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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
最終章 You Can Revolt
310/327

310.訓練所にて



 貿易都市ドゥルセにて。

 一人の赤毛の女性が大通りを歩いている。


 女剣士レジーナ・カルヴァートだ。

 彼女はとある用事があって骨董屋パニッツィを目指していた。


 彼女がしっかりとした足取りで歩いていると、後ろから声をかけられる。


「あれ、レジーナじゃん」


 声をかけられた彼女が振り返ると、そこにはクルスに雇われている用心棒オスカーが居た。

 紙袋を手に持っているところを見るに買い物帰りらしい。


 レジーナは彼に挨拶をする。


「よっ、オスカー。買い物にでも行ってたの?」

「ああ、そうなんだよ。チェルソの頼みで色々とな。あいつにパシられてんだよ、オレ」

「別にいいじゃない。今は暇なんでしょ? あなたたち」


 レジーナがそう問いかけるとオスカーは残念そうに述べる。


「そうなんだよ。暫くオレらの出番も無さそうだしよ。これじゃ体が鈍っちまうぜ」


 王都サイドニアで行われた首脳会談の結果、各国の結束は強まり早速ザルカ帝国打倒のための連合軍が編成された。

 サイドニア軍から多数の兵士が集められ、そこにギルドが募った冒険者の義勇兵、更にプレアデス諸島から駆けつけた部族の若い衆も参戦する。

 そして彼らに武器を提供するのは鉱山都市ボレアレのドワーフ達だ。


 これだけでもザルカ軍を圧倒するには充分な戦力だが、そこに更にルサールカの最新鋭の兵器を扱う特殊部隊“掃除屋”も加わる磐石の布陣だ。

 そして連合軍の総大将を務めるのはサイドニア国王ウィリアム・エドガーその人である。

 連合軍はあと数日で帝都ザルカに向けて出陣するそうだ。


 ちなみにレジーナが伝え聞いた話によるとエドガーは既に勝利を確信しているらしい。

 総大将という立場で自ら戦場に立つのも、勝ち戦なのが分かり切っているからだろう。


 レジーナはオスカーにその話題を振ってみる。


「ねえ、オスカー」

「あ? 何だよ」

「連合軍の総大将って知ってる?」

「ああ、エドガー社長だろ」

「陛下ね。エドガー陛下」

「ああ、そうそう。で? それがどうしたよ?」


 質問の意図を量りかねているのか、オスカーがレジーナに問いかける。


「その事についてクルスは何か言ってなかった?」

「ボスは“さすがに今回は楽勝だろう”ってさ」


 オスカーから聞いた話にレジーナは少し驚く。


「へえ! 珍しい。クルスっていつもは悲観的……というか慎重なのに」

「たしかにな。ま、その慎重派のボスがそう言うってことはよっぽどの戦力差なんだろうぜ」

「ってことはクルスは静観の構えなの?」

「もちろんだぜ。たしか“連合軍が帝国を倒してから悠々とザルカ入りする”って言ってた」

「なるほど。クルスらしい選択ね」


 などとレジーナが感心しているとオスカーが問いかけてくる。


「ところでレジーナは今何やってるんだ?」

「ああ、そうだった。私、骨董屋に行こうと思ってたの。クルスは居る?」

「わかんね。オレが出かける前は居たぜ。じゃあ一緒に行くか」

「うん」


 骨董屋まで並んで歩くオスカーとレジーナ。

 多弁なオスカーは自分が脚本を書いた演劇の話を沢山してくれた。

 中でも劇でレジーナ役を演じたというレベッカという女性の話には多いに興味をそそられた。


 やがて骨董屋にたどり着いた二人。

 今日は店は定休日のようだった。

 合鍵で店内に入った二人が居住用スペースに上がるとチェルソが出迎えてくれた。


「オスカー、お帰り。それとレジーナさんもいらっしゃい」


 オスカーは手に持った紙袋をオスカーに渡す。


「ほれよ、買ってきたぜ」

「うん、ありがとう。助かったよ」


 紙袋の中身は食糧品やら消耗品の類いだった。

 それらを棚に入れながらチェルソが話しかけて来る。


「ところでレジーナさんは何か用事があるのかい?」

「うん、クルスに会いに来たんだけど」

「そうか。残念だけどクルス君は今は居ないよ。ちょっと前に出かけたんだ」

「あ、そうなんだ」

「僕でいいなら話を聞くけど?」

