静かな変化
「いつの間に居ったんやろう……」
スバルは、ぽつりと呟く。
その視線の先には先日会った少女がいた。
彼女の名前は、織部 杏寿。
一ヶ月前に隣のクラスに転校してきた女子生徒だ。
数学の選択科目は、他のクラスの子と合同でおこなう授業のため、隣の教室へ来ていた。
そこで僕の家にいた客人と再会したのである。
「気味の悪いってこのことやなぁ……」
小声でスバルは言う。
スバルは初めてみる彼女に対し、一緒に近くにいた子に聞き、転校生だと教えてもらっていた。
「何が?」
珍しく悪口を僕に言ってきたことに驚きつつ、聞いてみた。
「転校生が来たって誰も騒いでなかったんだぜ? 変じゃん。変化があれば情報が回ってくるはずなのに」
「そうかな?」
「そうだよ。人は変化に無関心では生きられない生き物なんよ。静かなのはおかしい」
同じクラスの子達と会話している彼女を見ているとずっと前からこの学校に通っていたと言われても違和感がないくらい馴染んでいた。
「名字が織部って……あの『織部』だよな。何を企んどるんや」
織部先生と同じ名字を名乗る彼女にスバルは警戒しているようだ。
「この前、僕の家にも来てたよ」
「うわ、ぜってぇー本家絡みじゃん」
お前、あまり関わんなよとスバルは僕の肩を小突いた。
「会ってくれてよかった」
小さな喫茶店の中で先に沈黙を破ったのは、テーブルを挟んで向かい側の席に座る男の方だった。
「ずっと…学校の前に待ってられるの迷惑だったので」
男……父は、下校時間になると校門前に待つようになっていた。
父と関わりたくなかった僕は気付かないふりをして通り過ぎていたが、織部 安寿の姿を見て話しかけていた。
「なんで学校に来たんですか?」
「今後についてお前と話したかったからた。本当は家でゆっくり話したかったが」
僕は父と家に帰るのを拒否した。
学校近くにある喫茶店にしたのも学校でシン兄ちゃんを待ってもらっているからだ。
「さっさと言ってください。人を待たせてるんで」
「……お祖父様がお前の顔を見たいそうだ」
「お祖父様?」
誰? 僕のおじいちゃんってこと?
「小さい時に一度しか会ったことがないと思うが、私の祖父で本家の家督を継いでいる方だ」
僕からすれば曾祖父さんにあたる人か。
それがどうして僕に会いたいのだろうか?
「他の者と同様、私としてはお祖父様に会わせるのは反対だがな。…………お前はどうしたい」
「それは必ず会わないといけないことですか?」
「必ずではない。だが、今後について知っておきたいなら会っておきなさい」
「…少し考えさせて」
「分かった。出来るだけ早めに知らせてくれ」
父から電話番号が書かれたメモを渡された。
「……なぁ、やっぱり家に帰らないか?」
メモを受け取った僕に父は遠慮がちに聞いてきた。
「帰りたくない」と首を横に振る僕を見て少し落ち込んだような、落胆したみたいな顔をした。
(………僕が悪いみたいじゃないか)
父の浮かべた表情に罪悪感を覚え、それにまた苛立った。
「話はそれだけ? だったら、もう行くよ」
その場から逃げるように喫茶店を出たのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
拙い文章であっても書くのは、すごく楽しいです。




