2/第一の試練 -7 大親友予定
「もー! みさおも大親友予定なんだぞ!」
「えっ!」
「え……?」
僕とほのかちゃんが同時に驚く。
そして、ほのかちゃんの剣呑な視線が再び僕を貫いた。
ああ! けっこういい感じに話せてたのに!
「……さえちゃん、どうして? 大親友なんて言葉、私以外に使ったことなかったのに」
「──…………」
さえちゃんが、姿勢を正し、ほのかちゃんを真正面から見つめる。
「放っておけなくて」
「放って、おけない……?」
「……ごめん、みさお。トイレでのこと、言っていい?」
「あ、うん。いいけど……」
恥ずかしいけど、ここは断る場面じゃないと思った。
「……みさお、ね。トイレで、たまたまうちと会って、すぐに泣き出しちゃったんだ」
「え──」
目を伏せる。
顔が熱い。
僕は肌が白いから、紅潮しているのがすぐにわかるだろう。
「昨日会ったときも、歌音せんぱいの背中に隠れて、ずっと不安そうで……」
「──…………」
「その姿がね。出会ったころの穂乃香と重なって見えたんだ」
「……私、と」
「だから放っておけないし、仲良くなりたくなった。ダメかな」
ほのかちゃんが、そっと溜め息をつく。
「……ずるい。そんなこと言われたら、断れっこないよ……」
「あはは、ごめん……」
「もう」
ほのかちゃんが呆れたように笑う。
「尋ねる相手、もう一人いるよ」
そう言って、僕を見た。
「あ……」
「みさお」
さえちゃんが、僕に問う。
「みさおを、うちらの、大親友予定にしてもいい?」
「──…………」
思わず下を向く。
スカートの裾を掴む手が震えていた。
嬉しかった。
僕は、嬉しかった。
これまでの人生で、ずっと、親友どころか胸を張って友達と呼べる人すらいなかった。
僕は、彼女たちと二十歳も離れていて。
彼女たちを、騙してもいて。
それでも。
それでも──
大親友になりたいと、そう思ってしまったのだ。
「……ダメ、かな。みさお」
「──…………」
ふるふると首を横に振る。
涙が、ぱたぱたと手の甲に落ちた。
「田町、さん……?」
ほのかちゃんの声が、心配にすこし震えている。
「穂乃香。うち、壁になるから、みさおを見てあげて。みさお、泣き虫だから」
ほんとそうだ。
この姿になってから、僕は泣いてばかりだ。
そっと、目元に柔らかい布が触れる。
優しく涙を拭ってくれる。
「……ごめんなさい、みさおちゃん。私、さえちゃんが取られるかもって思って」
ほのかちゃんが訥々と自分の気持ちを話し続ける。
「でもね、気付いたの。みさおちゃんは、私たちのこと、羨ましそうに見てた。絶対手に入らないものを見るような目で、笑ってて……」
よく見ている。
僕は、二人を羨んでいた。
百合を愛でるという名目で距離を取り、仮に仲良くなれなくても傷つかないように予防線を張っていた。
「……だから」
ほのかちゃんが、涙で濡れた僕の手に、自分の手のひらを重ねる。
「私も、あなたと、仲良くなってみたいって思った。……いい、かな」
そんなの決まってる。
いいに決まってる。
言葉にならない想いを、必死に頷くことで伝える。
「わ! そ、そんなに激しく頷かなくても……」
「ご、ごご、ごべん……!」
やることなすこと極端で、不器用な僕だ。
三十二年の人生で、ただの一人の友達もいなかった僕だ。
自分のことが嫌いな、僕だ。
でも。
「……こんな僕、で。いい、……の、かな」
唇が勝手に動く。
言葉が湧き出てくる。
「大親友になって、いいのかなあ……」
「……うん」
ほのかちゃんが、そっと僕を抱き締めた。
「いいよ」
温かい。
いい匂いがする。
「なろうか」
「……うんッ!」
嗚呼。
九日後には、元の姿に戻らなくてはならないのに。
五分ほどで泣き止み、ほのかちゃんが持っていた目薬を借りる。
赤く腫れぼったい目も、これですこしはましになるだろう。




