37話 ターゼンでの休暇(1)
36話で一度完結させましたが、続きのおまけの話が書けたので、たたたっと投稿します。
よろしくお願いします。
マルとクラウディオがターゼン邸に着くと、ロレンツォ・ターゼン侯爵とソフィ夫人が出迎えてくれた。
「マルグリット、結婚おめでとう。2人で帰ってきてくれて、本当に嬉しいよ。」
ロレンツォはまずマルをぎゅっと抱き締めて祝った後、クラウディオに歩み寄った。
「クラウディオ、と呼んでもいいかな?」
「もちろんです。侯爵。戸籍上ですが、僕はもう貴方の息子です。」
ロレンツォが手を差し出し、2人は固く握手した。
「マル、結婚生活は上手くいってますか?」
母のソフィがマルにそっと聞いてくる。
「はい。母上。問題ないです。」
「良かった。」
その時、廊下からカツカツと音がして、兄のイアンがステッキを使って歩きながらホールへ現れた。
「イアン!」
「お帰り、マル。結婚おめでとう。」
マルは嬉しかった。
イアンは右足の膝から下が木化していて不自由だ。
精霊の血が濃いほど出やすいターゼンの風土病の症状で、こうしてステッキを使うと歩けるのだが、歩く姿が見苦しいからと屋敷に外部の客が来た時は、イアンは部屋から出てこない。
挨拶が必要な客の場合は、あらかじめ応接室で座って待っているのが常だ。
イアンが歩いている姿を見せるという事は、クラウディオに気持ちを許しているのだ、とマルは思った。
私との婚約前に2人は会ったはずだけど、その時に上手くいったのかな。
なんにせよ、嬉しい。
「クラウディオも、結婚おめでとうございます。」
「ありがとう、イアン。これで正式に君は僕の兄だね。」
「兄はやめてください、と前に言いました。貴方の方が年上なんです。」
「僕も、敬語はやめてって言ったよ?」
「、、、努力します。」
「んー?」
「努力、、するよ。」
家族との挨拶を終えると、マルはクラウディオにレイモンドを紹介した。
「私の剣の師匠、レイモンド卿です。」
「初めまして、クラウディオです。」
クラウディオはにこやかにレイモンドを見た。
レイモンドは茶色いくせ毛にアイスブルーの目をした、優しそうな男で、騎士というよりは何か細かいものを作る職人のような雰囲気だ。
そしてクラウディオはどこかで会ったことがあるような気がした。
「ターゼン家の護衛騎士をしているレイモンドです。護衛騎士とは言っても、やってる事は大工仕事がほとんどですが。」
「レイモンドは、ケイト様と辺境騎士団で同僚だったんです。」
「そうなんですね。数日後にはケイトもこちらに来てくれる予定ですよ。」
「ええ、久しぶりに会うのが楽しみです。」
レイモンドは柔らかい笑顔でそう言った。
***
「僕、レイモンド卿を知ってる気がするんだけどなあ、、。」
案内された夫婦の部屋で、マルと荷ほどきをしながらクラウディオはそう言った。
「辺境騎士団にいたから、それでじゃなくて?」
「僕はブラット兄さんの居た南の辺境騎士団に所属してたんだよ。ケイトは北だったから、騎士団では会ってないよ。それに、騎士服のイメージじゃないんだよなあ、、、、。」
クラウディオはしばらく考えたが、思い付かなくてあきらめた。
「ラウ、疲れてなければ、お墓参りに付き合ってくれませんか?」
荷物の整理が一段落した頃、マルがクラウディオにそう聞いた。
「お墓参り?いいよ。どなたの?」
「9年前の、小鬼の襲来で亡くなった人達を弔ってる一画があるの。そこに行きたいなあ、って。」
クラウディオはそっとマルの肩を抱いた。
「一緒に行こう。僕がお礼を言わなくてはいけない人もいるからね。」
その日の午後、マルとクラウディオは町の教会の墓地へ出掛けた。
マルとクラウディオがターゼンに着いた翌日の夕方にジェス・ローレンス公爵も到着した。
公爵はクラウディオと同じ銀髪に青い目で、ロレンツォより遥かに立派な体格と佇まいだった。
