燃える回廊
荘厳なる王宮の回廊が、赤く揺らめく炎の帳で覆われている。
「降られるがよい、兄上。強いことは知っているが、この数の不利を覆せはしまい!!」
一人の少年が、剣を手に叫んだ。紅玉のような澄んだ赤い瞳が、周囲の炎を映し出していっそう深い煌めきを放っている。
少年は三十近い兵を従えていた。対して、対峙する青年は一人である。
この二人は兄弟であった。
茨という名の大国の世子――羋烙漣。
その弟――羋蒼旅。
「数の多寡など知ったことか。蒼旅よ、お前を王にするわけにはいかない。父の跡を継ぎ、茨国に君臨するのは私だ!!」
その決意が虚勢でないことは、剣を構える姿と、少しの揺籃も見えぬ鋭い眼光から見ても明らかである。
炎の檻と戈矛の柵に囲まれながら、しかし羋烙漣は不退転の覚悟であった。数において有利を誇る羋蒼旅と麾下の兵たちも、その威風に、思わず怯んでしまった。
「父上は兄上を太子と定めておられました。弑逆などせずとも、いずれ兄上が王となっておられたでしょう!!」
当惑の混じる声を聞いて、羋烙漣は一瞬だけ静かに瞑目する。そして、眦を決して羋蒼旅に極大の殺意を向けた。
「お前は知らずともよいことだ!! 何も知らぬまま、ここで果てるがいい――蒼旅!!」
裂帛の気勢を吐き、羋烙漣は駆け出す。電掣の速さで迫られ、羋蒼旅は狂乱しながら剣を振るった。
兄弟の刃が交わり、戛撃の音色を打ち鳴らす。互いに決して退けぬ骨肉の争いが始まった。
本作は自作『春秋異聞』の外伝となります。ですが、特に本編を読んでいなくとも支障はないです。
ですが、気が向かれましたら本編のほうも読んでくだされば嬉しいです。
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