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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
最終章 You Can Revolt
324/327

324.答え



「ちぃっ!!」


 ハロルドの隠し持っていた小型銃《クライン》による銃撃をクルスは体を傾けてかわす。

 しかし《クライン》の装弾数は二発だ。


 すぐさま二発目を撃ってきたハロルド。

 今度は回避は間に合わないと判断したクルスは『生成の指輪』に魔力を込める。


 そうして生成したのはマイクの使っているものと同タイプの防弾盾だ。

 盾でハロルドの銃弾を弾き飛ばしたクルスは今度は自分から距離を詰める。


 この戦いではクルスはずっと敵に攻めさせてそれを迎撃することによって勝利を目指していたが、しかしハロルドはバカではない。

 奴に考える時間を与えてはダメだ。

 何か打開策をハロルドが思いついてしまうかもしれないし、それに小型銃のように何かをまだ隠し持っているかもしれない。


 クルスは散弾銃ショットガンを放って別の武器を生成する。

 フィオレンティーナの仲間の形見である“骨砕きボーンクラッシャー”だ。

 片方の刃だけ潰してある奇妙な剣でクルスはハロルドに斬りかかる。


 ハロルドはそれをブロードソードで受け止めた。

 そのままクルスと鍔迫り合いをしながらハロルドが笑う。


「そうこなくっちゃなぁ! クルス!」


 剣を合わせている二人の膂力は五分だ。

 力が拮抗していて埒が明かないと判断した二人はどちらからともなく離れて仕切りなおす。


 その時、クルスの視界にハロルド以外の人物の姿が入ってくる。

 ミントだ。


 彼はシャッター脇のドアをそうっと開けてその傍に佇んでいた。

 ミントはクルスの視線に気付くと口を動かす。

 “がんばれ!”と。


 ミントの声無き声援を受け取ったクルスは静かに微笑む。

 そしてハロルドに“骨砕き”の切っ先を向けた。

 対するハロルドもブロードソードを両手で保持してクルスに向ける。


 剣を構えたハロルドの立ち姿はまるで剣の達人のような覇気が感じられた。

 もし彼に僅かな隙でも見せようものなら一刀のもとに切って捨てられる。

 そう直感するクルス。


 それはきっとクルスの錯覚なのだろうが、しかしそう感じさせる程にハロルドの姿は凛々しく美しかった。

 そしてハロルドもまたクルスの構えに隙を見出せないようで、攻める為の一歩を踏み出せないでいる。


 剣を向け合ったまま動けない二人。

 静寂がその場を包み込む。


 何分が経ったろうか。

 極限状態でお互いの集中力を削ぎ合う緊張感の中、二人が向き合っているとシャッターを隔てた隣の区画から大きな爆音が響いてきた。

 おそらくフユの《パイルバンカーB型》だ。


 空気が振動する程の大きな爆音に乗じてハロルドが動き出す。

 今まで踏み出せなかった一歩を彼は踏み出し、クルスに迫ってきた。


 一瞬、虚を突かれたクルスだったが、ハロルドの斬撃をすんでのところで身を引いてかわす。

 それによってクルスの頬から血が滴り落ちるものの致命傷ではない。


 反撃にクルスも《骨砕き》でハロルドを斬りつけるが、こちらは完全に空を切った。

 しかし一撃では攻撃を終わらせないクルス。


 横への斬り払いから刺突、そしてもう一回刺突……のフェイントを入れてから蹴りを見舞う。

 しかし集中力を保ったハロルドはその攻撃をすべてかわすと、クルスの蹴り終わりの隙に刺突を合わせてきた。


 その剣筋を慎重に見極めるクルス。

 この距離であの剣を完全にかわすのは不可能だ。


 そう判断したクルスは敢えて刺突を受け止める事を選択する。

 僅かに体を動かして剣の切っ先から急所を外すと、クルスは歯を食いしばった。


 ハロルドのブロードソードがクルスのわき腹に深々と突き刺さる。

 その瞬間ハロルドは勝ち誇るように口の端を歪めた。


 しかしクルスは腹に突き刺さった剣を義手の右手でがっしりと掴んで固定する。

 咄嗟に剣を抜こうとしたハロルドの動きが一瞬止まった。


 その瞬間をクルスは見逃さずハロルドの首筋に“骨砕き”の刃を走らせる。

