14話 姉を助ける
通路を一気に駆け抜けると、大きな広場に出た。
ちょっとしたスポーツができるほどに広い大部屋は、大量の魔物があふれていた。
ゴブリン、スライム、オーク……よりどりみどりだ。
そして……
アラムがそれらの魔物に囲まれていた。
なぜ? と考えている時間はない。
ほとんど反射的に体が動く。
「能力強化<アクセル>!」
アラムを巻き込んでしまうかもしれないから、攻撃魔法は使えない。
代わりに、身体能力を強化する魔法を使う。
体が羽のように軽くなり、力がみなぎる。
アラムを囲う魔物の群れに突撃して……
まずは、一番手前にしたゴブリンの頭部を蹴り飛ばした。
ゴブリンが悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。
そのまま壁に激突して、首がイヤな角度に曲がる。
続けてスライムを踏み抜いた。
パチンッ、とスライムの体液が弾け飛ぶ。
ねばねばとした感触が気持ち悪いが、文句なんて言っていられない。
「グルァッ!!!」
オークが丸太のような腕を振り下ろしてきた。
直撃すれば、大ダメージは免れない。
ならば、直撃しなければいいだけのことだ。
身体能力を強化している今、オークの攻撃ははっきりと見えていた。
蚊が止まるほどに遅い。
体を横に、オークの一撃を避けた。
オークは驚き、慌てて腕を引こうとするが、それを許さない。
足を絡ませるようにして、オークの腕に乗る。
そのまま、全体重をかけて骨を折る。
「ギャウウウッ!?」
オークが悲鳴をあげてよろめいた。
アラムから離れたことを確認したところで、俺もオークから離れる。
そして、トドメの一撃。
「火炎槍<ファイアランス>!」
必殺の炎がオークを骨まで炭に変えた。
「さて……まだやるヤツはいるか?」
残りの魔物を睨みつけると、俺が敵わない相手だと思い知ったらしく、残党達は慌てて逃げ出した。
「ふう」
近接戦闘も初めてだったのだけど……
意外とうまくいくものだな。
日々のトレーニングのおかげだ。
それと前世で得た経験も活きている。
前世では、魔法戦闘だけではなくて、近接戦闘も経験していた。
後方で魔法を撃っているだけでは、魔王を倒すことなんてできないからな。
それらの経験が今、活かされた形になる。
「大丈夫ですか、姉さん」
床に尻もちをついたままのアラムに手を差し出した。
「あ、あんた……ど、どうしてここに……?」
「あー……」
やっぱり、そういう話になるよな。
ここまできたら、ごまかしはきかないだろう。
仕方ない。
素直に本当のことを話すか。
「俺もじっとしていられなかったんで、こっそりと後をつけてきたんですよ」
「こっそりと? そんなバカなこと……どうやって。ダンジョンの入口には、門番が配置されてるのよ」
「ちょうど席を外している時を見て、中に入ったんですよ。運が良かったです」
「なによそれ、仕事しなさいよ門番」
魔物に襲われたというのに、アラムは元気だった。
この分なら、怪我とかはしてなさそうだな。
確認する手間が省けた。
「家に帰りなさい」
立ち上がると、アラムは俺を睨みつけながらそう言った。
「あんたみたいな男がいても、足手まといになるだけよ」
助けてもらったというのに、この口ぶり。
こいつの頭は、スポンジかなにかでできているのだろうか?
「その足手まといに助けてもらったのは、いったいどこの誰でしょうね?」
「ぐっ」
「……はぁ」
ムカッとなり、つい言い返してしまったものの……
口論している時間すら惜しい。
今は冷静に話をして、アラムを納得させないと。
「俺のことはひとまず置いておいて……今は、エリゼのことだけを考えませんか?」
「なんですって?」
「俺が一緒にいれば、レッドハートを手に入れられる可能性が上がる。だから、俺の同行を許可する。それが一番良いと思いませんか?」
「むぅ」
アラムが迷うような顔を作る。
俺のことは気に食わないのだろうけれど……
エリゼが絡んでくるとなると、無碍にすることもできないだろう。
「……わかったわ。特別に、本当に特別に、仕方なーーーく、同行を許可してあげる」
「……ありがとうございます」
話なんてしないで、はったおした方が早かったかもしれない。
そんなことを思った。
でも、俺はここでキレたりなんてしないぞ。
何しろ、前世と合わせれば精神年齢は100を超えているんだからな。
こんな子供相手にムキになるなんて恥ずかしいだけだ。
「ところで、どうして姉さんはこんなところに? 父さん達は?」
「うっ」
アラムが気まずそうに視線を逸らした。
なんだろう。
どうにもこうにも、嫌な予感がする。
「どういうことなんですか。姉さん、答えてください」
「そ、それは……」
「今はこうして話している時間も惜しいです。こんなところで時間を潰していられないんです。だから、早く!」
「わ、わかったわよ……話せばいいんでしょう、話せば」
アラムは、どこかふてくされたような感じで口を開いた。
「……とんでもない魔物が現れたのよ」
「とんでもない魔物?」
「大量のゾンビを率いたリッチよ」
リッチと聞いて、一瞬、エル師匠の顔が思い浮かんだ。
エル師匠、元気にしてるかなあ……
って、懐かしんでいる場合じゃないだろう、俺。
「リッチか……なるほど」
「リッチも問題だけど、部屋を埋め尽くすほどのゾンビも厄介で……私は救援を求めるために別行動をして、他の冒険者を探していたところよ」
逃げてきたわけじゃなさそうだ。
さすがのアラムも、親を見捨てるほどバカじゃないらしい。
「父さん達と別れて、どれくらいの時間が?」
「そんなに経っていないはずだけど……それがどうしたの?」
「早く助けにいかないと」
「わかっているわよ。だからこうして、他の冒険者を探しているんじゃない」
「そんな、いるかどうかわからない相手を探していたら日が暮れてしまいますよ。それに……冒険者を探す必要はない」
「なんですって?」
「俺がいる」
「な、なに……?」
アラムが困惑するが、いちいち説明したり納得させたりしている時間はない。
話を聞いた限り、相当なピンチのようだ。
急がないと。
「父さん達はどこに?」
「ち、地下四階の広場だけど……」
「階段はどこに? 案内してください」
「ど、どうするつもりよ? まだ私達しかいないのに……」
「俺がいるから十分です」
「なっ」
「さあ、案内してください。早く!」
「え、ええ」
俺の気迫に押された感じで、アラムがコクコクと頷いた。
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