15-③
「ブッ殺す」
ボスと呼ばれる男の目が、いよいよ正気を失いつつあるほどブチ切れてしまっている。
だいぶまずい状況なのは分かっているのだが、ヤツらがブチ切れればブチ切れるほど、私の中の血が喜びで踊り狂った。万全の体調ではないことだけが死ぬほど悔やまれるが、殺してしまいそうなので結果的に良かったのかもしれない。その分ピンチなのだが。
「つかまえろ!!」
いっせいに飛びかかってくる男たちを見越して、あらかじめ魔法袋に突っ込んでいた手でトラップロープを取り出した。ピンッと指先で弾くだけで対象に向かっていってくれる便利グッズで、絡みつけば数分間は雷魔法で拘束され、上手くいけばそのまま失神までさせてくれる。
四つ投げつけたロープに二人が引っかかり、派手な音を立てて地面に転がった。
ボスともう一人の男は、構わず私に手を伸ばしてくる。
私は両足の力を抜き、その場に倒れ込むようにして取り出した大きめの盾に身を隠した。それと同時に投げつけたのは、先ほどと同じ形をした投げ爆弾だ。
投げ上げられた爆弾を横目に、男たちは私を捕えようと動いていた。また閃光と音の爆弾だと思ったからだろう。だが──...。
ド、ガン!!
「があっ!!?」
まともにくらった男たちがそれぞれ崩れ落ちる。
今度のアイテムは文字通り爆弾だ。投げつけた先の壁が半壊するほどの威力がある。
過去の任務で得た頑丈なこの盾がなければ私も致命傷を負っていただろう。
倒れ伏した男たちを見下ろし、私は安堵の息を吐き出した。
その中でも、ボスと呼ばれた男の元まで歩いて行き、私は白目をむいている男の失神顔を観察した。
『恋人のように相手してやるよ』
我ながら自分の言ったセリフに反吐が出る。
それらをかき消すように、私はグリグリと足裏で男の顔面を踏みつけた。
「ブタ野郎。二度と女を抱けない体にしてやる」
足で男を蹴り体を仰向けにすると、私は取り出した酸性の強い毒壺を男の股間あたりにぶちまけようとした。
だが、突如ごぽりと喉から迫り上がった液体に咽せ、その場に膝をつく。
「──ごほッ!ごほごほごほ、ごっほ、がは...っ!!」
バタバタと両手のひらにこぼれ落ちる赤いもので身が汚れていく。
ああ...。まずいな。
ぼんやりする頭でそう思った。
そして次の瞬間、視界がぐるりとひっくり返る。
天井が真上に見えたと思った途端、ガンッと頬に衝撃が走った。殴られたと気づいたのは、真上から血だらけの男が馬乗りになった時で、もう身動きひとつ取れなくなっていた。
「くそ、バケモンが...」
キレまくった男は私が何を毒づこうが、きっと容赦しないだろう。
どこかではきっとこうなる事を分かっていた。
覚悟はできている。
そう、心底思っていたのに。
体の装備を乱暴に剥ぎ取られ、身を包んでいた最後の衣服をバリバリと破り捨てられたその瞬間、何かのスイッチが入ったように長く甲高い悲鳴が喉から漏れ出ていた。
その悲鳴をトリガーに、仕舞い込んでいた忘れたい記憶が呼び覚まされる。
また、殴られる。大人しくなるまで。
顔も腹も、全身余すこと無く全て。
そして、動かなくなったら終わる。
だけど、その先に待っているのは...。
「やだぁ......っ!...けて、」
「ああ!?うるせえんだよクソアマあ!!!」
「...っうッ!たす、けて、たすけてっ!ブラン!!ブラン!!!ブラン、たすけて...!」
泣き叫ぶたびに叫んでいたその名を覚えていたらしい男が、バカにしたように笑い出した。
「あー、はいはい。ブラン、な?」
ブラン、ブラン、と泣き叫ぶ私の両手を床に押し付け、男が覆い被さってくる。
今なのか、過去なのか。
もう自分がどこにいるのかも、分からなくなっていた。
──ガッ!ガンッ!!!
どのように破壊したのか、激しい音と共に扉が粉砕された。
小屋の中に踏み込んできた男は、全身で呼吸をするほど汗だくになっていた。
そして、小屋の地面に磔にされるように押し倒されている私と目が合うと、黒曜石を思わせる美しい瞳が驚愕で見開かれる。
「リ...リー......?」
名を呼ばれたその瞬間、とめどなく溢れていた全てが止まる。
ああ...。きて、くれた......。
きてくれたんだね、ブラン......。




