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d|IF|fer Affection  作者: 江川無名
第二章 「憎悪と感情」
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第十五話  再会と双子

 翌日。

 時刻は十時頃だろうか――人々の声が騒がしくも心地よく都市(まち)中に響き渡っていた。


 最早、雨という概念そのものを忘れたのではないかと思わせる程の快晴を地上に叩きつける天に、暑さと若干の苛立ちを覚えつつ、再度双子の妹――ニアがいる家へと向かう。

 

 もう一度、ドアノックを鳴らそうとしている理由は、昨日訪ねた時間――十九時――が常識的に考えてよくない時間だったから、という正直無茶のある内容だったりする。

 しかし、一度だけで諦めるのも骨折り損のレベルが高くなるだけなので、俺達は素直にティシアの提案に従っていた。



 宿屋とニアの家との距離は決して遠くはないが、その間には広場があり――広場の中心には、他の都市と似たように、転移装置が歓迎とも拒絶ともとれる表情で悠然と設置されている。


 その表情は、転移する者に対してか、あるいは都市に訪れる者に対してか――どちらにせよ、その表情を確認した一人の者が立ち止まり、ばつが悪そうに俺達に向かって声をかけた。


「……今更で悪いんだけど、俺、隣の都市に用事があってさ。一週間ほど抜けるわ。……俺いなくてもまだなんとかなるか?」

「今の所は、おそらく。……ですが、いったい何の用事で?」


 風が不規則に都市の道を通り過ぎ、アレクの焦茶色の髪を悪戯に靡かせる。

 そんな中、ティシアの問いかけに、彼はゆっくりとした動きで転移装置の方に移動しながら、彼女に対して答えを返した。


「宝物を売りに、ってところかな。遺跡の最後に置かれてる宝は、アーティファクト以外基本全部売却してるんだけど、それを高値で買ってくれる奴がいつもいてさ。――ただ、そいつは神出鬼没でいつ何処にいるか分からない。……んで、隣の都市のいるって言う風の噂を聞きつけたから、そっちに向かおうって話」

「へえ……そんな人がいるんだね。僕も会ってみたいかも……」


「そうなんだよ! あ、でも会うのはやめといたほうがいい。……死ぬほど煽ってくる奴だから。一言喋れば苛立ちを、二言喋れば手が出そうになる」

「それはちょっと……会うのは――」


「やめとけやめとけ! 会っても良いことなんてないから!」


 申し訳そうな顔をしつつも、ルイの頭をわしゃわしゃ撫でて大笑いするアレク。

 その光景を見て、ティシアは楚々として笑いながら、彼に理解の言葉を示した。


「そういうことでしたら、遠慮なく行ってきてください。――あまり行動に制限をかけるのも良くないですからね」

「ん、僕もいいと思うよ。――もうそろそろわしゃわしゃはやめてくれないかな!?」


 俺と――あと、ユリアも静かに一度頷くと、アレクはルイの頭から手を離して両手を合わせる。

「……悪いな、みんな。それじゃあ、また一週間後。手伝えなくて悪いけど、上手くいくことを祈ってるよ」


 そう言うと、アレクは転移装置の範囲内に入り、次の瞬間。

 青い光に包まれて、この都市から姿を消した。


「転移装置ってあんなかんじなんだ」

「……知らなかったの?」

「故障してたりしてたから」

「確かにまだあんまり普及してないし、故障とかも多いみたいだからね。――僕もあんまり使ってる人見たことないし」


 アレクを見送った後、ルイとそんな会話を交えつつ、目的の家へとまた向かい始める。

 風がやみ、蒸し暑さがまた僅かな苛立ちを覚えさせる中、転移装置から三分足らずで、ニアがいる――と思われる家に到着した。

 

 ティシアは昨日と同じように、リング型のドアノックを何回か鳴らす――が、結果は昨日と全く同じ。


 ニアの返事はない。

 

 しかし――ニアが引きこもってリアがいないということは、昨日出会った優しい老人の話から分かっているが、その老人との会話の中に含まれていた「高貴な家柄」という言葉。この言葉が事実ならば、使用人の一人や二人、いてもおかしくないのではないかと俺は思う。



