夏の始まり①
太陽が照り付け梅雨から夏に変わるこの蒸し暑い時期に、学校へ続くこの長い坂道を歩くのはいかんせん酷なものだ。
つい十分前に家を出たばかりだというのに、もう汗だくになりながら歩いている。
「暑い...」
ふと、思った事を口に出した瞬間。隣を歩いている男が言った。
「さっき暑いって言葉は禁止って言ったろ」
「ごめん、つい口が滑った」
「まぁ確かに、ここ最近めっぽう暑くなったよな」
隣を歩いている男の名は、中村 琉聖。
幼稚園からの幼馴染で、臆病な僕とは違い昔から人前に出るのが得意で周りの人からの人望がある。
先月、僕の母親が他界した際も四年前に親友がいじめに遭って転校した際も僕のことを気にかけてくれている今では唯一の親友だ。
「そういえば優、再来週の日曜って暇?」
「再来週の日曜?んー、暇かな」
「そっかー」
おかしいおかしい、いつもの琉聖の誘い方じゃない。
いつもは、「今から遊ぼうぜ」とか「今度の土日暇だろ、俺んち来いよ」とか半強制的に連行されるのに、
この誘い方は、何か遠慮している誘い方だ。
「何で?」
「いや、夏祭り一緒に行かないかなぁって」
「それは毎年一緒に行っているから別にいいけど」
再来週の日曜日は、町の夏祭りがある。
毎年夏祭りには、二人で行っていて今まで約束なんてしたことなく、当日いきなり誘われるのがセオリーだったのに、
今年は事前に誘ってくるなんて絶対に何かある。
そんな事を考えていたら、琉聖が不意に口を開いた。
「女子もいるけどいい?」
「え?」
予想外の言葉に、僕は驚くと同時に遠慮していた理由を悟った。
「クラスの女子達から誘われた。毎年断ってはいたんだけど、優も一緒でもいいからって」
「ん、毎年!?」
いや考えてみれば、こんなに周りから人望があるのに今まで誰からも誘われていない方がおかしいか。
僕のことを一人にしないように気にかけてくれていたんだな。
「そういうことなら、遠慮しておくよ。今年くらいは琉聖を貸してあげよう」
僕はあえて自慢げに返事をすると、これまた意外な返事が笑い声とともに琉聖から返ってきた。
「なんで優が自慢げなんだよ、でもそれは俺が困るんだよな」
「どうして?」
「こりゃ最初の言い方がよくなかったな、単刀直入に言おう。優も女子に誘われてるんだよ」
「は?」
予想外の言葉に驚きを隠せず聞き返した。
「一体なんで?」
「分からん。でも、優が来てくれないと俺が困るのは確かだな」
「えぇぇ...そんな...」
一体、僕が何をしたというんだ。家族と琉聖以外の人と話すのも緊張するのに、女子と夏祭りなんて難易度ハードモードのゲームじゃないか。
でも、女子の誘いを断ると後で何をされるか分からないし、夏祭りに行くという選択肢しかないじゃないか。
「分かったよ、行くよ」
「すまない、助かる。優が女子と極力会話をせずに済むように場を回すよ」
「ありがとう、そうしてくれると助かるよ」
そう言って、僕達は暑さと不安の混じった変な汗をかきながら学校へ続く坂道を登っていった。




