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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
最終章 You Can Revolt
316/327

316.彼らの最期



 超音波発生装置を破壊するべく装甲車両ハンヴィーから降りたクルス達。

 だが敵の切り札である強化外骨格パワードスーツから放たれた対装甲ロケット弾が友軍のヘリを襲う。


 どうにか敵のロケット弾をフレアで誤魔化したヘリだったが、これ以上の継戦は困難なようだ。

 無線機を持っていたマイクがクルスに叫んでくる。


「ボス! ヘリのルスラン少佐からだ! “一旦、補給に戻る”だそうだ」

「わかった!」


 クルスがマイクに答えた瞬間、強化外骨格が重機関銃をこちらに向けてくる。

 耳障りな重い銃声を響かせてこちらに銃弾の嵐を浴びせてくる。


「皆! 散れっ!」


 クルスは皆に指示を出しつつ、自らも魔術《風塵》を詠唱し風の勢いを借りて射線から逃れた。

 そしてその勢いのまま、マイクの体を引っつかんで彼も射線から逃がす。


 斉射を終えて銃身を冷やしている強化外骨格を横目にクルスは他の皆の様子を窺う。

 ミントとヘルガはクルス達と似たような方法で銃撃をかわしていた。

 一方のフユは銃撃の弾道を完璧に計算して最小限の動きで弾丸を避けていたらしい。


 その時、トレーラー周りの敵兵の幾人かが、急に大トカゲに変異した。

 “グスタフ”だ。

 数が少ないところを見るに、なけなしの戦力を引っ張ってきたのだろう。


 とはいえ目標の超音波発生装置の前に立ちはだかられているのは厄介だ。

 クルスは皆に作戦方針の変更を伝える。


「皆! 音波発生装置は後回しにして先にあの強化外骨格を潰すぞ!」


 クルスの指示を聞き届けたフユが地面に屈んで、まるで陸上競技の短距離走のスタート体勢のような姿勢になる。

 そしてクルスに告げた。


「マスター、私が奴に突っ込む。支援を願う!」

「わかった。俺とマイクで直掩に回る。ミントとヘルガは他の敵を牽制して黙らせろ」


 クルスが皆に指示を伝え終わると同時にフユが凄まじい勢いで敵陣に駆けて行く。

 それを見たクルスも負けじとマイクを抱えながら《風塵》の勢いを利用して突進した。


 重機関銃の銃身冷却が完了した敵の強化外骨格はフユに向けて重機関銃を発射するが、再び弾道計算したフユは体を捻って回避しつつ相手に急接近した。

 銃による迎撃を諦めた敵はそのまま強化外骨格の腕でフユに殴りかかる。


 フユは左手で敵の鉄拳を受け止めると、そのまま右手の《パイルバンカーB型》をぶち込もうと腕を上げた。

 しかしそこに邪魔が入る。


 人間の兵士数名がフユに突撃銃アサルトライフルによる銃撃を見舞う。

 その銃撃は耐久性に秀でたフユにとっては致命打にはならないが、しかし一瞬フユの動きを止めるのに成功する。

 その一瞬を使って強化外骨格はフユを蹴りつけて強引に距離をとった。


 強烈な蹴りを受けたフユはバランスを崩し、無防備な状態になってしまう。

 そこへ強化外骨格が再び重機関銃を撃ってきた。


「フユ!!」


 クルスは《風塵》で起こした風の力を借りて高速で移動していたが、それだけではフユを助けるには間に合わないと判断した。

 すぐさま地面に向けて《氷床》を唱えて滑りやすいアイスバーン状に変えてその上を勢い良く滑る。

 そしてその勢いのままフユにタックルするように押し倒して彼女を重機関銃の射線から逃がした。


「フユ、大丈夫か?」

「マスターこそ、あまり無茶するんじゃあないぞ」


 短く声を掛け合う二人に、マイクが警告する。


「油断すんなよ二人とも。ミントとヘルガだけでは他の兵士全員を抑えられないんだからな」


 クルスの後を追いかけるようにして氷床の上を滑りきった彼は、着地と同時に防弾盾を構えてクルスを守ってくれていた。

 クルスは彼に礼を言う。


「ああ、ありがとうマイク」


 クルスの後方からはヘルガとミントが敵兵に対し攻撃をしてくれているが、完全に敵の動きを止めるには到っていない。

 グスタフどもは超音波発生装置を守っている関係上、こちらには積極的に仕掛けてはこなかった。


 やはりあの強化外骨格を先に何とかしなければならない。

 クルスがそう考えていたその時、敵強化外骨格に向かって装甲車両がアクセル全開で突っ込んで行く。

 その行動は完全に運転手オスカーの独断専行だが、これはこれで悪くはない。