「うーん、どうようかな」


 するとオスカーがレジーナに問いかけてくる。


「何だよレジーナ。ボスにどんな用だったんだよ?」

「そんなたいした事じゃないよ。ただ訓練に付き合ってほしくて」

「訓練?」

「うん、わたしの体の方も大分良くなってきたから久しぶりに“赤い竜”になってみたくて」


 それを聞いたオスカーは大いにはしゃぐ。


「うおーー何だそれ。言葉の響きからして面白そうじゃねえか。今ここでなってみてくれよ! 超見てえぜ」

「オスカー、“赤い竜”ってのはね、そんな気軽になれるもんじゃないんだよ。町から離れた静かなところに行かないと」


 するとチェルソがレジーナに問うて来る。


「そういえばレジーナさんはクルス君の前では変異したことはないんだっけね」

「うん、そうなの。だから一回見てもらいたくて」

「それはいい考えだね。多分彼も見たいと思うよ。自分が考えた竜の姿ってものをさ」

「チェルソもそう思う?」

「ああ。だから“赤い竜”の変異の訓練についてはまた後日にしよう。今日僕から彼に伝えておくよ」

「うん、ありがと」

「その代わり別の訓練をやらないかい?」

「別の?」

「うん。僕も体が鈍っちゃったからさ」


 そう言うとチェルソは愛用の武器である仕込み杖を取り出してレジーナに見せてくる。

 チェルソの提案にレジーナは頷く。


「わかったよ、チェルソ。訓練所に行こう」


 すると二人の会話を聞いていたオスカーが割り込んでくる。


「なぁ、オレも着いてっていいか? 何か面白そうだ」

「うん、もちろん」



 そうして三人はドゥルセギルドの近くにある訓練所を訪れる。

 訓練所は主に“錆び”や“鉄”などの駆け出し冒険者が利用する訓練施設だ。


 基礎的な動作の確認や新しい武器に乗り換えた際、それを手に馴染ませるための習熟訓練などに使われる。

 他にも冒険者の先輩がそこにいれば助言を請うこともできる。


 しかしながら冒険者としての格が上がってくると自然と足が遠のいてしまう施設でもあった。

 レジーナもあまり利用したことは無い。

 最後に利用したのは《マンゴーシュ》を手に馴染ませる為に軽く動作確認をした時でそれ以降は一回も来ていない。


 訓練所を久しぶりに訪れたレジーナは中に足を踏み入れて、驚く。

 中では多くの者達が訓練に励んでいてしかも、その中にはベテラン達の姿もちらほら見えた。

 これではレジーナ達が訓練をする場所が無さそうである。


 それを見たオスカーが声を漏らす。


「うお、凄い混んでるな。レジーナ、訓練所ってのはいつもこうなのか?」

「いや、いつもはもっと空いてるイメージだよ」

「へえ、そうなのか。じゃあ、何だって今日はこんなに混んでんだよ?」

「さ、さぁ……」


 首を傾げるレジーナ。

 その時、チェルソが口を開いた。


「レジーナさん、見て。あれナゼール君とレリアさんじゃないかい?」


 彼の指差す先にはプレアデスの若者達に稽古をつけているナゼール達の姿があった。

 丁度その時、向こうもこちらに気付いたようで、二人が駆け寄ってくる。


「よう、どうした三人とも?」


 問いかけてくるナゼールにチェルソが答える。


「久々に体を動かそうと思ったんだけどね。まさかこんなに混んでるとはね」


 チェルソの言葉にレリアが答える。


「もうすぐ連合軍がザルカに向けて出陣するでしょ? だから皆気が逸ってるのよ。体を動かして気分を落ち着けてるのよ」

「ああ、なるほどね。どうりで」


 納得したようにチェルソが言うと、ナゼールが口を開く。


「もし訓練したいなら、こっちの場所を使うか?」

「え? いいのかい?」

「ああ。だが条件がある」

「条件? なんだい? 言ってごらんよ」


 チェルソがナゼールに問いかけると、彼は笑いながら言った。


「二人の訓練をウチの若い衆に見せてやってくれ。きっと刺激になる」





お読み頂きありがとうございます。


次話更新は  1月30日(水) の予定です。


ご期待ください。



※ 1月30日  後書きに次話更新日を追加

※ 9月30日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。


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