 それにもう少し大きな家に住んでいても――。



「ニアさんがでないのは分かるのですが……他の人はいないのでしょうか」


 ティシアもおそらく同じ疑問を持っている様子で、首を傾げて、長方形の青い扉をまじまじと見つめている。

 万策尽きたか――そもそも特に策はなかったが――と、そう思った矢先――。



「私達の家に何か用事?」



「!?」

 別に特段驚くことではないはずだが――急な声掛けに俺はびくりと体を震わせて、勢い任せに振り返る。

 


 振り返った先にいたのは、彼岸花のように美しい赤色の髪をセミロングで整えた一人の少女だった。身長はティシアよりも低い百五十六センチ程度で、年齢はルイやユリアとおそらく同じくらいだろうか。

 

 淀みのない赤色の髪をを持つ彼女は、海のように澄んだ碧い瞳で、俺達四人の顔を順に確認していく。 

 その澄んだ瞳に怯えたか――ユリアは僅かに一歩後ずさった。


 

 ユリアの小さな動きを横目に、ティシアは扉の前で赤髪の少女に疑問という名の言葉をなげる。


「あなたは、もしかして?」

「そのもしかして、かもね。――私はリア。この家の(あるじ)……ではないけれど、大体そんなところ。……それで? 私の家の前で何してるの?」


 ティシアは簡潔に、魔王の正体を知るために会う必要のあった双子の姉――リアに対して、俺達が家の前にいる理由を説明する。

 ――ただ、その内容は、俺達の目的ではなく、ニアが引きこもっていることにより立ち往生している現状だった。あえて目的を避けたのだろう。

 

 リアはティシアの説明を受けて、軽い溜息をついた後、「理解した」というように、二回程小さく頷いた。

「…………なるほどね。――王子様風にやってみようかしら」


 リアの不可解な発言に、俺は頭の上でクエスチョンマークを飛ばしまくるが、彼女はそんなことお構いなしで地面に片膝をつける。


 それはまるで、ロミオとジュリエットのワンシーンかの如く――状況こそ違えど、触れぬことのできぬ、見ることもできぬ人物に対して焦がれる姿は同じであろう。



「ああ! 愛しき我が妹、ニア! 君の姉であるリアが戻ってきたのです! さあ、この小さな扉を開けて、私に姿を見せてくれませんか!」



 なんで、こんな状況になってんの? などと無粋な言葉は言えるはずもない。


「なんで、こんな状況になってるんだ?」

「…………僕に聞かないでよ」



 うっかり漏れたそんな疑問に、ルイは目を閉じ首を横に振り、疑問に答えることを拒絶する。

 ユリアはというと、周囲の反応が気になるらしく、リアに背中を向けて、道行く人の視線を確認し始めた。


 暫く経ってもニアは姿を見せないため、リアは更に言葉を続ける。

「ああ、ニアよ! 何故、姿を見せてくれないのですか? 私はこんなにもあなたに恋焦がれているというのに――」


 

 鍵ないのかなあ、とか色々思うところもあるが、そんな無粋なことは言えない。


「鍵あると思わない?」

「…………あると思うんだけどね」



 この状況どうしたものか――そう思い始めたその時、家の中からどんどんという、急ぎ早で誰かが走っている音が聞こえてきた。

 その音は徐々に大きくなっていき――。



「イッ!」



 そのまま、勢いよく扉が開かれる。

 ――二人の間にある隔たりを進んで壊すかのように。



「鼻が……! 鼻が痛いです!」

 

 ――ティシアの鼻を犠牲にしていたりもしたが。

 鼻に両手を当てながら扉の端で蹲るティシアに、意外にもユリアが心配そうな表情で近づこうとしていた。


 その光景を微笑ましく思いつつも、俺は家の中から漸く姿を見せてくれた一人の少女を見つめる。

 


 リアと同じくらい――もしかしたら、それ以上の美しさを誇った赤い髪を腰のあたりまで長く伸ばしている少女。

 リアの妹であるニアであることは、先ず間違いないだろう。

 双子ではあるものの、身長にはかなり差があり、リアよりも十センチほど背が低い。しかし、顔の輪郭や顔つきはリアと一切変わりない。


 ニアは扉の前でリアの顔をじっと見つめて、本人であることを確かめていく。


「リア……? ……リアッ!」


 本人であると分かったニアは、リアに向かって一気にかけていく。

 その姿に嬉しく思ったのだろう。リアは満面の笑みを浮かべて起き上がり、両手を広げて抱きしめる体勢をとる。


 そして――。

「おお、我が愛しの――」

 


 パチンッ!