 ここが勝負所だと踏んだクルスはフユとマイクに告げる。


「俺らも行くぞ!」


 急に二方向から敵に接近された強化外骨格は、どちらに対応するか判断に迷ったようだった。

 彼は一瞬悩んだ後に装甲車両を受け止める事にした。


 だが運転手オスカーとルーフに昇っていたハルはぶつかる直前に車を乗り捨てて飛び降りる。

 どうやら二人で打ち合わせしていたらしい。


 飛び降りながらハルが叫ぶ。


「フユちゃん!! 今です!」

「わかってる!」


 装甲車両に気をとられて完全に隙ができた敵にフユが肉薄する。

 そして敵の胴体にパイルバンカーを打ち込んだ。

 その後、《バリスティックシールド》を展開して身を守るフユ。


「皆、離れろ!」


 次の瞬間、耳をつんざく爆音と共に強化外骨格の上半身が砕け散った。

 機械油と中に入っていた人間の血が辺りに飛び散る。


 強敵を退けたクルスはその勢いのまま、皆に指示を出す。


「ようし! このまま付近の敵を掃討したのち音波発生装置を潰すぞ!」






--------------------------







 敵の『FY-422型』アンドロイドのパイルバンカーによって、ロニー・アルバレス中尉の強化外骨格が粉々に粉砕されてしまった。

 それを見たカレンの悲痛な叫び声が響く。


「アルバレス中尉ぃーーーー!!!!」


 自分の目の前で最も信頼する部下を殺されたカレンは怒りにその身を震わせる。

 彼女は目から大粒の涙を流しながらも憤怒の表情を浮かべる。


「あいつら……許さない……!!」


 そして銃を手にクルスの元へ走って行こうとした。

 彼女の様子を見たハロルドは慌てて制止する。


「カレン、待て! 待てってば!」


 何とか彼女の肩を手で掴んで呼びかけるハロルド。


「カレン落ち着けよ。今突っ込んで行ったって無駄死にするだけだ。強化外骨格を失った今、悔しいがこちらに勝ち目は無い」


 アルバレスを失った今では連中を止める手立ては無い。

 ハロルドは冷静に状況を分析していた。

 そこにカレンが噛み付いてくる。


「じゃあ何? アルバレス中尉は無駄死にだったって言うの?」

「いや、そうは言ってない……」

「言ってるよ、ハロルド」


 ハロルドの目には激情に駆られているように見えたカレンだったが、いつの間にか彼女はひどく悲しそうな表情になっていた。

 いや、単に悲しんでいるというよりも精神の均衡を崩しているように見える。


 カレンは目を見開いて涙を流しつつ、しかし口の端を歪めて力なく笑っている。

 自分と親しい人間を尽く失った彼女は発狂する一歩手前だった。


「ねえハロルド、私はもう疲れたよ……」

「カレン……?」

「クルスの暗殺に失敗した後、あんたが戦うことをやめようとした時には“諦めるな”って偉そうに私は言ったけどね、実のところは私ももう参っていたの」

「え……」

「あの時あんたに言った言葉は全て自分自身に向けて言った言葉だったんだ」

「カレン……」

「私は結局“恐怖を乗り越える”事はできなかった。怖いんだ、凄く。もう全部終わりにしてしまいたいの。だから……」


 嫌な予感を感じ取ったハロルドはカレンに懇願する。


「ちょっと待ってくれカレン! 僕を置いて逝くな!」


 だがその言葉は彼女には届かない。

 カレンは全てを諦めて小さく笑みを浮かべるとハロルドに言う。


「いつまでも私に依存していちゃ“進化”なんて夢物語よ」

「カレン!」

「ハロルド、行きなさい。時間稼ぎくらいはしてあげるから」

「……で、でもっ!!」

「いいからあんたはここから逃げ延びて『世界の歪み』を守るの。ハロルド、生きなさい」


 そう言ってカレンは部下を率いてクルス達の方へ突撃していく。

 彼女はもう振り返らなかった。


 ハロルドも彼女について行こうしたが、別の部下に体を引っ張られる。

 抵抗してもがくハロルドだったが、そのままトレーラー脇に停車していたジープに連れ込まれる。

 それでもハロルドが車窓から顔出してカレンの方を見た次の瞬間、彼女がクルスに撃たれるのが見えた。


 それがカレン・ピアースの最期だった。





お読み頂きありがとうございます。


次話更新は  2月 5日(火) の予定です。


ご期待ください。



※ 2月 5日  後書きに次話更新日を追加

※10月 6日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。


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