夕食の席で、マルは緊張気味でジェスに挨拶したが、ジェスの方がより緊張しているようだったし、ジェスに対してはマルよりもクラウディオの方がぎこちなかった。
ジェスも、ロレンツォに促されて、やっとクラウディオに結婚の祝いを述べるくらいのぎこちなさで、マルはクラウディオはともかくジェスの様子はどうしたらいいか分からないという、戸惑いから来ているように感じた。
うーん。
長年の確執みたいだし、そんなに急には打ち解けないか。
ヒューゴが来たら、ちょっとは自然になるかな。
私では、どうしようもないしなあ。
マルはこの親子に関しては、とりあえずそっとしておくことにした。
***
婚礼の宴の2日前に、ケイトとヒューゴとソアラが到着した。
マルが玄関で出迎え、お客達は一度部屋に案内されてから、応接室で皆で対面した。
ロレンツォは、ケイトに帝都でマルが世話になった件で手厚く礼を述べた。
ケイトはマルについて、とても素晴らしいお嬢さんだと熱くロレンツォに語ってくれる。
ロレンツォとの挨拶を終えると、ケイトは座ったままになるイアンに跪いて目線を合わせた。
「こんにちは、イアン卿。マルからいろいろ聞いていたので、貴方に会うのをとても楽しみにしていました。」
「僕の方こそ、こうしてブランシュ侯に会えたのは、望外の喜びです。」
「ありがとうございます。貴方はとても美しい方ですね、と言うのは失礼になるでしょうか?」
「いいえ、構いません。でも、ブランシュ侯の力強い美しさの前では僕の美貌なんて大したことありませんよ。」
「ふふ、褒め返されてしまったな。」
ケイトはそう言って微笑んだ。
ケイトに微笑まれて、異性に対してこんな風にドキドキしたのは久しぶりだな、とイアンは思った。
きっとこの方には精霊の魅了の魔法も効かないんだろうな。
マルの嘘つき。
イアンに対面してソアラはまずそう思った。
肌の色以外は侍従の時の自分とそっくりって言ってたのに、全然違うじゃない。
イアンの髪も目もマルと一緒で、顔立ちも確かに似ているが、イアンの方が凛々しくておまけに色気があったし、何より、体つきがマルとは全然違った。
片足が不自由と聞いていたので、マルの男装と同じように線の細い青年だろうとソアラは思っていたのだが、服の上からでもしなやかな筋肉の様子が分かったし、立ち上がれば、そこそこの長身だろうと思われた。
こんなの、あがっちゃうじゃない。
ソアラは苦労して、できるだけ冷静にイアンに挨拶した。
***
「ねえ、イアン公子はなんであんなに美丈夫なの?僕、男にドキドキしたのは初めてだよ。」
応接室での一時の後、クラウディオはジェスとロレンツォと釣りに出かけて、ケイトはレイモンドに会いに行ったので、マルとソアラとヒューゴでのお茶の席でヒューゴは言った。
「美丈夫?」
「なんであんなに美しく、逞しいのかって聞いてるんだよ。」
「え?逞しい?」
マルはイアンが美しいのは疑問に思わなかった。
「細身だけどしっかりした体つきじゃないか。足が不自由なのに、あんな筋肉どうやってつけるの?」
「ああ、最近は少し筋肉をつける努力をしてるみたい。体幹がしっかりしてた方が右足にもいいから。あと、精霊の血が濃いっていったでしょう?ドリアードはなめらかで美しい肉体を好むから、血が濃いと皆あんな感じ。苦労しなくても肉体が美しい。」
「何それ、ずるくない?」
「ずるいよ。私なんかこんなに、ちんちくりんなのに。」
「ふはっ。」
マルの言葉にヒューゴは吹き出した。
「あっ、ひどい。ソアラもひどいと思うよね。」
マルが同意を求めてソアラを見ると、ソアラはぼんやりとしていた。
「本当に素敵だったわ。」
ぽつりとそう呟く。
マルはヒューゴを見た。
「ソアラ嬢は恋をしやすいんだよ。気にしなくていいよ。恋に恋してるやつだから。」
ヒューゴは肩をすくめてそう言った。




