12話 病
もうすぐ10歳だ。
晴れて、エレニウム魔法学院に入学できる。
いったい、どのようなことを学べるのだろうか?
どんな出来事が待ち受けているのだろう?
どれだけ、強くなることができるのだろう?
俺はわくわくしていた。
早く10歳になりたい。
早く学校に入学したい。
そんなことばかりを考えていた。
この時の俺は、自分のことしか考えていなくて……
周りのことをまったく見ていなかった。
もう少し、周りを見ていれば。
自分のことだけじゃなくて、他の人のことを考えていれば。
……あるいは、あんなことにはならなかったのかもしれない。
――――――――――
トレーニングの一貫として、家の周りを100周ほどして……
それから家の中に戻る。
「いよいよ明日か」
誕生日の前日になり、俺は浮かれていた。
父さんと母さんが開いてくれる誕生日パーティーが楽しみというわけじゃない。
エレニウム魔法学院に入学できることを楽しみにしているのだ。
聞くところによると、入学試験があるらしいが……
どんな障害があったとしても、乗り越えてみせる!
そんな強い意思を抱いて、明日という日を楽しみにしていた。
「ただ……そうなると、この家とはさよならになるんだよな」
学校は全寮制だ。
一度入学したら、卒業するか退学するまで出てくることはできない。
もちろん、外に出ることができないわけではなくて、休日に帰省することくらいはできるが……
基本的に、一度入学したら家に帰ってくることはできないと考えた方がいい。
家を継ぐつもりはないので、その問題を心配する必要はない。
父さん母さんに会えないことは寂しいと思うが、いい加減、俺も子供じゃない。
前世と合わせたら100歳だ。
親元から離れることに、大した抵抗はない。
アラム?
あんなヤツのことはどうでもいい。
唯一、気がかりなのは……エリゼだ。
エリゼのヤツ、俺になついているからなあ……
俺がいなくなると知れば、どんな反応を示すか。
「エリゼもそろそろ兄離れを……でも、まだ8歳だしな……いや、でも……」
一人であれこれ悩んでいると、当の本人が姿を見せた。
エリゼの部屋の扉が開いて、妹が顔を見せる。
「……お兄ちゃん……」
「おはよう、エリゼ」
「はい……おはよう、ございます……」
そう応えるエリゼは元気がない。
よく見てみると、顔色も良くない。
「どうしたんだ、エリゼ? なんだか元気がないみたいだけど……風邪か?」
「わからないです……なんだか、体が重くて……頭もぼーっとして……」
「大丈夫か……?」
「大丈夫……です……」
エリゼは強がるように笑って見せて……
しかし、それは長続きせず、苦しそうに顔を歪ませる。
そして……
ドサリ、と倒れてしまう。
「エリゼっ!!!」
悲鳴をあげるのなんて、いつ以来だろう……?
――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ベッドの上で、エリゼが苦しそうに息をこぼしていた。
その顔は赤く、高熱があることがうかがえる。
あの後……
すぐにエリゼをベッドに戻して、父さんと母さんを呼んだ。
父さんと母さんは、すぐに医者を手配してくれた。
「むぅ……」
エリゼを診た医者は、難しい顔をする。
「すみません、うちの娘は……?」
「……ここではなんですから、別の部屋でお話しましょう」
医者の言葉で、俺達家族は別室に移動した。
一応、アラムもいる。
「エリゼは大丈夫ですよね? ただの風邪とか疲労とか、そういうものですよね?」
別室に移動すると、真っ先に母さんがそう尋ねた。
それに対して医者は、難しい表情を返す。
「残念ですが……そういう軽いものではありません。高熱に手足の痺れ、呼吸障害……あの症状は、オロゾ病に間違いないでしょう」
「そ、そんな……」
「エレンっ」
ショックを受けた母さんがよろめいて、父さんが慌てて支えた。
そのまま、父さんは母さんを椅子に座らせた。
「父さん、オロゾ病って……?」
魔法に関する勉強ばかりしていたせいで、一般知識が疎くなっていた。
これは反省点だな。
「……厄介な病気だ。女性のみにかかる病気のため、魔法と何かしらの因果関係があるのではないかと言われているが、まだ解明されていない」
「症状は?」
「高熱と体の痺れが続いて……最悪、死に至る」
「そんな……」
エリゼが死ぬ?
思いもしなかったことを言われて、一瞬、頭が真っ白になってしまう。
「お父様っ、治療方法は!?」
アラムが俺の聞きたいことを代わりに聞いてくれた。
最近はおとなしかったアラムだけど、さすがにエリゼのピンチとあって、元気を取り戻したみたいだ。
「それは……」
「オロゾ病の治療には、レッドハートという薬草が必要です」
父さんの代わりに、医者がそう説明してくれた。
しかし、その表情は曇っている。
「薬草が必要なら、すぐに用意しましょう、お父様! 金が必要ならいくらでも用意して……」
「……ダメなんだ」
「ダメ、って……え? え?」
「オロゾ病にかかる人は滅多にいない。それ故に研究が進まず、薬草以外の治療方法も確立されていない。未知の部分が多い病なんだ……だから……今のところ、唯一の治療法であるレッドハートが市場に出回ることはない」
「そんな……」
と、いうことは……
エリゼは、このまま死んでしまう?
その時のことを想像して……
どうしようもない絶望感と無力感に襲われた。
俺は、魔神に打ち勝つために転生した。
前世の力を引き継いでいて……
この歳で父さんに認められるほどの力を持つに至った。
しかし、そんな力を持っていても、何もできないじゃないか。
エリゼを助けることができないなんて……
「っ」
無力感に心を蝕まれて……
強く、強く拳を握りしめた。
「だが、まだ希望はある」
なにかしら考えがあるらしく、父さんはそう言った。
「レッドハートは、街の外にあるダンジョンで採取できると聞く。地下5階くらいにあるそうだ。すぐに採取に行けば間に合うかもしれない」
街の外にあるダンジョンの地下5階……
俺は、その言葉を胸に刻み込んだ。
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