恐怖の対象?
コーナスはルビアの元へ走っていた。
走りだしてすぐ、首のないゴブリンが倒れていた。
しばらく走ると、ゴブリンの下半身らしき物体が散乱している。
足元は大量の血が溜まっている。
更に進むと、オークが倒れていた。
1体はアゴが破壊され腹に大きな穴が開いている。
もう1体は顔の上半分が消滅していた。
その横には頭にボウガンの矢が刺さったオークも倒れている。
そこはまさに血の海だった。
血の海の中心には、その場には似つかない少女が立っていた。
少女の美しかった金髪は赤黒く染まり、両手からは血の滴が落ちている。
「ルビア… これ…」
コーナスは言葉が出なかった…
「あ…」
みんなを助けなければ!と必死になり、本気で戦った結果、あまりにも凄惨な状態となってしまった。
ルビアは、自分の『力』を恐れられる事が急に怖くなり黙ってしまった。
コーナスは立ち止まりルビアを見ると、ルビアの両脇を持ち『高い、高い』をしてクルクル回りだした。
「すげぇな!!ルビア!お前、本当に秘密兵器だったんだな!」
「え! え!?」
ルビアは状況が分からずクルクルされている。
コーナスはクルクルに満足すると、ルビアを下ろし頭を撫でる。
「すげぇよ!マジで!!」
興奮し過ぎて語彙力が無くなってしまった。
「オレでも、ここまで出来ないぞ!すげぇな!しかも、アレだ!あのデカいマジックミサイル!しかも7本!! マジでビビったよ!」
コーナスは子供のようにはしゃいでいた。
「あ、あの。あたし…」
ルビアはどうしていいのかわからずに、オロオロしていたその時、
「ルビアさま!まだ!!」
シオンの声が響いた。
「え?」
ルビアがシオンの声が聞こえた方向を見ると、巨大な血の塊が立っていた。
「あ… しまっ……!」
ルビアがつぶやいたのと同時に、血の塊はルビアを飲み込んでしまった。
「ルビアさまぁぁ!!!!!」
シオンが叫ぶ。
◇◇◇◇
ルビアは血の塊に飲まれていた。
まるで水中に放り込まれたように、上下が分からなくなる。
息をしようと口を開けると、口の中に液体が入ってくる。
「ごぼごぼごぼごほ…」
(い…息ができない…)
意識が朦朧としてくる。
すると、ユニークスキル『略奪者』が発動した。
(略奪者が!? と、言うことは、あたし今食べられてるの?)
とにかく生きる為には、相手を略奪するしかない!
ルビアの中から何かが『ずあっ』と出てくると、敵を略奪しようと攻撃を開始した。
◇◇◇◇
「ルビアさまぁぁ!!」
シオンの悲痛な叫びで目の前の状況に気がついたコーナス。
目の前ではルビアが血の塊に飲まれ、中で溺れていた。
「くそっ!! 竜化!!」
コーナスの体を竜の鱗が纏い、鋭い爪が伸びる。
後ろからシオンが飛び出してきた。
「ルビアさま!!」
シオンがそのまま血の塊に飛び込もうとするところを、コーナスはシオンの腕を掴み制止する。
「離せ!!!」
普段のシオンからは想像も出来ない、恐ろしい目でコーナスを威圧する。
「まて!シオン!! こいつはスライムだ!オレに任せろ!」
コーナスは遅れて走ってきたミモザにシオンを投げつける。
「ミモザ!スライムだ!ルビアが飲まれた!」
「きゃっ!」
ミモザはなんとかシオンを抱きとめたが、転びそうになるが、すぐ後ろにいたアキレアがミモザを支え、転倒を防いだ。
「コーナス!あとは任せて!」
ミモザが叫ぶと、コーナスはルビアを飲み込んだスライムにファイヤーブレスを吐いた。
ごあああ!!!
轟音と共にファイヤーブレスはスライムを包み込み焼き尽くした。
スライムを焼き尽くした跡には焼け焦げたルビアが倒れていた。
ルビアが着ていた布の服は焼けて無くなっていた。布の服の下にチェインメイルを着ていたようだが、黒く焦げておりよく分からない。
ルビアは髪が縮れ、顔は煤だらけになっている。
「ミモザ!急げ!」
コーナスが叫ぶ。
ミモザはシオンを降し、ルビアの元に駆け寄る。
「ルビアちゃん! ヒール!」
ミモザがルビアに手を当て回復魔法をかけようとするが、回復している雰囲気が感じられない。
「うそ… いや… ヒール!!」
ミモザはルビアを抱き上げ、抱きしめて回復魔法をかける。
しかし、やはり回復している感じがしない。
「ルビアちゃん!お願いだから!帰ってきて!!」
ミモザが泣き叫ぶように懇願する。
コーナスは竜化を解き、アキレアと共にルビアを見守る。
「…ミ…ミモザさん… 苦しい…」
ルビアはミモザの背中をポンポンと叩いた。
「ルビアちゃん!! うああああああぁぁ」
ミモザは大粒の涙を流し、更にきつくルビアを抱きしめる。
「ちょ…ミ…ミモザさん…?」
「ルビアさまぁぁぁ!!!」
シオンもルビアに飛びついてきた。
うああああああぁぁあ
ミモザとシオンの泣き声がしばらく響いていた。
空は、もうすぐ朝になるところだった。




