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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第十四章 Invisible
301/327

301.過去との再会



 サイドニア王城内の廊下を一人の獣人族ライカンスロープが歩いている。

 灰色の毛並みが特徴のミントだ。


 民衆への公示が敵勢力の襲撃を受けて中止になってしまって暇な時間ができたミントは、クルスに会いに行こうとルサールカ陣営の部屋へと向かう。

 廊下を軽快な足取りで歩いていると、彼の良く知る人物とばったり出会う。


 小柄な体躯に栗色の長髪を垂らしたエルフ、セシーリアだ。


「あ! おばあちゃん!!」

「む、ミントか」

「こんなところで何してるの?」


 尋ねるミントだったがセシーリアはその問いには答えずミントに懇願してきた。


「丁度良いところに来たぞい! 我が弟子よ! お前に頼みがあるのじゃ!」

「え? 頼み? おばあちゃん、それは一体なんなのじゃ?」


 セシーリアの語尾を真似るミントだったが、セシーリアはそれにはノーリアクションでミントに話の続きをしてくる。

 冗談に応える余裕も無いくらい切羽詰まった状況らしい。


「ミントよ、お主には大、大、大、だーい至急向かって欲しいところがあるんじゃ」

「いいけど、それはどこなの?」

「それはじゃな……いや、お主一人じゃ不安じゃの。せめて誰かもう一人くらいは……」


 セシーリアがぶつぶつと呟いているその時、廊下の向こうから誰かが歩いてくる。

 その人物はミントも良く知るナゼール・ドンガラであった。

 先ほどの襲撃騒ぎもあってか、城内ではあるが腰にシミターを帯剣している。


「あ! 若様!」


 ミントが声をかけるとナゼールはこちらに近寄ってきた。


「よう、ミントにセシーリアさん。こんな所でどうしたんだ?」

「それはね……」


 ミントが答えようとしたところにセシーリアが割り込んでくる。


「おう、ドンガラの若。良いところに来たぞい。至急向かって欲しい所があるのじゃ」

「なんだなんだ、随分急な話だな。どこなんだ?」

「こっちじゃ、ついて来るのじゃ!」


 走り出すセシーリア。

 ミントはナゼールと顔を見合わせると肩をすくめて彼女の後を追った。


 セシーリアの言う目的の場所が近づくに連れて段々とミントは違和感を感じ始める。

 全身の毛が総毛立つような張り詰めた空気を感じるのだ。

 そしてそこに近づけば近づくほど胸騒ぎが止まらなくなった。


 やがてセシーリアが完全に足を止めて振り返る。

 そしてミントに顔を向けて聞いてきた。


「ミント、お主にはわかるか?」

「う、うん。この感じはもしかして……」

「うむ、『世界の歪み』じゃ」


 それを聞いたナゼールが驚いた声を出す。


「『世界の歪み』だって? それってクルスさんが探してるやつか?」

「うむ。世界存在である彼はおそらく我々には見えないところで戦っておる。ミント、ナゼールよ。お前達には至急彼を手助けしに行ってやってほしいのじゃ」


 セシーリアの願いを聞いて大きく頷くミントとナゼール。

 二人を代表してミントが宣言した。


「任せてよ! おばあちゃん。おにいちゃんはきっとボク達が連れて来るから」





-----------------------------------------






 主であるクルスの指示を受けてヒル人間を撃破した直後のこと。

 ハルは困惑していた。


 突如眩い光に包まれ『世界の歪み』の外へと出ることが出来たと思いきや、別の歪みへと転送されてしまったのだ。

 転送先の光景を見て怪訝な表情になるハル。


「ここは……ペットショップ?」


 見たところ小動物用のケージが建ち並び、中に可愛いらしいイヌやらネコが入れられている。

 そしてガラスには白い札が貼られており、そこには数字が羅列されていた。

 おそらくその数字が彼らの値段なのだろう。


 ハルが回りを観察していると声をかけられる。

 フユだ。

 彼女はハルのすぐ近くで周りの様子に気を配っている。


「おい、ハルちゃん」

「ん? 何ですか? フユちゃん……っていうか今、ちゃん付けしてくれました?」


 彼女に問いかけるハルだったが、フユはそれには答えてくれない。


