つまり、詰まる
サブスクが勝手に選んだ明け方のプジョーの中で聴くジャズなのかフュージョンなのか曖昧な洒落音が仕事場に向かう慌しい僕を何とか落ち着かせようとする。
さっさと片付けたい。。
金銭が発生するよりだいぶ前にまだ暗がりの敷地に侵入した。
200台は停められる駐車スペースは2つの区画で構成されているが、いつもは何も考えず区画Aに停めるがBへプジョーの舵を取った。
電子的な装飾は2020年代後半では、少しトレンドから遅れている。思考はそれ以上に遅れをとっている自覚があるので、これはこれで僕には近未来と認識している。4時を廻りかけた頃だ。
ロッカーで、これでもかと言うくらいルールの厳しい作業着を身につける。作業をしないことはわかっているのに指定なのだから仕方ない。親父に似ている写真入りのIDカードを首からぶら下げ、指定箇所に格納する。物事に意味を付け加えることが好きな会社なのだ。
洒落音のせいで、思考はいつものroutineという鎧を外し、cafeteriaに常備されているほうじ茶を飲みたくなった。この会社に来て初めての思考だった。
廊下を歩くとオートライトが次々にその先を照らす。
僕しか出勤していないから、僕の数メートル前を同じ規則で照らしていく。
cafeteriaの扉を開けて、その居室は手元のスイッチで照明をつける。パッと明かりが広がる。神経を逆撫でするような白色系の光だ。
給茶機はその先を左に曲がったすぐそばにある。わざと鼻歌を鳴らし曲がった瞬間、“わぁっ“と鼻歌は地声に変わった。
「何だよ。びっくりするじゃん」
23歳の部下だった。初めて見る私服の姿だった。
「何で電気付けるんですかぁ!」
えっ?なんで?。。暗い部屋で灯りを付けたことがいけなかったのか。
湯呑みを受け口に置き、ほうじ茶と書かれたボタンを押す。
彼女は外に面したガラス窓を眺めている。彼女もほうじ茶だろう。
「暗いと思われるかも知れませんが、街灯の光が刺すんです。私はいつもその光を見ているんです。この蛍光灯は頭が痛くなる。」
「低血圧なんですか?」
適当なことを聞く。彼女は頷く。
「低血圧そうだもんね」
また、適当な事を言う。色白の華奢な人には褒め言葉のようなものだ。
「お邪魔したね。ごゆっくり」
興味のないフリをして、顔も見ずに僕はその場を立ち去った。
1人でエレベーターに載った。
街灯が暗闇を刺した。。。。
少し考えたが思考を止めた。
結局のところ、僕は詰まったのだ。




