かすなんてしたくなかったからだ。あえて女言葉を使い、女のように振る舞って、私がおかしくなったと周りに思い込ませた。元々女性だった事もあって、女のようにふるまうのはそれほど難しい事でもなかった。
ただ私の願いを無視して、世界はゲームと同じように無情に廻る。最初は私以外の王子たちがチャンスとばかりに口で争い始めただけだった。別に誰が王になってもそれほど問題ないだろうと思って、私は目と耳を塞いでいた。私は異母兄弟達の能力を信じていたし、争いが酷くなっても父が何とかするだろうと考えていたからだ。
でも気がつけば、主力だった王子たちはお互いではなった暗殺者で共倒れ。父は病気で崩御。このままでは王家事態存亡の危機という状況になっていた。
愚図で狂った王子を引っ張り出してこなければいけないぐらいの状況に。
最初は家臣たちに泣きつかれても無視を決め込んだ。私が王となったってこの国を終わらせてしまうだけかもしれないのだから。だったら、血が薄くても王の器がある者がなればいいと。
しかし次に、私の元へ送られたのは、アングルボザという王家から離れた血筋の娘だった。そして初めて会ったアンは、愚図な振りをしようとした私の頬っぺたを思いっきりひっぱたいた。……今思っても酷い出会いだ。でもアンは私がもしも王家を見捨てて馬鹿の振りをしても最後までついていくといい、私の運命は貴方の手の中だとか勝手に責任を押し付けてきたのだ。
どれだけ逃げても、アンの運命だけは私にかかっている。逃げ惑って、色々手をつくして……結局私が先に根を上げた。
どうせアンの運命の責任をとることになるなら、毒を食うなら皿までだと、運命を変える為の選択に乗り出すことにしたのだ。
「貴方を選んで本当に良かったと思うわ。他の王子だったら、戦争に勝つ事しか考えていないもの。貴方は戦争ではない方法で繁栄していく事を考える。ちゃんと、賢君だと思うわ。まあ、私が選んだのだから当然だけどね」
「私は貴方の所為で私の人生めちゃくちゃよ。……上手くいったから良かったものの。トール達をアース国に行かせてから、本当に眠れなかったんだから」
もしもこれが戦争のきっかけになってしまったら。
もしくは運命が変わった事で、世界が滅亡の方向へ進んでいってしまったら。あらゆる失敗パターンが頭に浮かぶので、1つ1つそれを潰しながら、胃の痛みに耐えていた。
両隣の国との同盟を結ぶよりも優先しても良かったのかどうか……分からない。分からないけれど、やるしかなくて、オリュンポス国やタカマガハラ国のご機嫌を伺いつつ行った。
でも成功した今は、あの時フレイと言う少年の言葉に従ってよかったと思う。
あのフレイという少年は、生まれた時から神童であると有名だった子で、ゲーム本編では勇者パーティーでの頭脳担当の子だった。ただ頭が良いだけではなく、何となく、本当に何となくだが、私と同じものを感じて、彼を信じることにしたのだ。この世界に前世の記憶を持ているのが私だけではなく、きっと戦争を回避したいと思っている者は居るに違いないと信じて。
「上手くいったのだからいいじゃない」
「ええ。でもこれからが大変なの。この国はアース国とだけ仲良くすればいいってものじゃないもの。人族の国々の中には、魔族と仲良くする事すら嫌悪感を持っている国もあるわ。今のところ表だって非難はされていないけれど、同盟を結ぶと言ったらどうなるか分からない」
魔族と手を組んで戦争を仕掛けて来るのではないかと怯える国はいくつもあると思う。
だから今後はアース国と他国との仲を積極的に取り持っていかなければならない。またフレイから聞いた、魔物との付き合い方。こちらも早めに習得して、隣国へその情報を輸出しなければいけないだろう。ブァン国が戦争をしないで済む状態になったからと言って、周りがそれを許してくれる状態とは限らないのだから。
「ロキ……貴方って、本当に考えすぎよね。なるようになるわよ」
バンバンと叩くアンは実に男らしい。サバサバしているというか。違うか。私が女々しいのかもしれない。
せめてもう少し前世の知識とか持っていたら、今頃超神童とか言われて、賢君としてたたえられていたかもしれない。でも私がこの世界へ引き継いだのはゲームの知識と女々しさだけだ。
きっと前世でも女々しく色々後悔とかしてばかりの女だったに違いない。
「女々しくてごめん」
アンは本当によく私に付き合ってくれている。
誰か重要なこの国の幹部の命令で嫁いできただけだったのかもしれないけれど、私のたわごとのような話にちゃんと耳を傾け、ここまで付き合ってくれた。
「何言ってるの。そこが素敵だから私の命を貴方に捧げてるんじゃない。貴方はとてもこの国の事を考えてくれている素晴らしく優しい王だわ。貴方がこれだけ考えているんだもの。例え間違った道に入ってしまっても、私は貴方を絶対責めず、一緒に次の手を考えるわ」
「ありがとうアン。愛してる」
私はアンをギュッと抱きしめる。
少しだけ休んだら、また現実に向かうから。だから少しだけ癒されたい。
「貴方はこのゲームの主人公ではないかもしれないけれど、とてもカッコいいと思うわ」
その言葉で私はもう少しだけ頑張れそうだと私は目を閉じた。




