[6日目]捕捉の眼
俺達を呼び止めたのは、この世界で初めてお目にかかる男性であった。
金髪碧眼でイケメン。どこぞのリア充だ、とツッコミたい所であるが、それよりも気になる点があった。
「男の騎士……。この世界は、女性しか戦える力を持っていないんじゃなかったか?」
「[神技]が使えないからと言って、闘ってはいけない決まりはない」
どうやらイケメン君の気に障ったらしい。
素朴な疑問を星野さんに尋ねただけなのに、星野さんが言うよりも早く怒鳴る様にイケメン君が答えてくれる。
「なるほど。確かにあなたの仰る通りだ。こちらの失言であった」
少々口が悪いが、男性騎士殿の言葉は正論だ。
ここは素直に頭を下げて、潔く謝罪をするのが得策だ。
「黒金騎士団、ルドガー・ブリュナーク騎士団長殿。何か、私達にご用ですか?」
……え? 騎士団長殿?
見た目、俺達と同年代と言えなくもない男性騎士殿が騎士団長と、星野さんは言ったのかい。
「……はっ姫様。姫様方ではなく、その者に用があります」
騎士団長殿の双眸が真直ぐこちらに向けられる。
どうやら、騎士団長殿はこの俺に用があるらしい。
「俺に何か?」
「先ずは自己紹介をさせていただこう。私は黒金騎士団をまとめているルドガー・ブリュナークだ」
……殺気が孕んだ瞳で睨んでいるにも関わらず、律儀にも自己紹介から始めるのかよ。
喧嘩腰で話しかけたんだから、最後までその姿勢を貫いてほしいんだけどな。
「宗方晶です。それで、ブリュナーク騎士団長は、この俺に如何様な用事がおありで?」
「決まっている。私は宗方晶殿。汝との決闘を所望する」
ブリュナーク騎士団長の提言に星野さんが「なっ」と声を上げる。
「どういう事ですか、ブリュナーク騎士団長殿」
「誠に身勝手ながら、私は宗方晶殿。あなたの実力が信用なりません」
きっぱりと言ってくれる。
だが、騎士団長殿の言葉も一理ある。
異世界に来た勇者以外の者。しかも、この世界では力を持つ事がない男と来たもんだ。
騎士団長殿も今の地位を得る事ができたのは並大抵の努力では語りきれない事であろう。
そこでポッとでのどこぞの馬の骨に全幅の信頼を得る事なぞ出来る筈がない。
「……なるほど。そこで俺の実力を確かめたいと、そう仰りたいのですね」
「理解が早くて助かる。ちなみにこれは私個人の願いだ。決闘の申込みを拒否する事も出来るが――」
「白々しい。拒否したら、俺はあなた方の信用を得るチャンスを捨てるものじゃありませんか。もちろん、受けましょう」
俺の返答に口端を曲げる騎士団長殿。
その数秒後、彼から心地よい殺気が俺の全身に突き刺さってくる。
おもしろい。久々の戦闘、思う存分に暴れさせてもらおうか。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
俺が腰を落として戦闘態勢に入った直後、騎士団長と俺の間に星野さんが割って入った。
「姫様。御止にならないでいただきたい」
「そうだ、星野さん。こいつは俺達男にとって、意味ある決闘なんだぞ」
いくら姫君であらせられる星野さんであってもこの戦いを止める事など出来ない。
俺と騎士団長殿はそれを望んでいない、と言うのもあるが、これは騎士団長殿が俺の事を思ってやって頂いた行動なのだから。
「だからって、どうしてあなた方が闘う必要があるのですか。こんなの間違っているじゃないですか」
「それは違うな、星野さん。騎士団長殿は身を持って俺の実力を確かめていただく。彼は不満を抱く皆の代表として俺に決闘を申し込んでくれたんだ。そうだろ、騎士団長殿」
来て間もないから十分に理解出来てはいないが、この世界では[神技]とは戦いで必須事項のはず。
けど、その御業は女性にしか扱う事が出来ない為、男性は必然的に戦力外になってしまう。
そんな国の常識が染み込んでいる世界で、異界の男に行く末を任せる訳にはいかないと思うのは必然だ。
