自由になれるよ
「先輩の弟、今行方不明らしいぜ」
「ああ…従兄弟の職場でもちょいちょい居なくなった人いるらしいぜ」
「最近、突然居なくなるのが多いよな」
「明日はお前だったりしてな」
「だったら、夜逃げだな」
アハハ…と男達の軽口と笑い声が通り過ぎる。
男達とすれ違った少女は、道の奥へと消えていく後ろ姿を一瞥し「獣の臭い」と顔を顰めた。
(はやくあの子に会いたいな……)
とっくに消えてしまった者から別の者へ興味を移した少女は再会を楽しみに待った。
「まだ家に居たんですね」
冷たい口調で応えた。
さっさと着替えを持って出ていけば良かった。
「どこに行っていたんだ」という父の言葉を無視して。
学校から三週間ぶりに家に帰れば、まだ父は本家に帰っていなかった。
今回は珍しく長く滞在する気らしい。
「まぁいい。ちょうど良かった」
父は扉の奥。居間に続く部屋を見せるように身体を反らす。
自然と扉の奥へと目がいき、居間にいる少女と目が合った。
(どこかで…………)
既視感を覚える。
見覚えのない他校の制服に、黒髪の高めの位置に結んだポニーテールの髪をした少女を思い出そうとジッと見つめた。
「こんにちは。神代 光くん」
僕に気付いた少女は明るい笑顔で言った。
どちらさま…?と訊く前に居間の中へと引っ張られた。
「きちんと挨拶なさい。わざわざこちらに来たんだから」
「…どうも」
「あはは……どうやら初めて貴女と会って少し緊張しているようだ」
少女に向かって笑みを浮かべる父に苛立ったが、失礼な態度を見せるわけにもいかず、顔を逸らした。
「今、お茶を持ってくるから」
父は客人に出すお茶の用意にし、台所へと向かった。
僕も居間を出ていこうとした時、少女に話しかけられた。
「今日は顔合わせに来たの。お互い顔だけでも知っていた方がいいと思ってね」
首を傾げた僕に「何も聞いていないのね」と言った。
「君はもうすぐ役目を終える。よかったね、自由になれるよ」
怪訝な顔をした僕にあどけない少女のような笑みを彼女は浮かべた。
「ごめん。遅くなった」
家から出てシン兄ちゃんのもとに歩み寄る。
「まだ家に居たから……もうしばらく泊まってていい?」
「いいよ。お母さんも喜ぶよ」
「ありがと」
(あの人……誰だったんだろう?)
「どうしたの? ヒカル」
「なんでもない」
あの少女のことが気になり、振り返った僕は再び前を向いた。
何をもって『自由』といえるのだろう。
空を見上げる。
白く透明の膜が張ったような青空が見えた。
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