帰省
1、2学期が過ぎ、冬休みに帰省することにした。
こちらに来た時と同じ急行列車が折り返して大阪行きになる。午後に出発して、暗くなる時間帯に到着する。
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翌日、母が運転する車で美咲を迎えに行く。年末年始の間に一時退院する為です。
母に次いで病室に入り、美咲と目が合う。固まる美咲。正確にいうと、私を見つめているだけで他の動作が疎かになっている。決して睨まれているわけではない。同室の子たちからも注目されている。
「美咲、お兄ちゃんだよ。久し振り」
2歳時の記憶などある筈がない。
荷物をまとめて看護婦(現在でいう看護師)さんに挨拶して病院を出た。
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後部座席に美咲と並んで座る。
「あ、ラジカセだ。いいなぁ。ねぇ、これかけてあげて」
「この車、AMラジオだけなの」
そういや前の車と違ってすっきりしている。シフトレバーが無いし、ペダルが2つしかない。
「じゃあ、絵本でも読もうかなぁ?」
あ、この本知ってる。
「ぐりとぐら。のねずみの ぐりと ぐらは、おおきな かごをもって、もりの おくへ でかけました。」
最後まで読み、本を閉じる。
「お兄ちゃん、もう一回読んで」
また最初から通して読む。繰り返して3回目の途中で寝てしまったようだ。
家に着いて、起こさないように抱えて中へ入った。
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※中川李枝子、大村百合子作「ぐりとぐら」(福音館書店)第3頁より引用
「ぐりとぐら」は2023年6月1日発行 第246刷 60周年記念カバー付きを買いました。
記念グッズには当選しませんでした。
車はハンドルの左側に「PRNDL」と書かれたシフトレバーがある2速AT車でした。「それタクシーみたいやな」と言われたこともあります。パワーステアリングもパワーブレーキもありませんでした。