序章
初投稿させていただきます。
子供の頃から温めていた物語ですのでぜひお付き合いいただけましたら幸いです。
お急ぎの方は3章からどうぞ。
よろしくお願いいたします。
「――――!」
どん、と何かが弾けた大きな音が聞こえ、フィーネは目を覚ました。
そして、自分を取り巻く室内の光景を見て息を呑んだ。
目の前が赤い。
ぱちぱちと薪がはぜるような音が鳴り、はらはらと天井から火の粉が降る。
すぐにこの場から逃げなくては、と起きあがろうとしたフィーネだったが、手首と足首を縄で縛られていて身動きがとれず、地を転がることしかできない。
簡単にはこの場から逃げることが出来ないことを知り、灼熱の中にいるはずなのに背筋に寒気が走った。
「ここは……」
どこなのだろうか。
周囲の様子を確認するために上下左右に視線を動かしてみるが、木材が積まれているだけで他には何も見当たらない。そして、自分は何故、火事に巻き込まれているのだろうか。記憶の整理が追いつかず、混乱しながらも、思い出せる範囲で考えた。
たしか、王宮の自室で刺客に奇妙な薬を嗅がされて意識が無くなって――。
意識を失う直前に刺客はけらけらと笑っていた。
『悪く思わないでくださいね。恨むならわたしにあなたを殺せと命じたあの男を恨んでください――』
消えかけた意識に強く残った男の声はその名をはっきりと告げた。
フィーネは信じたくなかった。まさか、彼がそんなことを命じたなんて――。
ふいに目から涙が零れた。
熱から目を守る身体の反射のためか、はたまた、罠にはめられたことが悔しいのか。医師であるはずの自分でもどちらかわからないが、涙が止まらなかった。
アウィルドはフィーネを殺すつもりだったのだ。
今のアウィルドにはフィーネを殺そうとする理由が充分にある。フィーネさえいなければ彼の望みが叶う。だからこそ、彼は――――。
だが、本当にそうなのかはわからない。刺客がついた嘘の可能性もある。
とにかくここから出なければ。
生きてさえいればその真相を本人に確かめることができるのだ。
だが、炎は無慈悲にも勢いを増す。
強烈な熱がフィーネの白い肌を責め、目が痛い。喉も焼かれたのだろうか、息が苦しい。
誰か、助けて――。
自分はまだ、死にたくない。死ぬわけにはいかないのだ。あの人――アウィルドリーシャに何があったのか知らなければならない。
恐怖で胸が張り裂けそうになりながら、フィーネは願った。
お願いだ。誰か、来てほしい。
今すぐここから連れ出してほしい。
神でも先祖でも、幽霊でも精霊でも悪魔でも、魔物でも善人でも悪人でも、誰でもいい。
誰か――――
あの夜、星空の下で微笑んでいた彼の姿が脳裏によみがえる。
炎のような真紅の長い髪。
深い夜の海を思わせる人懐っこい瞳。
日に焼けた褐色の肌。
優しい声とはにかむような笑顔。
――そなたにとって今はそう思えぬかもしれないが、少なくとも、この世界のすべてがそなたを悪く思っていることなどない。そのことだけはどうか、覚えていてほしい。
どうして今この瞬間にあの夜のことを思い出してしまうのだろう。
――死んでたまるか。
縄が食い込み指が切れそうになるのも構わず、フィーネは両手に力を込めた。
そして脳裏に浮かんだのは、七年前の星月夜だった。