「……えぇ」

 リアの右頬がひっぱたかれる音が都市中に響き渡る。

 彼女は一瞬何が起きたか分からなかったというように、右手で頬を抑える。


「ねえ、ニア? なんでそん――」


 パチーン!



 今度は左頬が思い切り叩かれた。――ここまでくると死体蹴りの勢いである。

 リアはその場で頽れ、理由は違うが、同じ者の行動が生んだ犠牲者の骨とともに並ぶ。


 ――ニアは涙ぐんだ表情でリアを見つめ続け、乱れた呼吸を整えようともせず、大きく息を吸う。

 そして、口を大きく開き、その息を言葉とともに吐き出した。


「リアの……リアの馬鹿ああああああ!!」


 どこから声が出ているのかと思わず聞きたくなる程の大声に、俺は咄嗟に両耳をふさいだ。

 近くにいた数匹の小鳥も羽を広げて、青空に向かって羽ばたいていく。



 喜びか、怒りか、感動か――どんな理由にせよ、ニアはリア以外の姿が一切見えていないらしい。

 彼女はリアに近づきながら、天をも劈かん勢いで吼え続ける。



「なんで、ニアを置いて何処かに行ったの!? なんで、ニアの横に居てくれなかったの!? なんで、ニアとの約束を守ってくれなかったの!? なんで……なんで! ニア……を心配に……させるの?」

「……ごめんなさい、ニア。でもこれには――」



 リアは辛そうな声で何かを伝えようとしたが、彼女の言葉は途中で途切れた。

 理由は頽れていたリアをニアが優しく抱きしめたからだった。


「でも……でも。生きてて……リアが生きてて、良かった――」


 その抱擁に応えるように、リアもまた、ニアの背中に腕を回して、何回も背中を優しくさする。


「――ごめんね。心配かけて」


 このままだと、二人の世界に入って話が進まなそうな雰囲気だったが――案外そうはならず、ニアが俺達の存在に気が付き、不思議そうな顔で首を傾げた。


「ねえ、その人達(・・・・)は……誰?」

「あっ、私も名前を聞いてなかったね」

 二人は抱擁も程々にしてその場から起き上がる。



 リアの両頬が赤く染まっているのを見て、「痛そう」という小学生並の感想を覚えつつも、俺達は各々自分の名前を名乗っていく。

 

 最後に名乗ったのは、ニア。先程の大声は何処へやら――リアの背中に隠れるようにして、消え入りそうな声で自分の名前を告げる。

「ニアは……私はニア。……よろしく……お願い、します」


 ティシアは、神たる存在に相応しい笑顔を浮かべて、握手をしよう(・・・・・・)とニアに右手を差し出す。

 握手する理由は、記憶を引き出し、魔王の正体を探るため。

 

 その事実を知るのは、俺とティシアの二人のみ。ルイもユリアも知りやしない。ましてニアなどのもってのほかだ。


 だから、この時点である程度目的は達成できる――はずだった。


「よろしくお願いしますね、ニアさ――」

 

 ティシアの右手が誰かによってはたかれる音がする。

「え?」

 

 彼女の素っ頓狂な声――次いで、彼女の右手をはたいた犯人でもある、リアの威嚇交じりの声がティシアに向かって投げられる。


「言っとくけど、私がいる間はニアに指一本触れさせないから。特にティシアさん――君にはね」

「お前、結構バレバレなんじゃないか? やばない?」


 個人的には全くわからないのだが、リアからすると、ティシアに何か警戒すべき要素があったのだろう。


 そんな事を考えていると、ニアとリアは俺達を無視して、家の中に入ってしまう。

 と思ったが、すぐにリアが閉まりかけの扉から顔を出して、家に入るように提案してきた。


「とりあえず、中に入りなよ。折角だし、話も聞くからさ」

「でしたら、お言葉に甘えて――」


「…………ごめん、やっぱり暫く待っててくれない? 思った以上に散らかってたから」



 申し訳なさそうな表情でリアはそういうと、音を立てずにゆっくりと玄関の扉を閉めた。


 その後、家の中から何かが崩れる音とか、何かがぶつかり合う音とか――爆音の域を超える音が、数分間にわたり聞こえてきたが、俺はとりあえず耳をふさいで聞かなかったことにした。

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