9 隊長-5-
「世話になった」
アナグマのこの一言には多くの意味が含まれていた。
「気にするな」
レイテルの返事には一切の意味が込められていない。
「……そっちもいろいろ大変そうだな」
後ろ手に縛られたキンケルが憎々しげにレイテルを見た。
「部下に送らせよう。あの場所まで目隠しをさせてもらう」
来たときと同じく、アナグマたちは袋をかぶせられた。
左右に数名の部下がつくが、さすがに銃口を押し当てることまではしない。
「歩け。そのまままっすぐだ」
ここに来ることはもうないだろう、とアナグマは思った。
だが再会することはあり得る。
昨日、レイテルが語ったとおりならば、いずれここの連中は王族に戦いを挑むだろう。
戦場が近ければ相見える可能性もある。
(もしそうなったら、俺はどうすればいいんだ……?)
考える。
素知らぬ顔で見過ごすか。
今の生活を守るためにレイテルたちと一戦交えるか。
それとも彼らに加担するか。
「訊いていいか?」
アナグマはすぐ横にいる取り巻きにだけ聞こえるように言った。
「あの場所で俺たちを解放するということは、そこまでがお前たちのシマなのか?」
取り巻きは答えない。
「なあ――」
「シマというなら地上人だ」
「…………?」
「我々は地上人の行動範囲をある程度把握している。地下世界の者たちが地上人と接触しないよう監視するのも我々の仕事だ」
「そうなのか……だからあの時、姿を現したんだな」
「本来、交わることはなかった。お前たち調査団が活動域を広げたせいでこうなった」
責任を押しつけるような物言いにむっとしたアナグマだったが、事実にはちがいないので言い返せなかった。
(もしかしたらゴモジュ隊も地上人の活動域に入ってしまったのかもしれない。それで……)
地上人に襲われ散り散りになったのだろうか、と彼は思った。
「着いたぞ」
歩みが止まり、目隠しがはずされる。
三人の前に見覚えのある風景が広がっていた。
取り巻きのひとりがアナグマたちの持ち物を十メートルほど先に置いた。
荷物の中には武具も入っている。
受け渡しの際に万が一のことが起こらないようにとの措置だ。
「まっすぐに帰れ。いいか? 我々を尾行しようなどと考えるなよ」
「するものか」
キンケルを前に立たせ、アナグマたちは故郷へと歩み出した。
ダージが振り返ると、丘の上から監視している取り巻きたちと目が合った。
「徹底してるな」
と彼がつぶやくと、
「保護者ってあんな感じなんでしょうね、きっと」
アナグマも肩越しに振り返って言った。
しかしその動作もほんの一瞬のことである。
前には裏切り者のキンケルがいる。
少し目を離した隙に何をしでかすか分からない。
「戻ったらしなければならないことが山ほどあるぞ?」
からかうようにダージが言う。
「それを考えると今から気が重いですよ」
彼が特に懸念しているのは隊長の件だ。
はたして自分に隊長の任が務まるのか。
父ラメーゴの代から受け継いできた隊是を継承できるのか。
そもそも他の隊員が隊長として認めてくれるのか。
「心配するな。隊長がお前を指名したことは俺が証人になってやる」
不安げな顔を見て察してか、ダージは大仰に笑った。