「そんな事より、マスターはどこだ?」

「は? 何言ってるんですか。マスターはきっと私たちとそう遠くないところに……あれ?」


 瞬間、ハルは青ざめる。

 二人の主人であるクルスの姿が見えない。


 そして敵であるハロルド達の姿も見えない。

 もしかするとクルスは独力で彼ら三人と相対しているのだろうか。


 あまり良いとは言えない状況に焦りの表情を見せるハル。


「あ、あわわわわ……ど、どどどうしましょう?」

「騒ぐなハル。移動してマスターを探して合流しよう」


 冷静なフユの言葉を聞いてハルも落ち着いた思考を取り戻す。


「そうですね。マスターと合流するか、それとも先ほどのようにここの歪みを引き起こした『バルトロメウス線虫』を排除するかですね。そうすれば今度こそ歪みの外へと抜けられる可能性があります」

「なるほどな。どちらにせよ急がないとな」

「ええ」


 二人は直ちにクルスの捜索を開始する。

 敵の奇襲を警戒しながら注意深く進むハルとフユ。

 やがてフユが歩きながら呟く。


「それにしてもいちいち物が巨大だな。ここもあのネコから見た世界か?」

「きっとそうでしょうね。プレアデス諸島の時はマスターのほうの歪みは事前に正されていましたが、今回は二人分の歪みが健在だったので連続して引き込まれているんでしょう」


 ハルが推論を述べるとフユは納得したようだ。


「そういうことか。よくわかった。……ところで、あれは何だ?」

「え、どれですか?」


 フユが指差した先に注意を向けるハル。

 ペット用品の陳列された棚で何かが蠢いている。

 そこには白い細長い線虫が集まったヒル人間が居た。


 歪みに飛ばされて早々に目的のヒル人間に出会えた幸運にハルは胸を撫で下ろす。

 フユと二人で挑むのなら手早く片付けられそうだ。

 ハルはフユに告げる。


「どうやらアレが歪みの元凶のようですね。マスターの現況が不明ですから、短期決戦を狙いましょう。フユ」

「もちろんだ」


 方針の共有を済ませた二人は戦闘体制に入る。

 ハルは右手の《パイルバンカーE型・改》と左手の《フックショット》を構える。

 一方のフユは《グレンゼンロス》の射撃体勢に入った。

 《パイルバンカーB型》では威力が過剰過ぎるし、ハルも巻き込んでしまう恐れもあるのだろう。


 ハルは背中をフユに預ける思いでヒル人間に一気に接近する。

 それと同時に《グレンゼンロス》による援護射撃を開始するフユ。


 フユの精密な射撃によりヒル人間の動きが停止する。

 その隙にヒル人間に肉薄したハルは《パイルバンカーE型・改》による電撃をお見舞いした。


 だが、このヒル人間の敏捷性は先ほどの個体よりも上のようだ。

 ギリギリのところで電撃をかわしたヒル人間は後方に大きく飛びのいた。


「チィッ!!」


 ヒル人間を仕留めそこない舌打ちをするハル。

 彼女の頭には主人クルスの為に早くヒル人間を仕留めなければという思いがあった。


 しかし逸るハルをフユが諌めに来る。


「待てハル! あいつ、何か変だぞ」

「変って何が……あ」


 フユに促されてハルはヒル人間の様子をチェックする。

 ヒル人間の姿形に変化が訪れていた。


 人型の線虫の塊であるという点は変わらないが、右手部分が妙に長い。

 否、まるで鎖のように細く連なった線虫をぶんぶんと振り回し始める。


 それを見てハルは戦慄した。


「“殺人鬼マーダー”……」


 あのヒル人間は『ナイツオブサイドニア』に登場する悪役ヴィランの動きを再現していた。

 奴がブンブンと振り回しているのは“殺人鬼”の武器エモノである鎖鎌だ。

 それに気付いたハルはフユに注意を促す。


「フユ! 気をつけて! あいつはヤバいです。マスターの設定した悪役の動きをコピーしてます!」

「なんだと!」




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は  1月21日(月) の予定です。


ご期待ください。



※ 1月21日  後書きに次話更新日を追加

※ 9月21日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。


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