5-18話 スプリカス
「アップ! おいアップ!!」
回復系の魔力マナを使ってアップの治療をやってみたものの、使ったことが無かったのでこれでいいのかがわからない。
「くっそ、リンドーの言う事を聞いて苦手でも少しは練習しておくんだった・・・」
アップの魔力自体はわずかだけど感じる。
まだ生きてるはずだ。
前はこういう状況に合わせてなんか勝手にスキルが使える様になったけど、今の俺にはそれはできないらしい。
エーテル使って肉体強化したり、ルーン使って分析しようとしたりはできたから使ったことがあるスキルじゃないと駄目なのか。
こんなに魔力が有り余ってるってのに・・・。
「スタン。助けに来てくれたんだね・・・。」
「アップ! 気が付いたか。」
「やっぱりスタンは凄いね。ボクが思ってた通りだ。」
辛いはずのアップがいつもみたいに笑う。
「お前のおかげだ。お前が俺に預けてくれた宝物が俺に勇気をくれた。」
「そっか・・・。そうだったんだ。みんなそこに居てくれたんだ。ボク達ずっと一緒だったんだね。ありがとうスタン。ボクとみんなの冒険に続きをくれて。」
「ああ、俺も会ったよ。託してもらった。だから安心して見ててくれ。」
アップを抱えてニーナの方に向かう。
「ニーナ。」
声をかけるが意識はもどらない。
だが、なんだか苦しそうだ。
「やっぱり、魔力を一気に放出しすぎて魔力が空っぽになってるのか。」
「普通なら、時間が経てば治ると思うけど、このダンジョンの魔力がニーナの体に入り込んで苦しめてるのかも・・・」
アップが言う通り、空っぽになった魔力を求めて体がダンジョンに漂っている魔力を吸収しようとしているのかもしれない。
なんとかして、ニーナに無害な魔力を与えないと・・・
「アップ。俺の魔力をニーナに与えてやれるか? 今ならいくらでも魔力はあるんだ。」
「そっか、それならきっと大丈夫だよ。ボクに任せて。」
アップが俺の手を取り、反対側の手でニーナの手を取る。
「スタンがボクに魔力を送って、ボクがニーナの体に合った魔力に変換してニーナの体に送るよ。」
「わかった。」
「いくよスタン。一気に魔力を流すとニーナの体が耐えきれないから少しずつね。」
「ああ。」
少しずつアップに向けて魔力を送る。
そのとき、拘束を解いたあの魔物がこちらに向けて攻撃してきた。
「うわぁ!」
驚いたアップが叫ぶ。
あいつめ、もう少しおとなしくしてればいいのに。
「邪魔するな!」
母さんがよく使っていた、名前忘れちゃったけど炎の渦で相手を閉じ込めて焼き尽くすおっかないスキルであの魔物を閉じ込めた。
あれ? このスキルは使った事なかったはずだけど使えたな・・・?
実際に見たことがあるスキルなら使えたりするのか。
「うわースタン凄い。あいつを閉じ込めちゃった。」
「まーな。でもこれで倒せるとも思えない。今のうちにニーナに魔力を送ろう。」
「うん。」
再びアップが作業に取り掛かり、俺の魔力を少しずつニーナに送ってくれた。
少しすると、ニーナの苦しそうな表情や息遣いが落ち着いて、だいぶ具合が良くなったように見える。
「アップ。もう大丈夫か?」
「そうだね・・・、たぶん、だいじょうぶ、だと、おもうよ・・・」
アップも相当披露している。
速くあいつをやっつけて休ませてやらなくちゃ。
それにしてもアイツ、ルナティカスの魔力を持つ魔物じゃ呼びずらいな。
「あいつ。ルナティカスの魔力を分けて生まれた魔物っぽいけど、アップはどう思う?」
「えっと、ボクはルナティカスに直接会ってないから、わからないけど、強い魔物が自分の眷属を自分の魔力から作り出すことはあるよ。」
「そっか、やっぱりそういう可能性はあるんだな。それならあいつはスプリカスだ。ルナティカスの魔力を分けられてる(スプリットしてる)からスプリカスどうだ?わかりやすいだろ。」
我ながらなかなかいいネーミングなと思った。
「す、スタン。それマズいよ。」
「え、あんまりカッコよくなかったか?」
「そうじゃなくて・・・、えっと魔力にとって名前ってスゴク重要な物なんだ。名前を付けられることでその在り方が定められてより強く力を発揮できるようになるんだよ。」
「え、それってどういうこと?」
「えっと、だから~、スタン達がスキル使う時にスキルの名前を言うよね? アレがそうだよ。名前を呼ぶことでスキルの威力を高めてるんだ。」
「ええええ! マジかよ! 知らなかった!!」
「スキル使う前にも詠唱するでしょ!? あれだって、どういうスキルを使うのかそれを使うためにどれだけの物を自分が使えるのかを宣言して効率よくスキルが使える様にしてるんだよ!?」
「な、なんだってぇ!!!!!?」
か、か、か、カッコいいから皆やってるんだと思ってた・・・。
ん? ということは・・・?
炎の渦の中に居た魔物が、ものすごい咆哮をあげ炎の渦をかき消す。
スプリカスはさっきまでとは比べ物にならないくらいの魔力を纏っていた。
「我はスプリカス。呪いの根源より生まれし者。この世界に滅ばされし数多の世界が残した呪詛を継ぐもの。滅びよ世界。」
なんか物言いまで大人になってるじゃないか。
成長したって事なのか。
「スタン。」
「なるほどなぁ。次から気を付けるわ。」
「まって、僕も戦う。」
よろよろとアップが起き上がろうとするアップ。
俺はアップの宝物が入ってたリュックを見つけ、それをアップに渡した。
「大丈夫だって。みんなと一緒にそこで見ててくれよ。」
「でも、スタン。」
「まーまー。だってさ、スプリカスをよく見て見ろよ。リンドーより強いと思うか?」
「え、ああ。そっか、確かに本気のリンドーはもっと強いね。」
「だろ? だからさ、あいつくらい倒せないとな。」
そう言って、俺はスプリカスに向かって行く。
コイツくらい倒せなきゃ、ルナティカスには到底勝てっこない。
「人間。さっさと我にとどめを刺さなかった事を後悔させてやるぞ。たっぷりと時間をかけてなぁ。」
「やれるもんならやってみろ。」




