【#086《マスヤバ店名物料理「ニコチ~ハンバーグ」》】
【午後、都市クレイシス・料理店「マスヤバ」】
~屯朶舞~
「ニコチ~ハンバーグです。冷めない内にお召し上がり下さい」
「はい!」
これが夢にまで見たハンバーグ!良い匂い、美味しそう!
国連軍でお世話になっていた頃は、栄養分が足りないって食べさせて貰えなかったけど、今なら食べれる。感激だよ!
いつもよりテンション高めな(良夜くんが教えてくれた言葉。使う場面合ってるかな)わたしの反応の他所で、従業員の人達が何かを話していた。
「セガール店長、ニコチ~届けて来ました」
「うむ。あとは我輩に任せるのでアール。振動魔法“幻惑のインスピリング・ソニックボイス”!」
「出ましたね、店長の十八番!インスピリング・ソニックボイス!声の周波数を極限までに絞り込む事で、周りには聞こえない声を発生させるオチャめな魔法!その極細の音波で、あたかも物体が喋っていると錯覚するこの魔法……私も面接試験の時に用紙が語りかけてくるという、騙し討ちを食らったのが懐かしいです!」
「説明ありがとう。さて、当店自慢メニューの喋るハンバーグ、特と味わってもらうでアール!《冷めない内に食べて下さいね(裏声)》」
「……!!?」
あれ……? いまハンバーグから声が聞こえたような……
馴れない旅で疲れているのかな……幻聴のようなものがした気がする。
取り敢えず疑問視しながら、ハンバーグを見てみる。そこにはこんがり焼けたハンバーグがあるだけ。
「気のせいだよね」
《おねーさん、ぼくの声が聞こえるんでしょ?》
「!!?」
また……ハンバーグが喋った……気のせいじゃない?
わたしは萬を辞して、周りに聞こえないぐらいの小さな声で、返事をしてみようと思った。
「あの……ハンバーグさん……?」
《うん、ハンバーグさんだよ。良かった~、聞こえてたんだね》
直ぐに返事が来た。改めて周りを見ても、誰かがいたずらをしている感じはなかった。
それぞれ談笑するわたし達以外のお客さん、さっき食事を運んで来てくれた女性店員さん、左横にはマカッチャを待ちながら飲み物を含む魅紅ちゃん、右横にはわたしのハンバーグとほぼ同時に運ばれてきた赤いカレーをひきつった顔で眺める良夜くん、とてもいたずらをしてくるような状況じゃなかった。
何より声はハンバーグからしてきていた。更にはわたし以外の人が反応をしないところを見ると……この声はわたしにしか聞こえていないみたい。
なんだろ……凄くドキドキするね!
「えっと……ハンバーグさんは、どうして喋れるの?」
《それはね。このお店のダンディーな店長さんが、丹精込めて作ってくれたから命が宿ったんだよ》
「そうなんだ、凄いね」
真美お姉ちゃんからエレメントにも似たような力はあると聞いたことがあるけど、これも同じようなものなのかな。
食べ物と話し合えるなんて、凄くロマンチックなこと何だけど……
《美味しく食べてね、お姉さん》
なんだろ……。すっごく食べにくい!
可愛いよ!可愛いんだけどね!?喋るハンバーグってだけでも食べにくいのに、愛嬌まであっちゃうと最早、食品と思えなくなっちゃってるよ!?
