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うむ。なるほど。  作者: たなかそう


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第一話 プロローグ

備えあれば(わずら)いなし。

何事も準備していれば、恐れることなどない。

俺はそう信じて準備をしてきた。

何の準備をしたかって?


それは、異世界転移だ。



準備と言っても、物を準備するのでは意味がない。

転移する時に身の回りのモノは持っていけないケースがあるからだ。

転移先で警戒されないために「全裸転移」させられる可能性すらある。

ならば、どんな準備が必要か。

答えは一つ、知識だ。


俺は、あらゆる知識を吸収した。

飯無双のために飲食店でバイトした。

農業無双のために庭をジャングルに変えた。

医療無双のために医学書を読み漁った。

商業無双のために簿記は一級まで学習済みだ。

内政無双のために経済学部に入学した。

武力無双のために総合格闘技のリングに上がった。

エロ無双のためにあらゆる体位(たいい)を試した。

生活無双のために悠々と一人暮らしをした。

魔法無双のために――これだけはイメトレを重ねるしかなかったが。


資格も思いつく限り取りまくった。

受験条件さえ満たしていればすべて取得した。

メンタル、ワイン、コーヒー、ヨガ、メイクアップ、ネイル、アロマ、無線、色彩、秘書、世界遺産、薬学、毒物・劇物、星空、潜水、気象予報、手話などなど。

何に役立つかなんて、転移してみなければ分からないからな。


語学もいくつもマスターし、未知の言語であっても、ある程度の時間聞き流せば構造を理解できるようになった。乗り物系も免許が取れるものは網羅(もうら)し、その構造も大体は理解できるようになった。高校時代に楽器屋でバイトした経験から、主要な楽器は一通りすべて扱える。


若干の不安は残るものの、これ以上ないほどの準備は整った。

すべては、異世界に行くため。

異世界で、最高に楽しく無双していくためだ。



そして俺は、知命(ちめい)を迎えた。

五十にして天命を知る。

ようやく、俺は気づいたのだ。

――俺には、異世界転移の天命などハナから与えられていなかったのだと。



結婚はしなかった。

相手はいたし、「子供ができた」と言われたことも一度や二度ではない。

認知した子供も星の数……まではいないが数人いる。彼らとは今でも程々の関係を築けていると思う。

養育費は膨れ上がっているが、幸いにして俺は大金持ちだ。百人分払ったところで痛くも痒くもない。……いや、そんなには払っていないが。ただ、具体的に何人分の養育費を口座に振り込んでいるかは、もう覚えていない。


慰謝料は一円も払っていない。何も謝るべきことがないからだ。

俺は最初から、交際相手に「結婚する気も子供を作る気も一切ない」と伝えていた。だから子供ができたというのは、彼女たちの作戦に他ならない。本当に俺の子かどうかも定かではない。

事前に約束を交わした以上、俺に後ろめたい気持ちはない。むしろ、俺の子か分からないけど認知してるなんて、とんだお人好しだと思っている。



ただ、子供は好きだ。

子供たちは俺のことを「父親」だとは思っていないので、たまに会う都合の良い親切なおじさんだと認識してくれている。金を払うだけで、面倒な育児に追われることもなく、子供の純粋な笑顔だけを搾取できるのだ。子供を嫌いになる理由が一つもない。

時には、運動会や文化祭なんかに顔を出して、楽しませて貰ったりもした。あまりの可愛さにほいほいお金をあげたおかげか、子供たちから疎まれていると感じたこともない。


俺の準備は、無駄ではなかったのだろう。本懐(ほんかい)を遂げたわけではないが、俺はある程度、自分の人生に満足している。


「備えあれば(うれ)いなし」

時に備え損だと思ったこともあったが、振り返れば、活用できない知識など何一つとしてなかった。無双のために貪り食った知識は、結果として、すべてが俺の今の人生を豊かにするものだった。


何が一番役に立ったかといえば、皮肉にも「魔法無双のためのイメトレ」だ。

どういった原理で何が起こるのか。何をどう組み合わせて新たなシステムを生み出すか。その順序立てた論理的思考は、IT企業を立ち上げて成功した自分にとって、最大の財産だった。俺の考えていた魔法の構成は、プログラミングの構築と全く同じなのだ。すべては繋がっていた。


俺の人生に悔いはない。

ただ、もしも欲を言うのであれば。

次に目覚めた時――そこが、異世界であればいい。


それが。

大学生になった、愛してやまない息子に腹を刺されながら迎えた、俺の最期(さいご)であった。

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