あなたはレディ
談合が始まった。フランシスカに護衛をつける件については、もう話がついている。次に問題となるのが、補給物資の話だった。フランシスカとしては、食料に余裕があると、とても気が楽だったのである。誰だってそうだ。
あまりマリアンヌにばかり頼るのも気が引けるフランシスカだったが、幸いにも、フランシスカ領は距離的に近い、はず。そこまで大量の物資をお願いしなくても良いだろうと、フランシスカは判断した。よって、願いを出した物資は、最小限。
「フランシスカ様の領が近いとはいえ……その程度の補給物資で、大丈夫ですか?念のため、多めに食料を持って行った方がいいのでは」
逆に困惑しているマリアンヌ。フランシスカが慎ましすぎるからである。
「これほど良くして頂いて、その上、大量の食糧を願うことは出来ません。現状で頂ける物資だけでも、とてもありがたいのです。護衛も、本当に心強いのです。ありがとうございますという言葉しか、こちらにはありません」
「そうですか……旅の無事を祈っています。赤い牙という集団もいますしね。しかし……ホウオウ殿がいれば、大丈夫な気もしますね」
「世話になった」
ホウオウが短く言った。愛想が無いように聞こえるが、彼女なりに真心のこもった言葉である。
「とんでもない。どのような経路で、フランシスカ様の領地まで、行かれるつもりですか?」
「森を抜ける気でいます。ガラハの洞窟とやらを通る方法もありますが、どうも、キナ臭いというか……洞窟は、待ち伏せがしやすいですからね。森は、移動速度こそ遅くなりますが、誰にも見つからないでしょう。安心して私の領地まで向かうことが出来ると思います」
「賢明な判断だと思います。もう、立たれるのですか?」
「はい。そろそろ、いかねばなりません。この、テレパスの紫水晶……大事にします。何か困ったことがあれば、連絡をください。すぐに準備を整えて、この度の御恩を返させてください」
「ありがとうございます。紫水晶は、片道通行のテレパス。そちらから、こちらに声をかけることは出来ませんから……呼びかけに応じてくださると、とても助かります」
「了解しました。それでは、出発したいと思います」
フランシスカが席を立った。白い服が揺れる。マリアンヌもドレスを揺らしながら、立ち上がった。
ホウオウとシュクレも、自然と立ち上がる。準備万全である。
フランシスカは、ひざまずき、マリアンヌの手を取り、手の甲にキスをした。
マリアンヌの顔が赤くなる。
「フ、フランシスカ様、何を」
「敬意です」
「こ、困ります」
マリアンヌがおどおどと後ずさった。とても嬉しそうである。
「ふふ。では、私は自分の領地へ向かいます。護衛の方たちと共に。そして、ホウオウとシュクレ殿と。二人とも、行きますよ」
「了解」
ホウオウは頷いた。シュクレも頷き、さながらシュクレも部下のようである。
フランシスカは、祈った。
どうか、マリアンヌのような、優しい聖女と、反旗を翻せますように、と。苦難の道のりが続くことは、予知出来ず。