20話 妹が元気になりすぎた
エリクサーを手に入れた後……
盗賊達を縛り上げて、憲兵に通報した。
盗賊達が捕まっている間に俺は家へ戻り、エリクサーをエリゼに与えた。
とはいえ、バカ正直にこれはエリクサーです、と言ったわけじゃない。
そんなことをすれば、どこで手に入れたのか問題になるし……
なので、体に良さそうな薬湯を手に入れたと偽り、エリゼに飲ませた。
アラムはそんな怪しいものをエリゼに与えるなんて、とピーピーわめいていたが、気にしない気にしない。
そうやって、エリゼにエリクサーを与えて……
一ヶ月が経過した。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
朝。
目が覚めて部屋を出ると、どすんっ、と何かが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「え、エリゼか……」
視線を落とすと、きらきら笑顔のエリゼが。
なにか良いことでもあったのか、とてもうれしそうだ。
「どうしたんだ? なんか、良いことでもあったのか?」
「はいっ、お兄ちゃんに会えました♪」
ウチの妹がかわいすぎるから悶絶してしまいそうだ。
「というか、家の中を走り回ったらダメだろう?」
「はい……すみません」
しゅん、となるエリゼ。
こうして、きちんと反省できるところは良いところだ。
「お兄ちゃんにもらった薬湯を飲んでから、体の調子がすごくよくて……それで、なんだかうれしくなって……」
「つい走り回ってしまった、と?」
「はい……」
気持ちはわからないでもない。
今まで、エリゼは体を激しく動かすことを禁止されていたからな。
まあ、禁止するまでもなく、激しく動くとすぐにバテてしまい、それどころじゃなかったのだけど……
でも、今は違う。
エリクサーの効果なのか、エリゼはすっかり健康になっていた。
こうして走り回ることもできる。
そのことがうれしくて……
ついつい、ハメを外してしまったのだろう。
仕方ないかなあ、と思う。
……俺も、大概、妹に甘いのかもしれない。
「その様子だと、薬湯は効いたみたいだな。どうだ、体の調子は?」
「はいっ、すごく元気ですよ! なんだか羽が生えたみたいで、すごく体が軽いんです」
「そっか、よかった」
「えへへっ」
気がついたら、エリゼの頭を撫でていた。
エリゼは嫌がることなく、むしろうれしそうにしていた。
ふむ。
見たところ、エリゼは健康体を取り戻したみたいだ。
さすがエリクサーというべきか。
後遺症なんてものはないし、以前よりも体が丈夫になったような印象も受ける。
ただ……
今までが今までだったからな。
ずっと、病弱で体の弱いエリゼを見てきた。
だから、まだなにかあるのでは? と心配してしまう。
本当に治ったのだろうか、と疑ってしまう。
本来の予定なら、エリクサーを入手した後は、そのままエレニウム魔法学院の門を叩くつもりだったんだけど……
そのことをエリゼに話したら、泣かれてしまった。
病は気から、とも言う。
エリゼを安心させてやるために、入学は後ろにずらすことにした。
しばらく様子を見ておきたいし……まあ、仕方のないことだ。
魔神を倒すという目的は失われていないけれど……
でも、エル師匠が言っていたように、力だけを求めてはいけないと思ったのだ。
周りにも目を向けて……
エリゼのことを気にかけないといけないと、そう思ったのだ。
もう問題ないと、断言できるくらいエリゼが元気になるまで……
もう少し、エリゼの隣にいることにしよう。
――――――――――
「お兄ちゃん!」
「ぐふっ!?」
朝。
目が覚めて部屋を出ると、どすんっ、と何かが突っ込んできた。
いいところにクリーンヒットして、肺の空気が漏れてしまう。
って、ものすごいデジャブ……
「エリゼ、どうしたんだ……?」
「あっ、すいません……お兄ちゃんに会えてうれしかったので、ついつい、抱きついてしまいました」
かわいいから許す。
「お兄ちゃん、今日はどうするんですか? 何をするんですか?」
あれから、エリゼは俺の後をついて回るようになった。
一緒にいられることがうれしいのだろう。
俺の妹、天使。
って、話が逸れた。
俺が自主訓練に行くと、エリゼも後をついてきて、一緒に訓練をする。
リハビリにちょうどいいかと思い、一緒に体を動かしていたのだけど……
「訓練だけど……エリゼも一緒に行くか?」
「はい!」
「じゃあ、準備をして外に集合だ」
「わかりました」
動きやすい服に着替えて、外に出た。
ほどなくしてエリゼも出てきた。
まずは準備運動をして、体をほぐす。
それから、家の周りを走る。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
適度なペースを保ち、足を進める。
子供ということを考えると、かなりの速度が出ているのだけど……
エリゼはしっかりと後をついてきていた。
苦しそうにするわけでもなく、むしろ、楽しそうにして走っている。
体を動かせることが、うれしくてうれしくて仕方ないのだろう。
それはいいんだけど……
「さあ、お兄ちゃん。次はどうしましょう!?」
ランニングを終えると、エリゼが意気込んで尋ねてきた。
うずうずしているのがまるわかりで、今すぐにでも体を動かしたいみたいだ。
なんていうか……
以前のエリゼからは、まるで想像ができないな。
まさか、ここまで元気になるなんて。
エリクサーは、エリゼの体を治すだけではなくて……
それ以上に、頑丈にしてしまったらしい。
「ちょっと休憩しよう。体を動かすばかりじゃなくて、時には、休ませることも大事だ」
「はい、わかりました」
地面に座ると、エリゼが隣に腰を下ろした。
そのまま、こちらの肩に頭を乗せてくる。
「えへへ」
丈夫になっただけではなくて、以前よりも甘えん坊になったような気がする。
兄離れできるのか心配だ。
……しなくてもいいか。
こんなにかわいいエリゼがどこかに行ってしまうなんて、想像するだけでもイヤだ。
「あ、お兄ちゃん。りんごを食べますか? 休憩した時のために、持ってきておいたんです」
「気がきくな。じゃあ、もらうよ」
「はい。ちょっと待っててくださいね、今、切り分けて……あっ」
ぐしゃ、っとエリゼがりんごを素手で潰してしまう。
「あれ?」
「……」
「りんご、こんなに柔らかかったでしたっけ? うーん」
エリクサーの効能なのか。
元気になって、頑丈になるだけではなくて……
さらに、身体能力も大幅に上昇していた。
なんていうことでしょう。
……ウチの妹が元気になりすぎた。
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