【#033《ラ・フェイス裏山の温泉》】
良夜にとって三日前より精神的披露を負った今日の夜、魅紅と宰は温泉へ向かっていた。
「でも驚いたわ。温泉まであるなんて」
「確かにな。こう言っては何だが、ラ・フェイスは普通の宿屋に比べたら、かなり小さいから浴室がある程度だと思っていたのだが……」
「ふふ、よく言われます」
魅紅と宰を温泉まで案内しているミイシャが、普通の笑顔で同意した。
「でも、うちの温泉はサイコーですよっ!血液活性・魔力調和・美肌効果等の効能があり、眺めも素晴らしいものですから」
「美肌効果!?」
「魔力調和……だと?」
御三家・天塚一族と名家・園臣家のお嬢様が食い付いた。普通に考えたら、これだけでラ・フェイスは世界的に有名になるのだが、今は失踪した一族と弾圧された名家なので、逆に悪い噂が付いてしまう。
「にしても、随分歩くのね……」
「良い鍛練になるな」
「すいません……宿屋の広さ的に、温泉を作るのは難しくて、こうして離れた位置にある別土地に作るしかなかったんです」
「あ、別に文句を言っている訳じゃないのよ?気を悪くしたらごめんなさい」
「大丈夫です。わかってますっ」
「しかし、先ほどから獣道のような所をひたすら上がっているのだが……その温泉は山頂にでも作ったのか?」
ミイシャの案内は、宿屋を出てから裏にある山を登って来ていた。
「山頂までは行きませんが、山の中央までは登ります……大体10分ぐらいは掛かっちゃいますが」
すると魅紅と宰はある事に気付いた。
「なんか暖かくなって来ていない?」
「ああ、と言うより地面が熱を持っているようだな」
「はい、この山の中央下にはマグマ溜まりが作られていて、その熱が地面に染み込んでいるんです」
「ひょっとして、今から行く温泉って……」
「はい!この地熱で半日かけて暖めたものです!」
「凄いわね……水とか誰が運んでいるの?」
「お母さ━━━女将が魔法で1日2回のペースで補給しています」
「水気のない土地で、水の性質を使うのか……大した魔力量だな」
「ありがとうございます……あ、着きましたよ」
ミイシャがそう言って、道の先を指差して、そっちを見るとそこには絶景な世界が広がっていた。
先程まで林の中だったのに、そこを抜けると直径20m程の平野が広がっていて、周りには竹で作られた壁で囲まれていて、入り口と目の前の山の外だけが吹き抜けになっていた。
絶景なのは、その山の外の光景で、かなり遠くまでの街が見通せて、その街明かりや月等が最高に綺麗な絵を作り出していた。空を見れば満天の星空が広がり、どこを見ても光の芸術が目に焼き付く素晴らしい所だった。
魅紅と宰は胸打たれたかのように、ドキドキと見惚れていて、ミイシャの言葉通り最高の光景だった。
「凄く良い所だわ……期待以上よ」
「うむ、素晴らしいの一言に尽きるな……」
「ありがとうございます!それではごゆっくりしていって下さい」
ミイシャは挨拶をして宿屋へ戻ろうとした。
「あ、待って」
「はい?」
「貴女も入って行きなさいよ」
一瞬、パァッ♪と嬉しそうにしたミイシャだが、直ぐに本業のことを思い出して首を振った。
「だ、ダメですよっ。私は天塚ご一行様のおもてなしと言うお仕事があるので……」
「まあまあ、固いことを言うな」
「はぅ!いつの間に移動されたのですか!?」
宰の瞬脚で、ミイシャの後ろへ回り込み、がしっと両肩を掴んで持ち上げている。
「は、放してくださ~い」
両手両足をパタパタさせながら抵抗をしているが、その姿が逆に魅紅の可愛いモノ好きを刺激してしまった。
「ああ~ん、可愛い過ぎよミイシャっ」
魅紅もいつの間にか瞬脚でミイシャの前に移動していて、頬や頭を優しく撫で回しだした。
ミイシャは目をぐるぐるさせながら、為されるがままになってしまい、服を丁寧に脱がされ、そして魅紅と宰も服を脱ぐために、交互にミイシャを捕まえてそのまま温泉へ入って行った。
「これは、気持ち良いなー」
「ホントねー。ミイシャもそう思うでしょ?」
「はい、自慢の温泉ですから……でも、使用人である私が、お客様と一緒にお風呂だなんて……」
「一緒に入るのも、立派なおもてなしよ」
三人は地熱で程よく暖められた、ポカポカの湯船に浸かり、身体も心も暖まっていく。
景色も街の明かりや、夜空の星空や月等を見ていると、精神的にもリラックスしていく。
更には湯船に浮かぶ葉があるのだが、これは落ち葉が入ったのではなく、この山にある特殊な葉で“エレクシアの葉”と言われ、磨り潰して作った薬“エレクシア”と言うのを飲むと、核を安定させたり、体内を巡る力を整える効果があると言われている。
ただ、そのエレクシアを作るには、人間の身体の仕組みを把握していて、かつ繊細な作業が必要と言われていて、並みの薬師では作り出すことも出来ないのだ。
「エレクシアの葉が染み込んだ湯船だから、魔力調和の効能があるのね」
「はい!この山にはエレクシアの葉の宝庫ですから、少し贅沢に使わせてもらっています」
「エレクシアの葉って、そんなに高価なのか?」
宰が湯船に浮かぶエレクシアの葉を手に質問してくる。
「希少素材ではあるわね。商品として買ったら、一枚10万ぐらいはするんじゃないかしら」
「そんなにか!?」
「だから、あまり口外しない方が良いわよ?狙う悪人もいるからね」
「そうですね……私もラ・フェイスとこの裏山を悪い人たちに荒らされたくないですし……」
(あれ?でもエレクシア(薬)があれば、良夜の能力も安定するんじゃ……)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魅紅が良夜の副作用に関して、解決の糸口を見付け出していた頃━━━温泉に近付く複数名の人影があった。
『to be continued』