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19話 賢者VSケルベロス

「この……化物がっ!!!」


 激高した大男は、自慢の腕力にものを言わせて、巨大なバトルアクスを振り下ろしてきた。

 距離を詰める速度。

 巨大なバトルアクスを振る腕力。

 共に申し分のない一撃だ。


 しかし。


 それでも、俺には届かない。


「ふっ」


 体を一歩分、横へ。

 そうして、最低限の動きでバトルアクスを避けた。


 身の丈ほどもある巨大なバトルアクスだ。

 一撃を振り下ろした後は、すぐに第二撃に移ることはできない。


 大男が隙を見せたところで、その懐に飛び込む。


「大地槍<アースランス>!」


 ゼロ距離で魔法を放つ。


「ぐはっ!?」


 大男の胸に岩の槍が激突した。

 その衝撃に抗うことはできず、大男は大きく吹き飛ばされて、何度も地面を転がる。


 あいつがエリクサーを持っていたら……という心配はしていない。

 エリクサーを持ち歩いているのなら、破損することを恐れて、自ら戦闘に加わることはしないはずだ。

 たぶん、どこか別の場所に保管しているのだろう。


「さてと……まだやるか?」

「くっ……」


 よほど頑丈らしく、大男は立ち上がってみせた。

 しかし、ダメージはしっかりと残っているらしく、足元がふらついている。


 それなのに。


 大男は余裕を見せるように、ニヤリと笑ってみせた。


「てめえは俺を怒らせた……タダではかえさないからな。その体、グチャグチャにしてやるよ」

「へえ、そんなことをする力が残っているのか? どこに?」

「へへっ、こいつを見やがれ……こいっ!」


 大男は懐から小さな笛を取り出して、大きな音を出してみせた。

 ピィーッ、という音が響いて……

 次いで、ズシンズシンと、巨大な何かが移動する足音が近づいてきた。


 それは……


「グルァアアアアアッ!!!」


 三つの頭を持つ地獄の番犬、ケルベロスだった。


 その体は家よりも大きく。

 体を支える足は、丸太をいくつも束ねたように太い。

 三つの頭に覗く牙は鋭く、一つ一つが鋭い槍のようだ。


「なんで、中級のケルベロスがこんなところに……?」

「こいつを知っているみたいだな? 一個小隊に匹敵するといわれている力を持つ魔物だ。こいつを相手にできるかな?」

「こんなものを連れ出すなんて、自爆するつもりか?」

「おあいにくさま。こいつは、小さい頃から俺が飼いならしているんだ。俺の命令ならなんでも聞く。死ぬのはお前だけさ」

「なるほど、ね」

「地獄に落ちやがれ!」


 俺はそこまで悪行を積んでいないから、行くとしたら天国だと思う。


 ……なんてツッコミを入れる間もなく、ケルベロスが襲いかかってきた。

 前足を大きく振り上げて、俺を踏み潰そうとする。


「能力強化<アクセル>!」


 身体能力を強化して、ケルベロスの一撃を避けた。

 ヤツの体は巨大で、攻撃力も高いが……

 その分、動きが鈍い。

 身体能力を強化すれば、ケルベロスの攻撃が当たることは、まずない。


 とはいえ、まだ安心できない。

 ケルベロスの攻撃手段は他にもある。

 例えば……


「グルァアアアッ!!!」


 ケルベロスが吠えて……

 三つの頭から炎を吐き出した。

 炎が渦を巻いて、嵐となって襲いかかってくる。


 広範囲に届く超高熱の一撃だ。

 これを完全に避けるのは難しいな。

 そう判断した俺は、別の魔法を使用する。


「空間歪曲場<ディメンションフィールド>!」


 不可視の力場が前方に形成された。

 炎は意思を持ち、その力場を嫌がるように、左右に分かれていく。

 俺の体に炎が届くことは一切ない。


「なっ……ば、バカな!? てめえ、どうやってケルベロスの炎を防いだ!?」

「空間を歪曲させて」

「な、なんだと!? そんなふざけた魔法を使うことができるなんて……そもそも男は魔法を使えないだろうが!? ありえねえ、絶対にありえねえぞ!」


 なにやら驚いているのだけど……

 これ、第7位の魔法なんだけどな。

 俺にとってはどこにでもあるような汎用的な魔法だ。

 正直なところ、これくらいで驚かれても……というのが本音だ。

 ホント、この時代は俺の生きていた頃といろいろと違うなあ。


 まあ、それはいい。

 今は、コイツをなんとかしないとな。


「グゥ……ルァアアアアアッ!!!」


 炎が通じないと悟ったケルベロスは、接近戦を挑んできた。

 前足を棍棒のように振り回して……

 さらに、槍のように鋭い牙が並んだ口で、俺を噛み砕こうとしてくる。


 まるで、荒れ狂う嵐だ。

 めちゃくちゃに力を振り回して、触れる者全てを傷つける。


 下手に放っておいたら、どんな被害が出るかわからない。

 さっさとケリをつけることにしよう。


「火炎槍<ファイアランス>!」


 これみよがしに口を大きく開けていたので、全力の一撃を口の中に叩き込んでやる。

 口の中で炎が炸裂して、ケルベロスの頭の一つが内側から燃えて、弾け飛んだ。


「はははっ、無駄だ! そいつは心臓が三つあるようなもので、三つの頭を同時に破壊しない限り永遠に再生を……」

「風嵐槍<エアロランス>! 氷水槍<アイシクルランス>!」


 間髪入れず、残り二つの頭部も破壊した。

 悲鳴を上げることもできない。

 ケルベロスの体は、一瞬、痙攣して……

 そのまま、ドォッ、と地面に倒れた。

 二度と動くことはない。


「……」

「永遠に再生を……なんだって?」


 大男は目の前の出来事が信じられないというように、目を丸くして……

 ただただ、口をパクパクさせるだけだった。


 そんな大男の前に移動して……

 にっこりと笑いながら問いかけてやる。


「で……エリクサーは?」

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