【#044《特A級犯罪者!最氷・ヒュース》】
煉獄キャスターズの女王は、恍惚な笑みを浮かべ、嬉々(きき)としてリュウを鞭打ちしていた。
パシッ!
「あぐっ!」
「痛い?痛いかしら?」
パシィッ!
「ぎゃっ!」
「フォーホホホ!女王様とお呼び!」
女王は痛みと羞恥心に顔を歪ませるリュウの姿を見て、それはもう愉しそうにしていた。
「愉快!愉快だわ!さあお前達も打ちなさい!」
『ありがとうございます!』
20人近いキャスターズが鞭を片手に近寄ってくる。
あれだけの鞭で叩かれる。考えただけで想像を絶する痛みと恥ずかしさだ。リュウは何とか大木と一緒に巻き付かれた鞭を千切ろうと力を入れる。
「んぐぐっ!柔ら固い!なにこれ!ムカつく!」
「さあ良い声で鳴きなさい?」
「ま、待って!流石にそれは洒落にならない!羞恥心もそうだけど、物理的にもヤバイから!」
「おだまり!」
「えぇ!?」
女王達が鞭を振り上げた━━━その瞬間だった。
パキパキ……
後方の森から尋常じゃない冷気が飛んできたのを感じた。
「なに……あれは……」
女王が見たのは、恐ろしい光景だった。今まででプレイ(戦闘?)に夢中だったせいで気付けなかったが、辺りの温度が低下していた。
そして、後ろの森の光景を見ていると、寒くなくても寒気を感じるだろう。
「森が……凍っている」
そう。目に見える範囲の森は完全に凍りついていたのだ。木々につららが出来、地面は完全に凍結し、風には粉雪が混じり━━━そして、その中を歩いてくる少女がいた。
「子供……?(だが……なんて無機質な眼をしているんだ……)」
「ま、まさか……」
リュウは少女の瞳に畏怖し、女王は少女の姿や周囲の状況を見るとある存在に気付いた。
意識してか、無意識なのか、女王はある言葉を思い出したように呟く。
「……白き衣を羽織り、冷血な青白の瞳をした少女、通りし道には草木一本余すことなく凍結させる冷酷無比な絶対零度、最氷がヒュース……!何で、何でアンタがここにいる!?ヒュース!」
「ヒュース!?あの特A級犯罪者の!?(こんな少女だったのか……!)」
さっきまでお楽しみだった女王の顔からは、恐怖感しか見て取れなかった。
それはキャスターズやリュウも同じだった。
ヒュースは感情のない声で、無意識な瞳でリュウ達を見回した。
「想定よりいっぱい……いる。目標の人物は……いない」
ヒュースは歩いて、リュウ達とは違う方向へ歩いて行く。まるで煉獄キャスターズやリュウの存在等気にも止めてないかのよいに。
だが、それが気に入らなかったのか。
「生意気だねぇ……!虫ほどにあたしを見てなかった!」
女王はヒュースに明らかな敵意を向けていた。
「お前達!相手はたった一人!小娘を調教するわよ!」
『は、はっ!』
「かかれぇー!」
女王は先にキャスターズをヒュースに飛び掛からせた。
「複数の敵意を……感知。敵は……排除」
ヒュースは冷たい瞳をキャスターズに向ける。
「“氷雪”」
ヒュースから吹雪が発生し、キャスターズを襲う。一瞬だった。キャスターズは、一瞬の内に凍りついてしまっていた。
あまりに一瞬だった為、皆突撃してくる体制で凍っている。
「なっ……!」
女王は唖然としていた。
20人近い部下が1秒足らずで全滅させられたのだ。当然だった。
ヒュォ
そしてこれも一瞬だった。
ヒュースが雪に包まれたと思った瞬間、女王の背中に何かが触れたような感覚があった。
「……!」
ぞくっと女王は振るえる。いつの間にかヒュースが後方へ移動していて、自分の背中に冷たい手を置いていた。
「瞬脚かい!?ちょいと速すぎやしな━━━」
「接敵……“凍氷”」
パキパキ
ヒュースが触れている部分から女王の体が凍り付いていく。
そこで女王は初めて死の恐怖を感じた。これ以上、ヒュースに触れていてはいけない、直ぐに離れなければと思った時には既に遅かった。
氷が足と地面を繋げてしまっていた。
「いつの間に……!このっ!放せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
パキパキパキパキ
女王の体は徐々に凍っていき、既に顔以外の身体は凍っていた。
ヒュースは最後に小さな声で女王の方を見て告げた。
「思い出した。お姉さん、煉獄キャスターズの中で一番えらい……獄姫さんだよね」
「そ……それが……なんだって言うんだい……!」
「何でわたしに敵意を……向けたの? 何で朔夜さんを……裏切ったの? ねぇ……なんで?」
「うっ……」
ヒュースの言葉に感情とは違う寒さを感じ、獄姫は言葉みそうになるが……。
「ほ、フォーホホホ!決まってるわ!あたしのプライドが許さないからよ!夜魅の傘下になるのも、何を考えているんだか分からない白蕗朔夜を崇拝するアンタに舐められるのもねぇ!」
獄姫は最後の最後に言葉ではあるが、恐怖を押し退け、ヒュースに反撃をした。
「そう……」
だがヒュースの表情に変化はない。ただ、ひたすら無機質に冷徹に感情を出すこともなく、「残念……だよ」と告げ、残された獄姫の顔もパキィーンと完全に凍らせた。
「ぐっ……くそ!あの数を圧倒するとか勝ち目がない……!逃げたいのに、鞭のせいで逃げれん!」
いよいよ自分の番だと察したリュウは、急いで鞭を振りほどいて逃げようとしたが、柔ら固い鞭から逃れることが出来ない。
「……」
ヒュースはそんなリュウを見る。ビクッと冷や汗が流れる。
「お兄さんは……敵意無いね」
そう言うと、ヒュースは自らを吹雪で覆い、その吹雪が止む頃には姿は無くなっていた。
リュウは心配になり、気配を探って見るがヒュースの気配は感じない。
「見逃されたのか?敵意がないだけで……?」
ヒュースの行動には疑問が残った。だが、今は命も貞操も守れた事に安堵していた。
『to be continued』