 頚動脈を斬られたハロルドの首筋から滝のように血がだらだらと流れ出す。


「ごぼっ。グルズうう!!」


 右手で首筋を押さえながらクルスの首を絞めようと左手を伸ばすハロルド。

 だがクルスはそんな彼を突き飛ばして、両手で“骨砕き”を振りかぶる。

 わき腹を刺された痛みで視界が赤く滲んでいるがそれに耐えて剣を振り上げた。


 そして力の限りハロルドに向けて振り下ろす。

 その一撃は彼の胸を深く切り裂いた。


 首と胸から夥しい血を流しながらも何とかその場に立っていたハロルドだったが、やがて膝から崩れ落ちた。

 仰向けに倒れる宿敵を見下ろすクルス。


 二人の一騎打ちが決着した瞬間だった。



 その時ミントがクルスの元に駆け寄ってくる。


「おにいちゃん!! 大丈夫!?」

「ああ、何とかな……」

「いいから喋らないで、今、剣を抜くからね」


 言うなりわき腹に刺さった剣を抜いてくれるミント。

 その痛みに気を失いかけたクルスだったが意地で意識を保った。


 そしてミントはクルスに回復薬を与えてくれた。

 クルスはミントに礼を述べる。


「ありがとうミント。助かった」

「ううん、いいんだ。かっこよかったよ、おにいちゃん」


 ミントの賛辞を聞いてクルスの顔が綻ぶ。

 その時、地に倒れるハロルドの口からか細い声が聞こえてきた。


「お……い、クルス、この、やろう」

「しぶといな、ハロルド」

「うる、さい。それより……答えだ。答えを、教えろ……」


 答え、即ち一騎打ち前にハロルドが問いかけてきた“何故クルスがわざわざ辛い現実に戻りたがっているか”という質問の答えである。


 クルスは一つ咳払いをすると彼に答えた。


「それはなハロルド。“その方が物語として美しいから”だ」


 クルスの答えを聞いたハロルドは理解が及ばないようで、聞き返してきた。


「はぁ? な、何だよ、それ? 意味が、わからない……」

「だから、俺のここまでの道程を物語として見た場合、ここで俺が現実に帰還した方が綺麗に“落ちる”んだよ」

「そ、そんな、事の為に、この空想、世界を、捨てるのか? バカなんじゃないか? お前……」


 まるで不可解なものを見るかのようなハロルドの問いにクルスは怒る。


「“そんな事”とは何だ! 俺にとっては大事な事なんだよ! 俺は今まで小説を書くにあたって自分の満足いく設定・世界観さえ構築できればそれで良かった。それで良いと思っていた。でもそれは違ったんだ」

「……はぁ」

「この空想世界で実際に動く登場人物キャラクター達を見て、設定・世界観と同じくらい物語ストーリーも大事だと気付いたんだ。そこで俺は思ったんだ。あいつらの話をもっとちゃんと書いてやりたいってな。だからこんなところで時間を喰ってる場合じゃないんだ。一刻も早く俺はPCの前に座りたいんだ」


 一通り語り終えたクルスを、不可解そうな表情で見やるハロルド。

 そして彼は諦めたように呟いた。


「やっぱり……ニンゲン、って何考えてるか、わからない……」

「何だハロルド。俺の脳に長いこと寄生していた割に、随分と宿主に対する理解が低いな」

「ふん……理解、したく、もないよ」


 不貞腐れたように言うハロルド。

 そして段々と彼の息が弱くなってゆく。


 彼は体を小刻みに震わせながらクルスの方を見て、何事かを言おうとした。


「ふっ……ぅ……こっ……きて……」

「何だって?」


 息も絶えそうな彼の最期の言葉を聞き取るべく彼の口元に耳を近づけるクルス。


「おいハロルド、聞こえないぞ」

「……がっ、ぐふっ……ぜえ……はぁ…………バカめ、クルス」


 はっきりとした声でクルスを罵倒してくるハロルド。

 その時、彼の口から白くて細長い線虫がクルスの口めがけて飛び出してきた。




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は  2月13日(水) の予定です。


ご期待ください。



※ 2月13日  後書きに次話更新日を追加

※10月14日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。


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