《あれ? お姉さん、どうしたの?食べないの……》
「ち、違うよ。食べようと思ってるんだけどね? なんだか、仲良くなれた(?)友達を裏切るみたいな罪悪感があるんだよ……」
気付けばわたしはボソボソとハンバーグへ、心の内を吐露していた。
「お待たせ致しました!マカッチャになります。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがと」
横では魅紅ちゃんの注文した料理が運ばれてきていた。
そろそろ食べ出さないと、変に見えて来ちゃうよ……どうしよう。
念願のハンバーグ、存在を知ってから食べてみたいと思っていた料理、それがついに叶おうとしている。
それも旅の後だったから、こう言うのははしたないかもだけど、すごくお腹空いてる。
そして、皆の注文が揃ったのに食べ出さないと、魅紅ちゃんと良夜くんに怪しまれちゃう。
その時にハンバーグと話してるのなんて言えないよ……。だって、わたしにしか聞こえていないみたいだし……。
《早く食べてよ~》
「だ、だって食べちゃったらあなたは……」
《大丈夫。食べて貰うことが幸せだから》
「そんな……。寂しいよ……二度と話せなくなるのは」
《……何でそんなに悲しそうな顔するの……?》
「……わたしは知ってるから……話したくても話せない苦しみを……。」
わたしは家族が居ない事をハンバーグさんに話していた。
終始黙って聞いてくれたハンバーグさんの裏で
「どうしよう……やめどころ判らなくなった……」
「て、店長が調子に乗りすぎるから……」
「だって今時、あそこまでピュアな娘居ないじゃん!?嬉しかったんだよぉ!他の人は基本的に初見で見破られるし!」
「だからって、いつまでも演技を続けるからあのお客様、本当に悩み出しちゃってるんじゃない!あんな良い娘、騙してるみたいで私は心が痛いよ!」
「それは僕もだよ!でも、あんな過去まで切り出されたら、いよいよ演技でしたなんて言えなくなっちゃったんだよぉ!」
「そ、それは……私も涙しちゃったけど……と言うか店長、キャラが戻ってわよ!?」
「僕も泣いたよ!慰めてあげたいよ!そう言うエリカも、敬語がなくなってる!店員じゃなくて、妻になってる!店では見栄えが悪いからダメじゃないか!」
「私たちには子供が居ないからこそ、すごく思うわ!愛情を注いであげたいって!」
「僕もだよ!養子にしても良いくらいだよ!」
と言うやり取りをしていたみたいだけど、この時のわたしはまだ知らなかった。
《僕の子供になる……?》
「えぇ……? ハンバーグさんの子供に?」
家族が喋るハンバーグ……それって、どうなんだろう……。
「な、尚更食べれなくなっちゃったね……」
《あ……そ、そうだね……でも食べて貰わないと……冷めちゃうし、傷んじゃうし……これじゃお客様の身体にあたってしまう……ううむ》
なんだか店員さんみたいなを事を言っていた。
そこでわたしは名案を思い付いた!
「それじゃあさ、半分だけ残そっか? それなら意識残せる?」
《う、うん!それなら残せるよ!》
「うん、じゃあ持って帰るから入れ物とか貰わないとね!」
「え? 舞、どうしたの?」
「入れ物ってなんだ?いきなり……」
「あ、ごめんね。二人とも。 ハンバーグさん、半分持って帰るから入れ物貰おうと思ってるの」
『お持ち帰り!?ハンバーグさん!?』
二人の綺麗なつっこみを貰った所で、わたしは店員さんを呼んだ。
すると呼んだ店員さんの他に、もう一人少し体の大きい人まで出てきた。要件を伝えると……
『大変申し訳ございませんでした━━━!!』
全力で謝られた。
次回へ続く!!
どもども、焔伽 蒼です!
今回はギャグな話です。ここでくだらない説明を。料理店の名前「マスヤバ」ですが、あれは「まじヤバイ!」や「マズイ、ヤバイ」等の意味を含めて作りました。不味くはないんですけどね!?むしろ、この思考に至った僕こそがマジヤバでしょうね(笑)
そしてニコチ~ハンバーグは、お客様をニコニコ笑顔にしたいと言う意味を込めてセガール店長が考えました。
店員さんのエリカ(店長の奥さん)は、微妙な顔をしたみたいですが。ちなみにこの夫婦には、子供がいません。エリカさんがそういう体質を持っているのです。だからこそ、舞が一層可愛く思えたんですね。
この夫婦はまた出したいなと思いつつも、今は物語の進展のために引っ込んでもらおうと思います。でも、いつかは養子ネタでやろうかな~って感じです。
かねてより予告していた新作「始末屋だった俺に新しい家族が出来た。」ですが、おおよそのプロットは完成しました。これも長編になります。下手したらアンノウンスキル並に。
これからあとがき欄にて、情報を少しずつ載せていくので、ぜひ見てみて下さい。とりあえずタイトルが長いので、今後僕は「始末屋」と略します。皆さんはお好きな呼び方をどうぞ。良い略称が作れなかったのは残念でした、個人的に…くっ
始末屋情報その1
舞台は現代日本。外国もたまに。始末屋だから、昔だったりはしません。裏稼業の一つです。他にもいろんな稼業が出てきます。
あと俺充もひっそりと更新しました。では!