13話 ダンジョンへ
「それじゃあ、行ってくる」
「あなた……気をつけてくださいね」
冒険者時代の装備を取り出して、完全武装した父さんを玄関で見送る。
レッドハートを採取するために、ダンジョンに挑むことになったのだ。
もちろん、父さん一人というわけじゃない。
三人の冒険者を雇い……
さらに、アラムも同行することになった。
本来なら俺も一緒に行きたかったのだけど……
子供にはまだ早い、と却下されてしまった。
それを言うなら、アラムも大して変わらないと思う。
というか、アラムより役に立つ自信があるぞ。
「ふふんっ」
アラムがちらりと俺を見て、笑った。
父さんに同行できることを見せつけているみたいだ。
この姉、なにか勘違いしていないだろうか?
遠足に行くんじゃないんだぞ? エリゼの命がかかっているんだぞ?
こんな時にまで俺を意識しないで、もっと、前を向いてほしいのだが……
「すぐに戻ってくる。それまでエリゼを頼んだ」
そう言って、父さん達は家を発った。
そのまま、街の外にあるダンジョンの入口へ向かう。
その背中を見送り……
見えなくなったところで、母さんは扉を閉めた。
「……さあ、レン。私達はお父さんとアラムが無事に戻ってくるのを祈り、エリゼと一緒に待っていましょう」
「そのことなんですけど……俺、街に行ってきてもいいですか?」
「あら、どうして?」
「レッドハートを探したいんです。もしかしたら、市場に出回っているかもしれないですし……可能性は低いかもしれませんが、でも、じっとしていられなくて」
「……わかりました。レンの好きになさい」
「ありがとうございます、母さん」
「ですが、遅くなる前に家に帰るんですよ?」
「はい、わかっています」
母さんの許可をもらい、外に出た。
レッドハートを探す……なんていうのは嘘だ。
そうそう都合よく、市場に出回っているとは思えない。
可能性はなくはないが、限りなく低いだろう。
そんな奇跡みたいなものにすがるつもりはない。
俺は、この手で事態を解決してみせる。
エリゼを助けてみせる!
そのために、こっそりと父さんの後についていくことにした。
父さん達がレッドハートを見つければよし。
しかし、もしも失敗した時は、代わりに俺がレッドハートを採取する。
それが目的だ。
「……いた」
すぐに家を出たので、ほどなくして父さん達に追いつくことができた。
父さんとアラム。
そして、雇った冒険者達が三人。
計五人が街の外へ向かって歩いていくのが見えた。
つかず離れずの距離を保ち、父さん達を尾行した。
秘密の通路を使い、街の外へ。
それから再び父さん達の後ろについて、こっそりと歩く。
……ほどなくして、父さん達はダンジョンの入口へついた。
一見すると、そこは神殿のようだ。
建物は石造りで、とても大きい。
見るものを威圧するような作りで、用のない人が近づくことはない。
子供が間違って迷い込まないように、あるいは冒険者でない者を立ち入らせないために、入り口には門番は配置されていた。
入り口に二人。
さらにその奥に二人。
計四人。
さらに、近くに詰め所があり、そこに数人の兵士が待機していると思われる。
なかなかの厳重な警備だ。
あらかじめ話は通してあったらしく、父さん達は二言三言、門番達と話すと、ダンジョンの中へ入っていった。
「さて、俺も中に入ることにするか」
以前の俺ならば、どうやって門番の目をごまかすか悩んでいたかもしれないが……
今は違う。
エル師匠のおかげで、問題なく中へ入ることができる。
「影移動<シャドウシーカー>」
エル師匠から教わった、闇属性の魔法を唱えた。
これは、影から影へ渡る移動魔法だ。
移動距離は目視できる範囲に限られると、制限があるのだけど……
でも、気配を完全に殺すことができるという、隠密性に優れている。
今回のために用意されたような、便利な魔法なのだ。
「……よし、成功だ」
誰にも見つかることなく、俺は建物の内部に入ることに成功した。
そのまま、ダンジョンに足を踏み入れる。
階段をゆっくりと降りて……
地下一階へ。
「ここがダンジョンか……」
石畳に石の壁、石の天井。
等間隔に光を放つ魔法具が設置されていて、通路をぼんやりと照らしている。
通路の広さはそこそこで、人が五人は並んで歩けるほどだ。
天井も高い。
ところどころ、見たことのない模様が壁や床に刻まれていた。
明らかな人工物だ。
しかし、誰がなんのために作ったのか、未だ解明されていないという。
多数の魔物が徘徊していて……
その代わりといってはなんだけど、財宝もあちらこちらに眠っている。
「こんな時でなければ、じっくりと探索したいところなんだけど……」
今は、レッドハートを手に入れることだけを考えないといけない。
「気配探知<サーチ>」
魔法で周囲の状況を探る。
動体反応が三十ちょい……
その中で、五つ、まとまって動いているものがある。
コレだな。
父さん達の反応を見つけた俺は、すぐに行動を開始した。
他の冒険者と遭遇すると面倒なことになるので、慎重に行動しつつ、父さん達の後を追う。
地下一階から地下二階へ。
そして、さらに地下三階へ。
「今のところ順調に進んでいるな」
他の冒険者と出くわすこともなく、魔物と遭遇することもない。
父さん達は、時々、足を止めているみたいだから、魔物と遭遇しているのかもしれない。
俺が魔物に遭遇しないのは、父さん達が先に倒しているからなのかもしれないな。
おかげで楽をさせてもらっている。
「って……一体も出会わない、ってのは無理があったか」
すぐ近くで魔物の気配がした。
振り返ると、錆びた短剣などで武装したゴブリンが三匹。
格好の獲物を見つけたとばかりに、笑い声をあげながらこちらに近づいてきた。
「悪いが……狩られるのはお前達の方だ」
一匹のゴブリンが飛びかかってくるが……
遅い。
「火炎槍<ファイアランス>!」
炎の槍がゴブリンの腹を貫いた。
ゴォッ! と炎が燃え上がり、そのままゴブリンを消し炭に返す。
あっけなく仲間がやられてしまい、残りのゴブリン達が動揺するような声をあげた。
それは致命的な隙だ。
「風嵐槍<エアロランス>!」
空気を巻き込むように、風の槍が撃ち出された。
二匹のゴブリンを巻き込み、その体をズタズタにする。
「ふう」
戦闘が終わり、俺は小さな吐息をこぼした。
考えてみれば、転生してから初めての実戦だ。
ゴブリンなんかに遅れをとるつもりはないが……
それでも、久しぶりの実戦なので、多少、緊張していたのかもしれない。
体から力を抜いた。
「……よし」
軽い呼吸を繰り返して、心を落ち着けた。
すぐに父さん達の後を……
「ひいいいっ!?」
聞き覚えのある悲鳴がした。
すぐ近くだ。
この声……
どう考えてもアラムだよな?
しかし、父さん達の反応は別のところにある。
別行動をしているのだろうか?
今は、寄り道をしている時間なんてないのだけど……
「だからといって、放っておけないか!」
俺は声がした方向に駆け出した。
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