「ご慧眼痛み入るって所か。中々頭が回る男のようだ」
「言ってろ。戦うというなら容赦は出来ない。覚悟は出来ているんだろうな」
「それは私の台詞だ。腕の一本は覚悟を決めてもらぞ」
腰に付けられている剣、恐らくロングソードだと思われるが、それの切先を俺に向ける。
いいねいいね。あんたにどんだけの実力を有しているか知らないが、こういうのは大歓迎だ。
「だからって、何もこんな場所で。お母様も何か言ってください!」
自分では止められないと察すると、この国の最高責任者に呼びかける。
けど、女王陛下は楽しげに玉座にくつろぎ、星野さんの言葉に「別にいいんじゃない」と俺達にとって大歓迎なお言葉を頂戴する。
「そんな! アキラさんは私がお招きしたお客様なのですよ。こんな仕打ちをなさるのは彼にとって失礼です」
「そうかい? 私は騎士団長殿がいい仕事をしてくれた、と思っているけど」
「だからって、何も今じゃなくても」
「今だからこそよ。こんな風に大勢の人が宗方殿を見る事は早々ないだろう。……ブリュナーク騎士団長」
女王陛下の言葉に直ぐに「はっ」と答える騎士団長殿。
「遠慮する事はありません。思う存分宗方殿の実力を確かめよ。宗方殿も相違ありませんね」
「はっ。過分なお言葉痛み入ります」
「ないさ。こういうのは大歓迎だ」
女王陛下のお許しも得た事だし、もはや俺達を止められるものはいないに等しい。
「木崎さん。悪いけど、星野さんをどけてくれ。正直、邪魔だ」
「……え、あ、うん。って、なに私に命令しているのよ。根暗方のくせに生意気よ」
急展開に今まで茫然自失と言った感じで行く末を見守っていた勇者のお二人であったが、俺の言葉でようやく我に返る事が出来たらしい。
「って言うか、あんた本当に大丈夫なの? 相手は戦いのプロなのよ」
戦いのプロ、ねぇ。
「なに? 心配してくれるのかい、木崎さん。案外優しいんだね」
「そ、そんなんじゃないわよ。ただ、あんたとあの騎士さんでは、実力差がありすぎると思っただけよ」
図星を突かれたのか、気恥ずかしかったか知らないがそっぽ向く木崎さんを可愛いと思ってしまった。
いや、可愛くないと聞かれたら木崎さんは可愛い人なんだけど、この人は天然でツンデレキャラを突き進んでいるからな。
「……戦力差がありすぎる、か」
さて、思い出そうか。俺が幾戦の戦いを駆け抜けた感覚を。
まぶたを落とし、精神を集中させる。瞳に集う力に懐かしさすら覚える。
――開放。捕捉眼【ロック・ガン】
『なっ!?』
この場にいる全ての者達が驚愕の声を上げる。その者達の顔が円で囲われる。
近くの者、遠くの者に問わず俺の視界に映る全て者達の顔が次々と脳裏に叩き込んでいく。
「あ、あ、アキラさん。あなた、その眼は」
星野さんが俺の瞳を指しながら問うてくる。
「捕捉の眼。俺はロックガンって呼んでいるけどな。どんな情報も見逃す事無く脳裏に叩き込む事が出来る魔眼かな」
探知機や万里眼などが併せ持った便利な機構があるんだけど、この世界にそんな説明をしても無意味なんだろうな。
「……って、魔眼ってこの世界で説明しても通用するのかな?」
自分で言って何だけど、この世界ではどうにも魔法の概念がないみたいだからな。
魔法が存在しなければ魔眼も存在する訳ないだろうし。
「貴様、本当に人間か!」
ブリュナーク騎士団長殿が肩を怒らせておられる。
「どう言う意味だ」
「魔眼は魔族とエルフのみが使う事が出来る奥の手。人間がそれを持つ事はありえないんです」
俺の問いに星野さんが答えてくれる。
「そうだ、魔眼は魔族とエルフの象徴の様なもの。答えろ貴様。なぜ、そんな眼を持っている。返答によってはここで斬り捨てる」
「なぜと聞かれたら、俺はこの目を手に入れただけなんだがな。お前達が言う別の世界で」
「別の世界で、だと」
「その通り。そんじゃあ、改めて名乗らせていただこうか。……俺は、宗方晶。ツァイシングの勇者の助っ人を務めたただ人さ」




