時として敵を
フランシスカは、補給された物資を持ち、街から出ることになった。ホウオウとシュクレ、それに、五人の護衛が付いている。護衛は、黒い鎧を着ている。歩きづらそうである。しかし、人が増えたのは頼もしい。
マリアンヌから手渡された紫水晶は、大事にカバンにしまってある。街から出る際、マリアンヌが見送っていたが、同時に紫水晶のテレパスで、『いってらっしゃい』という声がフランシスカの頭に響いた。距離はかなりあったので、紫水晶のテレパスは、本物だと言えよう。
フランシスカ領へ入るためのルート。そこの、おおまかな場所は、国王から教わっている。国王から教えられたというのが、気に食わなかったが。必ず、復讐するという気持ちが、嫌でも出てくる。
ルートはいくつかあった。ガラハの洞窟というのを潜るのが、正式なルートのようだったが、フランシスカはそれを避けた。
何故か?罠の可能性があると、フランシスカの直感が告げていたからである。あまりにも、わかりやすい進行ルートになってしまう。マリアンヌは善人だったが、他の聖女もそうとは限らない。現に、ミリアムとナイムは戦いを起こしている。そして、赤い牙の存在。フランシスカの追放を耳にして、どこかに罠を張っている可能性は、無いとは言い切れなかったのだ。
よって、フランシスカは森を抜けることにした。若干遅い行軍速度になるが、敵、認識できない敵に発見される可能性は極めて少ない。幸い、樹海のように迷いやすい森ではないようだし、フランシスカはそこを通る旨を皆に伝えた。皆、頷いていた。そもそも指針の決定権はフランシスカにあるのだから、異論の挟みようもない。意見できるのは、ホウオウくらいだろう。それに、土地に詳しいシュクレ。
そのシュクレが語る。歩きながら。全員行軍している。
「フランシスカ殿、領地へ着いた後のことは、考えていますか?マリアンヌ殿は善人だった。しかし、他の聖女も同じとは限らない。いわゆる、一つの協定が、私たちとマリアンヌと間で結ばれました。しかし、それは若干軽率だったかもしれません」
「というと?」
「パワーバランスです。聖女同士が、手を組んだ。これは、アクドラ全土を動かす出来事かもしれません。いや、確定です。動きます。今までは、聖女同士の協定など無かったから、聖女は拮抗を保っていた。しかし、大きな勢力が出来てしまった。我々のことです。このケース、他の聖女がどう捉えると思いますか?」
「二択です。私たちの戦力を削るか、我々の仲間になる。私たちを放任すれば、戦力は無尽蔵に上がっていく可能性がある。そうなる前に、削る。もしくは、軍門に下り、私たちに協力する。しかし、これはあくまで、『フランシスカとマリアンヌの協定』が、知られているケースの話です。要は、知られなければいい。徹底して情報を流さない。そうするしかない」
「それは異議があるな」
ホウオウが口を挟んだ。フランシスカがホウオウの方を見る。
「例えば、他の聖女と手を組んだか質問されたとして、ノーと答えたとする。しかし、実際に我々は、マリアンヌと手を結んでいる。つまり、嘘をつくことになる。嘘つき。そんなやつ、信頼出来るか?今後、他の聖女と手を組むことは難しくなると思うぞ」
ホウオウの言葉に、フランシスカが納得したように頷く。
「そうね。つまり、その状況を知られなければ良い……ベストは、接触されない。領地はアクドラの一番東なのだから、そこまで辿り着けば、容易に干渉は出来ないはず。偵察部隊があったとしても、敵のアジトに潜入するのは、勇気がいるでしょう。よって、我々がすべきことは、より早く領地に辿り着くこと」
「マリアンヌが接触されてしまったら?」
「それは、話がついています。マリアンヌに任せます。まだ、私とマリアンヌが接触したことを、どの聖女も知らない。それに、いざとなれば紫水晶のテレパスがある。我々の協定のせいで、マリアンヌに迷惑がかかるようなことがあれば、我々はマリアンヌの元に参ずる。それが恩義」
「妥当。わかった」
ホウオウがうんうんと頷いていた。彼女は意外と鋭い。
「進軍を続けます。皆、ついてくるように」
フランシスカは凛とした声で言った。その声は、追放された時より、逞しく響いた。




